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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第2章 サバイバル

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scene 20 サバイバル①

「乗り込むったって、どうするんだよ?」

 島の中央にそびえる黒い壁のほうを眺めながら、放心したように一平が言った。

 唯を鉤爪でつかんだまま、人面鳥はその壁の向こうに消えたのだった。

「ここからあの山まではずいぶん距離があるし、それにおいら、腹が減って、もう死にそうなんだけど」

「んだ」

 サトがうなずいた。

 頬に涙の痕が残っているが、サトはもう落ち着きを取り戻していた。

「一度、本家に帰ったほうがいいだ。そこで、準備を整えてから、”離れ”へ向かうべ」

 ”離れ”というのは、あのカルデラの中にあるといわれる、闇虫に取り憑かれた人間たちの住処である。

「ごめんなさい。追いつけなかった」

 そこへあずみが戻ってきた。

 悄然とした様子をしていた。

 サトもあずみも、唯本人に選ばれたボディガードである。

 それが、島に着く早々、任務に失敗してしまったのだから、落ち込むのは当然だろう。

「気にするな。おまえのせいじゃない」

 僕はあずみの肩に手をやった。

「今、ちょうど話してたところさ。いったん青柳本家に寄って、唯救出の準備を整えようって。みんな、かなり疲れてるし、空腹も耐え難い」

「でも、その間に唯が…」

 殺されたりしたら、とあずみはいいたかったのだろう。

 が、それを遮ったのは、サトだった。

「お嬢様は本家の巫女だべ。霊能力も強いから、そんなに簡単に殺されたりしねえ」

「でも、闇虫にたちにとっては、彼女は邪魔者なんでしょう?」

「んだが、お嬢様は”光”だ。闇を照らす光の資質を備えてるだ。まだ、その力、外に現れてはいねげど」

「サトを信じよう」

 一同を見回して、僕は言った。

「唯はしばらくは大丈夫だ。とにかくここにいても仕方がない。先に進もうぜ。さあ、サト、案内を頼む」


 家々の間を縫うようにしてうねる細道を、縦一列になって進んだ。

 不気味なのは、周囲にこんなにたくさん家があるのに、人の気配がまるでないことだった。

 磯女や人面鳥の襲撃の際も、誰ひとりとして外に出て来なかったのである。

 あんなに騒がしかったにもかかわらず、だ。

 島には夕闇が迫り始めていた。

 まばらに立った街路灯が、夜を感知して自動的に光を放ち始めていた。

 道は延々と先に伸びている。

 一応アスファルトで固められてはいるが、でこぼこしていて、歩きにくいことこの上ない。

「もう少しで寺だ。そこで少し休むべ」

 先頭を歩くサトが言った。

 ありがたい提案だった。

 1時間近くも歩き続けて、僕の足はそろそろ棒になりかけていたからである。

 周りの民家はまばらになり、左右には鬱蒼とした森が続いている。

 そのせいか、このあたりでは潮の香りよりも、植物の青臭い匂いのほうが強くなっていた。

 木々の間から見える群青色の空に星が瞬き始めた頃、目の前に急勾配の石段が現れた。

 何百段もありそうな石段の果てに、傾いた鳥居が立っているのか見える。

「げ、これ登るのかよ」

 一平がうんざりしたようにうめいた。

 僕も同感だった。

 初めてこの生意気な少年と、気が合ったようだ。

「おんぶしてあげようか? お兄ちゃん」

 あずみが囁きかけてきたが、さすがにその誘惑に乗るわけにはいかず、僕は鉛と化した足を懸命に動かして、石段を登り始めた。

 壮絶な苦行の末たどり着いたのは、がらんとした狭い境内だった。

 周りを見回すと、廃寺らしく、本殿も社務所も薄汚く汚れ、闇に半ば沈みかけていた。

 屋根のある休憩所を見つけ、5人でベンチに腰かけた。

「これ、食べて。少ないけど、ないよりマシでしょう?」

 光がおろしたリュックから、お菓子の詰め合わせを出してきた。

 銀紙に包んだチョコレートを、ひとり2つずつ、配ってくれる。

 さすが年の功。

 準備がいい。

 光のくれたチョコは、涙が出るほどおいしかった。

 が、その分、胃袋が刺激されて、余計に空腹が募ってきたのは否めない。

 傍らに井戸があり、釣瓶で水を汲んでみると、十分に澄んでいていけそうだった。

 味を確かめてOKサインを出し、腹一杯に代わる代わる飲んだ。

 人心地ついたところで、煙草に火をつけ、僕は光にたずねた。

「ねえ、もうそろそろ、教えてくれてもいいんじゃないですか? 2か月前に何があったのか。俺たちはどうやって知り合ったのか。いい加減、俺、消えた記憶を取り戻したいんですけど」

「そうね」

 同じように煙草に火をつけ、光がうなずいた。

「いいわ。話してあげる。むちゃくちゃな内容なんで、すぐには信じられないと思うけど」

「簡単に言うとだ」

 横から口を挟んできたのは、一平である。

「世界は一度、滅びたんだよ。ゾンビだらけになってさ。で、それをやった張本人ってのが…いいか? 聞いて驚くなよ」

「もったいつけるなよ。それ、誰なんだよ?」

 それに答えたのはあずみだった。

 うなだれて膝の上に置いた手を見つめたまま、ぽつりと言った。

「コースケ。そう、あたしたちのお父さん」






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