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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 25 サバイバル⑥

「いい、みんな。相手を人間だと思っちゃダメ、闇虫に取り憑かれた時点で、彼らは死んでいる。相手はただのゾンビ。それを肝に銘じて戦うこと。でないこっちがやられるわ」

 校庭に戻ったところで、光が言った。 

「でも、みんな元はこの島の人間だべ。あっしにはとてもそげなこと…」

 サトが悲しそうな顔をする。

「だったらサトは、一平を探すのに専念して。化け物たちは私たちで片づけるから」

「あの、ちょっといいかな」

 ふと思いついて、僕は手を上げた。

「あのちっこい影にも気をつけないと。俺たちが闇虫に取り憑かれたんじゃ、シャレにならないだろ」

「珍しくいいこと言うじゃない」

 光がうなずいた。

「そう、アキラ君の言うとおりよ。敵を倒すと必ず闇虫が次の宿主に乗り移ろうとして出てくるわ。それをいちいち全部殺してる余裕はないと思うから、せめて取り憑かれないように気をつけて」

「了解!」

 あずみが敬礼した。

 その拍子に、レモンイエローのタンクトップを押し上げる巨乳が、ぷるんと揺れた。

 ついでに言えば、腕を上げた際に見えたすべすべの腋の下が、妙に艶かしい。

「じゃ、まず、私が突っ込むから。あずみちゃん、援護お願い」

「アイアイサー!」

 コートを翼のように翻し、光が駆け出した。

「え? 正面突破かよ?」

 玄関めがけて突入していくふたりを見て、僕は唖然となった。

 もっと気の利いた策とかないのかよ?

 そう思ったのだ。

「うちらも行くべ」

 サトが僕の肘をつかんだ。

 強引に引っ張られ、僕はヨタヨタと走り出した。

 玄関のガラスドアの前で、ふたりに追いついた。

 ドアのガラスは粉々に割られていて、細かい破片となって足元を埋め尽くしている。

 正面のホールの奥に、靴箱が3列並んでいる。

 後ろから差し込む月明かりのせいで、中は懐中電灯が要らない程度には明るかった。

 左手に事務所らしき部屋。

 突き当りは壁で、そこから左右に廊下が伸びている。

 事務所と反対側に、二階に上がる階段があった。


「来る」

 あずみが言った。

 ざわざわと音がする。

 大量のゴキブリが這ってくるような、耳障りな音だ。

 左手の廊下から、毛むくじゃらの足が現れた。

 タランチュラを等身大に引き延ばしたような、大蜘蛛の群れである。

 その上に、ゆらゆら揺れる人間の上半身が生えている。

 それが、押し合いへし合いしながら廊下からあふれ出してくる。

 光が腰を落とした。

 革手袋をした右手にヨーヨーを握り、左手に紐の端についたグリップを握っている。

 光のヨーヨーの秘密は、その紐の部分にある。

 正確に言うと、それは紐などではない。

 顕微鏡で見ないと見えないほど細い、ナノ・カーボン繊維なのだ。

 極細で強靭なナノ・カーボンの糸は、触れる物をことごとく切り裂いてしまう。

 ヨーヨーとグリップの一部に、ダイヤモンドが埋め込まれているのはそのせいだった。

 一平の発明品だというその凶器を、このアルビノの女薬剤師は軽々と操って、かつて僕らと一緒にあの死線を潜り抜けてきたのである。

 廊下からあふれ出した人間蜘蛛たちが散開した。

 靴箱の隙間を縫ってこちらに迫ってくる。

「下がって」

 光が鋭く言った。

 靴箱の間の二本の通路から、二匹の人間蜘蛛が飛び出してきた。

 光の右腕が一閃したのは、その瞬間だった。

 ヨーヨーが、放物線を描いて二匹の鼻面をかすめて飛んだ。

 光が腕を大きく振り上げた。

 旋回したヨーヨーが唸りを上げて戻ってくる。

 その軌道上に化け物たちの首が入った。

 ぐふっ。

 二匹の化け物が、同時に呻いた。

 ずるりと首が傾いた。

 斜めの切り口を見せて、ズズズと滑った。

 首がゆっくりと背中のほうに倒れ、皮一枚でぶら下がる。

 目に見えないナノ・カーボンの糸が、その肉を骨ごと綺麗に断ち切ったのだ。

 が、敵の襲撃はまだ始まったばかりだった。

 首を失って動かなくなった二体を押しのけるようにして、後続がわらわらと出現した。

「今度はあずみの番」

 二本の金属バットを両手に下げたあずみが、前に進み出る。

 二匹同時に飛びかかってきた人間蜘蛛を、真上から振り下ろしたバットで一気に叩き潰した。

 派手な音を立てて靴箱が左右に倒れていく。

 仲間をやられて怒り狂った化け物どもが、一斉に押し寄せてきたのだ。

 その中にあずみが飛び込んでいく。

 バットが唸る。

 短いスカートが太腿の付け根までめくれ上がり、強烈なキックが炸裂する。

 たまにピンクのパンティが見えたりするが、さすがの僕もそれを鑑賞している心のゆとりはなかった。

 あずみの攻撃を逃れた化け物には、光のヨーヨーが飛んだ。

 玄関ホールが死体の山と化すのに、数分とかからなかった。

「さ、今度はアキラ君、あんたの番よ」

 光がふり向いて言った。

「あんたの武器で、あの闇虫を」

 なるほど、よく見ると、人間蜘蛛の死体の下から、夥しい数の闇虫たちが這い出てくるところだった。

 英の形をしたタールのように黒い影が、ひたひたと床を這ってこっちに近づいてくるのだ。

「任せなさい」

 僕は枕型の布袋を取り出した。

 土壌改良剤。

 成分は、酸化カルシウムの粉末である。

「あずみ、あれを」

 僕はあずみのほうに手を差し出した。

 指先が胸のふくらみに触れ。あずみが一瞬びくんと硬直した。

「あ、ごめ」

 僕は赤くなった。

 どうやら一番敏感なところを触ってしまったらしい。

「いいよ…お兄ちゃんなら」

 上目遣いに僕を見て、小声であずみが言った。

「で、あれって、なあに?」

「スポーツドリンク」

 気を取り直して、僕は答えた。

「それで闇虫を殺せるんだ」


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