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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第2章 サバイバル

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scene 21 サバイバル②

 今から2ヶ月ほど前。 

 ゴールデンウィーク直後のことだったという。  

 きっかけは隕石だった。

 静岡県西ノ浦市。

 そのはずれにある『疫病予防センター』を、宝くじ並みの確率でゴルフボール大の隕石が直撃したのだ。

 爆発とともに研究棟の一郭が吹き飛んだ。

 問題は、そこに最近アフリカで発見された謎の奇病のウィルスが保管されていたことだった。

 俗称”ゾンビウィルス”である。

 それが、一気に飛散した。

 そして、世界にゾンビが満ち溢れた…。

  と、その当時は、誰もが思っていた。

  ところがそれは、フェイクだったのだ。

  疫病予防センターに落ちたのは、宇宙船だった。

  落としたのは、神である。

 目的は、人類のDNAに仕込まれた、幻の第4惑星の民、マルデック人の戦士を覚醒させるため。

 ゾンビウィルスは、マルデックの資質を活性化させるための起爆剤だったのだ。

 神が人類に甚大な損害を与えてまでマルデックの戦士を欲したのには、理由があった。

 別の平行宇宙からの侵略者、”闇虫”を迎え撃つためである。

 そして、覚醒した戦士のひとりが、こともあろうに、僕の妹、あずみだったというわけだ。

 僕は、あずみをゾンビ化から救うつもりで、光や一平とともに爆心地である疫病予防センターに赴き、そこで”神”に出会い、事の真相を知らされた。

 その”神”こそが、こともあろうに、行方不明の僕らの父、出雲幸助だったのだ。

 なんでも、デリヘルの取材中に突然神の降臨を受け、弥勒菩薩に進化してしまったというのである。

 弥勒と化したコースケは、この宇宙に迫る根源的な破滅を予感し、ゾンビによる人類の終焉という大芝居を打ち、全世界でわずか5人のマルデック戦士を覚醒させた。

 そして、目的を達成した後、持てる力のすべてを使って時間を数日巻き戻し、世界をゾンビウィルスが蔓延する前の状態に戻したのだという。

 人類に、マルデック戦士と共闘して、闇虫に立ち向かうチャンスを与えるためである。



 というのが、光が語った話の内容だった。

 いつもなら、

「ほら話にもほどがある!」

 と椅子を蹴って席を立つところである。

 が、ようやく僕も思い出しかけていた。

 イオンでのヤクザやゾンビとの死闘。

 途中で出会ったゾンビ化した猛獣の群れ。

 ケルベロスに襲われたこと。

 そして宇宙船の中に居た悪魔たち。

 まったく、驚天動地という言葉も生易しいほどの壮絶な体験の記憶が、光の物語が進むにつれてまざまざと思い出されてきたのだった。

「…そうだった」

 僕は深々とため息をつくと、隣に腰かけているあずみに目をやった。

 かつて地球と火星の間には、高度な文明の栄えたマルデックなる惑星があったという。

 そのマルデックが、今から20万年前、滅亡した。

 辛くも地球に逃れた一部のマルデックの民は、地球にコロニーを築き、原始人類たちと交流しながら己の遺伝子をその中に残して消えていった。

 あずみはそのマルデック人のいわば”先祖返り”なのだ。

 しかも、ただのマルデック人ではなく、戦士の血脈を継ぐ者なのだという。

 どうりでハイスペックなはずだった。

 そう。

 あずみはもう、僕の可愛い妹ではなくなってしまっていたのである。

「そんな目で見ないで」

 あずみが悲しそうな顔をして、言った。

「だからお兄ちゃんが記憶を取り戻すの、嫌だったんだ」

 うつむいて、ぽつりとつぶやいた。

「わかったかよ、アキラ。あずみとおまえとでは、身分というか、人間の出来が違うんだよ」

 一平が、残酷な現実を突きつけてきた。

「だよな」

 僕は力なくうなずいた。

「思い出す前から、なんとなくわかってたさ、そんなこと」

「まあ、そんなに落ち込まないで」

 光が慰めるように言った。

「マルデックの戦士といっても、あずみちゃん、身体能力以外は、あなたの大切な妹のままなんでしょ? むしろ、心強い妹の存在を、喜んで受け入れるべきだと思うんだけど」

「ありがとう…光さん」

 あずみが涙ぐんだ。

「わけがわかんねえべ」

 ぼやいたのは、サトである。

「そのマルデックとか時間の巻き戻しとかって、何のことだ? それが唯お嬢様に何の関係がある?」

「簡単に言うとね」

 光が二本目の煙草に火をつけた。

「これは闇虫との局地戦なのよ。私のスマホにコースケさんからのメッセージが届いたのは、一週間前のこと。時間の作用に巻き込まれて、すっかり記憶を失っていた私に、彼は言ったわ。『立ち上がれ、あずみとともに』って。それですべてを思い出したってわけ」

「立ち上がれ、あずみとともに…」

 僕はその言葉を反芻した。

 僕のスマホにかかってきたメッセージは、

「あまでら」

 である。

 なんなんだ? ”あまでら”って?

「お兄ちゃん」

 あずみがおずおずと僕の手に触れてきた。

 なんだかすがるような目をしている。

「誰が何と言おうと、あずみはあずみだよ」

 今にも泣き出しそうに、瞳をウルウルさせていた。

「わかってるって」

 僕はそっとあずみの手を握り返すと、にっと笑って言った。

「たとえ100メートル6秒で走ろうと、おまえは俺のたったひとりの妹だ。その事実に間違いはないさ」












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