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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 24 サバイバル⑤

 校舎の窓という窓に、不気味な影が蠢いている。

 昆虫の触覚のようなものもあれば、軟体動物の触手のようなものもある。

 最悪の事態だった。

 一刻も早く唯を救出しに行かねばならないのに、こともあろうに一平までもが敵に捕らえられてしまったのだ。

「こっちだべ」

 サトに先導され、壁に沿って校舎の裏に回った。

 正面にもうひとつ、古びた建物が現れた。

 校舎とは、短い渡り廊下でつながっている。

 これが体育館なのだろう。

 通用口に扉はなく、ぽっかりと暗い穴が口を開けていた。

 忍び寄り、中を覗いたサトが手を振った。

 OKの合図だった。

 通用口から中に入ると、そこは狭い通路だった。

 壁にいくつか扉が並んでいて、文字のかすれたプレートがかかっている。

 手前の扉を開けて、サトが中に入った。

 あずみ、光、僕の順で後に続く。

「好きなのを取るだ」

 大型懐中電灯で周囲を照らしながら、サトが言った。

「好きなのったって…」

 小部屋の中に転がっているのは、グローブだのサッカーボールだの、運動具の類ばかりである。

「あたし、これ!」

 うれしそうに言ってあずみが取り上げたのは、金属バットだった。

「2本もらっていいかな?」

「かまわねえべ。もう、野球なんて、だれもやんねえから」

「こっちにもドアがある」

 光がつぶやいて、跳び箱の脇の扉のノブに手をかけた。

「どうやら農具入れみたいね。これなんか使えそう」

 草刈り鎌を2本取り出すとサトに渡した。

「俺にも何か…。できれば猟銃とか、強そうなのを…」

「アキラ君はこれがいいかな」

 手渡されたのは、口をひもで縛った布袋である。

 枕くらいの大きさだが、かなり重い。

 ペンライトで照らしてみると、

『土壌改良剤』

 の文字。

「えーっと、これは?」

「酸化カルシウム。使い方、わかるよね?」

 酸化カルシウム?

 僕は記憶の底を探った。

 ん?

 これって、ひょっとして、あれか?

「ま、まあ」

「OK.じゃ、行こうか」

「待ってくんろ」

 サトが言った。

「動きにくいから、これ、脱ぐだべ」

 サトはスキューバダイビング用のウェットスーツを着ている。

 あずみに背中のファスナーを下ろしてもらうと、悪戦苦闘しながらそのゴムのスーツを脱ぎ捨てた。

 赤いスポーツブラにボクサーショーツが、頑強そうな体を覆っている。

 小柄ながら、立派なアスリートの体躯である。

「光さも脱いだらどうだべ。いくらなんでも夏にコートは暑いべ」

「私は新陳代謝が低いんでね。これでちょうどいいくらいなの」

 苦笑しながら、光が答えた時だった。

「なんか来た!」

 あずみが鋭く叫んだ。

 両手にバットを握って飛び出していく。

「あずみ!」

 僕はあわてて後を追った。

 ったく、無鉄砲にもほどがある!

 ホールに通じるほうから、黒い影が沸き出してきていた。

 毛むくじゃらの8本の足。

 その上に人間の体の乗ったあの蜘蛛男である。

 あずみがバットを持った右手を、大きくステップバックさせた。

「うおおおおお!」

 走りながら、片手でスィングする。

 風が巻き起こった。

 金属バットが空を切り、正確に化け物のこめかみを捉えた。

 グシャ。

 西瓜の潰れるような音がした。

 肉片や骨片とともに、どす黒い液体が壁に飛び散った。

 腐臭があたりにたちこめる。

「こりゃ、ゾンビだね」

 後ろから光が言った。

「少なくとも、人殺しの呵責は追わなくて済みそうだよ」

「気をつけるだ」

 死骸の口のあたりを指さして、サトが言った。

「あれが出てくる」

「はいよ」

 あずみがバットのグリップを、化け物の口にねじ込んだ。

 そのまま全体重をかけて、逃げ出しかけていた闇虫ごと、頭蓋を潰してしまった。

「さ、今度こそ行くよ」

 光が言った。

 ヨーヨーを右手に握っている。

「一気に一平を奪還するんだ」




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