挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
24/86

scene 23 サバイバル④

 鬱蒼と木の葉の生い茂る森を抜けると、サトの言葉通り、開けた場所に出た。

 少しすり鉢状に中央のへこんだ、だだっ広い草原である。

「わあ、綺麗」

 何事にもすぐ感動するあずみが、草原の上に広がる夜空を見上げて嘆声を漏らした。

 星である。

 空一面に、プラネタリウムさながらに星が出ているのだ。

 満天の星、というのは、まさにこのことをいうのだろう。

「廃校になった小学校ってのは、あれね」

 草原の底に目をやって、光が言った。

「んだ。建物が古くなったんで、改修するより移転したほうが早いだろうってことになって、去年の春、新しい小学校が本家の近くに開校しただ。島の北側のほうが人口も多いから」

「なんか不気味だなあ。ホラーゲームの舞台みたいじゃん」

 一平の感想はかなり的を射ていた。

 すり鉢の底にある小学校の敷地は、ちょうど僕らの行く手を阻むかのように横に長く広がっている。

 門扉ははずれて傾き、3階建ての建物は蔦に覆われ、窓はそのほとんどが割れてしまっていた。

 道はその学校の東側のブロック塀に沿うようにして丘を下り、浜辺のほうへと消えている。

「学校の裏手は切り立った崖になっちょるから、あの道でいったん浜に降りるしかないべ」

 サトが言うので、仕方なく僕らは廃校に向かって歩き出した。

 すり鉢の底まで降りたときのことである。

「あれ? 今何か動いたような気がしたけど、おいらの気のせいかな?」

 ふいに足を止めると、一平が言った。

 僕らは廃校の門の前まで来ていた。

 開け放しの門の間から、がらんとした校庭と、幽霊屋敷のような校舎が見える。

「動いたって、どこで?」

 あずみが訊くと、一平は校舎の正面玄関あたりを指さした。

「ほら、あの玄関のさ、左側の窓。ふつう、あの位置って、事務所か何かになってるよね」

「暗くてよく見えないけど」

 光が目を凝らすしぐさをする。

「気のせいだろ」

 今度は僕が鼻で笑ってやった。

「怖い怖いと思ってるから、ありもしないものが見えたりするんだよ。昔からな、『幽霊の 正体見たり 枯れ尾花』といって…」

「お兄ちゃん、何か出てきた!」

 あずみが叫んだのはその瞬間だった。

「う」

 僕は絶句した。

 なんだあれは?

 校舎の正面玄関。

 そこから突如として出現したのは、等身大の蜘蛛のような影だった。

 遠目だから細部まではよくわからない。

 が、イオンで遭遇した化け物たちの同類であることは、蜘蛛の背中部分に人間の胴体が生えていることからも明らかだ。

「逃げるべ」

 切迫した口調でサトが言った。

「無用な争いは避けるだよ」

「同感」

 僕はうなずいた。

「元はといえば、彼らは人間なんだ。殺していいかどうか、判断に迷うしな」

「何偉そうなこといってんだよ、おまえはなんにもできないくせに」

「俺は今、充電中なんだよ。まだ本気出してないだけさ」

 一平を適当にあしらうと、僕は小走りに走り始めたサトの後を追いかけようとした。

「うわ! 来やがった!」

 一平が叫んだ。

「なに?」

 振り向いた僕は、あっと声を上げた。

 すぐそこまで蜘蛛型の怪物が迫ってきている。

 それが、かっと口を開くと、突然糸のようなものを吐き出し始めたのだ。

「や、やめろ!」

 狙われたのは、一平だった。

 ネバネバの糸に絡め取られ、見る間に白い繭みたいになっていく。

「一平!」

 コートを翻して引き返してきた光の手から、ヨーヨーが飛んだ。

 が、蜘蛛人間のほうが速かった。

 8本の足をせわしなく動かして、一平を引きずりながらすごいスピードで走り去っていく。

「一平君! 今助けるから!」

 飛び出そうとしたあずみの腕を、サトがつかんで引き留めた。

「待ちなって、やつら、一匹じゃねえ。ほら」

 その通りだった。

 校舎の窓という窓。

 さっきまで何もなかったそこから、黒い影がうようよ蠢いているのが見て取れる。

 毛むくじゃらの足。

 いやらしい触角。

 ここはあの蜘蛛人間の”巣”みたいなものに違いない。

「ここへ来る途中の家、みんなもぬけのカラって感じだったけど」

 光が低く押し殺した口調でつぶやいた。

「ひょっとして、この一帯の住民はみんな闇虫に取り憑かれて、あの学校に集まってるのかもね」

「それなら尚更早く一平君を助けなきゃ」

 あずみが今にも泣き出しそうな声で言う。

「武器が要るだ」

 サトが言った。

「敵はあの数だ。丸腰ではいくらあずみでも無理だべ。それに、アキラさも武器さえあれば、何かの役に立つかもしれねえべ」

 何かの役、というのはずいぶん控えめな表現だったが、これまでの活躍ぶりから考えて、そういわれてしまうのは仕方のないことかもしれなかった。

「でも、武器なんてどこにあるの?」

 唯一、殺人ヨーヨーを所持する光が、首をかしげてサトを見る。

「校舎の裏に体育館があるべ、その倉庫の中になら、野球のバットぐれえはあるはずだべ」

 僕は呆気にとられた。

「野球の、バット?」

 武器って、それか?

 そんなものが果たしてあの化け物たちに有効か?

 ふと、そう思ったからである。








+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ