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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 22 サバイバル③

 境内に宵闇が迫ってきている。

 陽が完全に沈んでしまったのだ。

 境内の四隅に立てられた常夜灯だけが、かろうじて闇の侵入を防いでいる。

 まさにそんな感じだった。

「私と一平が受け取ったのは、こんなメール」

 光がスマホを見せた。


≫荒神島の巫女、青柳唯を守り、闇虫どもを殲滅せよ。

≫立ち上がれ、あずみとともに。

≫第1ラウンド:ドーム前イオン1階食料品売り場 


 その下に日時が書いてあり、

 最後は、

≫健闘を祈る。

≫36

 とあった。

「なんだい、この36って?」

 僕が訊くと、

「わかんねーのかよ、大学生にもなって」

 一平が嗤った。

「”36”っていったら、”ミロク”に決まってるだろ?」

 僕は憮然とした。

 くだらない。

 小学生レベルの駄洒落じゃないか。

 が、それだけに確信せざるを得なかった。

 間違いない。

 これはあのダメ親父、コースケからのメッセージに違いない。

「それにしても、お父さんは、どうしてそんなにその闇虫っていうのを恐れるのかな。闇虫って、イオンで戦った化け物に取り憑いてた、あの小さな生き物のことなんでしょ? あれ、ちょっと握っただけで簡単に潰れちゃったし、ずいぶん弱そうだったんだけど」

 ようやく落ち着きを取り戻したらしく、平静な口調に戻って、あずみが言った。

「ああ、それは俺も思ったよ。なんだか黒い影みたいなやつだったよな」

 僕が賛同の意を表明すると、

 光が「ノンノン」という具合に、メトロノームよろしく人差し指を左右に振った。

「単体での強い弱いは、この際関係ないわ。あなたたちも見たでしょ? あれが宿主を乗り換えるところ?
 いってみればあれはゾンビウィルスみたいなもの。取り憑かれた人間は化け物に変身してしまう。たった3匹の闇虫であの騒ぎだったんだもの、あれが大挙して人間社会に侵入してきたら、どうなるかわかるよね」

「まあ、確かに」

「それに私、ひょっとしてあれ、端末みたいなものなんじゃないかと思うの。なぜって、最初に現れた怪物たちは、正確に唯ちゃんを狙ってきたんでしょ? アキラ君、あなたがそう話してくれたんじゃなかったっけ」

「うん」

 僕はうなずいた。

「そういえばそうだった。なんか気持ちの悪い声で、この女食えるか、とか、ほねぐるまさまがどうとか、わめいてた気がする」

「骨車さま…?」

 サトの顔が青ざめた。

「知ってるの?」

 あずみが訊いた。

「そ、その名前、夜、口にしちゃなんねえべ」

 何事にも動じないサトが、震えている。

「それより、早く出発するだ。暗くなると、また外道どもがやってくるだべ」

「そうね」

 コートについた埃を払いながら、すっくと光が立ち上がった。

「ここから青柳本家までは、どのくらいあるの?」

「この寺を抜けてしばらく行くと、草原に出るだ。そこに廃校になった小学校があるから、それを迂回して一度浜辺に降りる。あとは渚に沿って道なりに歩けばいいだべ」

「ってなんか、けっこう遠そうなんだけど」

 一平が早速弱音を吐く。

「あっしの足で1時間くれえだから、大したことなかんべ」

「なかんべじゃねーって」

 河豚のように膨れる一平。

「山猿みたいなサトの足で1時間なんて、ガチで遠距離だっつーの!」

「サトを責めてどうするの? 文句ばっかり言ってると、あんたなんか置いてくからね」

「ちょっとお、それはないよ、姉貴ったら」

 光に一喝され、しぶしぶ腰を上げる一平。

「あ、そういえば」

 僕はふと思いついて、前を行くサトの背中に声をかけた。

「このお寺って、尼寺かい?」

「うんにゃ」

 振り向いて、サトが首を振る。

「またそんなこと訊いて。アキラさは、よっぽど尼寺が好きなんだなあ」

「い、いや、そういうわけじゃ」

 僕は笑ってごまかした。

 あまでら…。

 今思うと、あれは確かにコースケの声だった。

 しかし、意味が分からない。

 クソっ。

 いったい、なんだっていうんだよ?



 境内を抜け、寂れた本殿の後ろに回ると、そこはまた盛だった。

 木々の間に、けもの道みたいな細い道が口を開けている。

 リュックから光が大型懐中電灯を取り出し、サトに手渡した。

「道案内、頼むわね」

「あいよ」

 足元を照らしながら、下草をかき分けてサトが森の中に入っていく。

 その後ろに光、そして一平が続いた。

 あずみが手を握ってきた。

「さっきの光さんの話を聞いて、思ったんだけど」

 僕に身体をくっつけてきて、囁いた。

「闇虫が端末だとすると、当然何者かに操られてることになるよね」

「そうだな。おそらく、”離れ”に潜む”何か”だろうな」

「それって、もしかしてアイツじゃないかな」

「あいつ?」

「ほら、お兄ちゃんも、思い出したなら、覚えてるでしょう? 四天王に成りすましてたあの少年」

 突然、僕の脳裏に、赤い唇のイメージが去来した。

 銀髪アルビノの、光を男にしたような美少年。

「ツクヨミ…」

 僕がうめくように言うと、

 あずみが大きくうなずいた。

「ってことは、ここに、”あれ”も、いたりして…」

「あれって?」

 いやな予感がした。

 あずみが僕の眼をじっと見る。

 予感は当たった。

 あずみは言ったのだ。

 ただ一言。

 そう。

「八岐大蛇」

 と。











 
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