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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
19/85

scene 18 海と空の罠⑥

 鳥?

 木の葉を撒き散らして宙に舞い上がったのは、3羽の鳥だった。

 かなり大きい。

 翼長は2メートル近くありそうだ。

 鷹や鷲のような猛禽類のように見える。

 でも、どこかが違う。

 1羽が滑空を開始した。

 近づくにつれ、普通の鳥でないことが明らかになった。

 顔である。

 嘴の生えた鳥類の頭部の代わりに、人間の女の顔が生えている。

まなじりを釣り上げた、般若そっくりの女の顔だった。

「またヤバいのが出て来やがった」

 一平が背中のリュックからボウガンを取り出した。

 慣れた手つきで狙いを定めると、一瞬のためらいも見せず、撃った。

 ギャアアア!

 悲鳴を上げて、接近中の1羽が空中で硬直した。

 一平の射た矢が首筋を貫いたのだ。

 今度はあずみが動いた。

 道の端に立っている道路標識に駆け寄ると、その支柱に両手をかける。

 上腕部と太腿に、よじれた縄のような筋肉の束が浮き上がる。

 鋼鉄の支柱が飴のようにぐにゃりと曲がった。

「おりゃあ!」

 裂帛れっぱくの気合が、あずみの喉からほとばしる。

「うひゃあ、マジかよ」

 一平が腰を抜かした。

 無理もない。

 あずみが素手で根元から道路標識をねじ切ってしまったのである。

 唯とサトは、車の横に佇んで、そんなあずみをぽかんと見つめている。

 光だけが運転席に乗り込んでいた。

 空では2羽めが旋回を始めていた。

 警戒して逃げたのか、もう1羽の姿はない。

 怪鳥が滑空を開始した。

 唯を狙っているのは明らかだった。

 あずみが標識を右腕で掲げ持ち、大きくテイクバックする。

 ねじ切れて尖った根元のほうを、迫り来る化け物に向けている。

 それを、槍投げの要領で、投げた。

 ブンと空を切る音に続いて、ドンという鈍い音が響く。

 空中で、怪鳥が串刺しになっていた。

 腹から背中にかけてを、道路標識が貫いている。

 声も立てず、羽毛と血を撒き散らしながら森の中へと落ちていった。

「楽勝だね」

 戻ってくるあずみに向かって、一平が手を振った。

「たまげただ」

 そんなふたりを交互に眺めながら、サトが呆然とつぶやいた。

「あんたら、何もんだべ?」

「名乗るほどの者じゃないさ」

 一平が得意げに、指で鼻の脇をこすって言った。

「一平ったら、何気取ってるの。さ、出発だよ。さ、みんな、乗って」

 運転席から身を乗り出して、光が言う。

「あいよ」

 一平がふざけた返事を返した、そのときだった。

 ふいに空が暗くなった。

 そして次の瞬間、だしぬけに唸りを上げて太い丸太のようなものが車の上に落ちてきた。

「光さん、逃げて!」

 あずみの叫び声がした。

 鱗だらけの長い尾だった。

 見ると、あずみが両手を頭上に上げ、間一髪のところでそれの一撃を阻止していた。

 そのままつかんだ尻尾を引っ張って小脇に抱えると、自分の体に巻きつけるようにする。

「磯女…」

 運転席からまろび出てきた光が、一平に助け起こされながらひとりごちた。

 うかつだった。

 さっきのあの海の化け物は、海中に戻っていったわけではなかったのだ。

 いつのまにか砂浜に上陸し、堤防の下から僕らの隙を窺っていたのに違いない。

「ここはあたしにまかせて!」

 磯女の長い胴を体に巻きつけ、あずみが叫んだ。

 怪力に物をいわせて、化け物を道路の上に引きずり上げようというのだろう。

「こっちだべ」

 サトが家々の間を指さした。

 狭い路地の入口が見えた。

「本家への近道だべ。ちょっと道が険しいけど」

 なるほどその細い道は、重なる積み木のような民家の間を縫いながら、山の億のほうへと続いているらしい。

 サトが唯の手を引いて走り出した。

 その後を、光と一平が続く。

 僕は迷った。

 任せて、といわれても、大事な妹を置いていくわけにはいかないのだ。

「お兄ちゃん、行って!」

 あずみが僕を見た。

「あずみは大丈夫だから!」

「あずみ!」

 叫んだ時、堤防の向こうから、伸びあがるように磯女の上半身が現れた。

 青黒い鱗に覆われた胴。

 胸から上は、人間の女そのものだ。

 が、サイズが違い過ぎる。

 とにかくでかいのだ。

「おまえ、くって、やる」

 化け物が、カッと口を開けた。

 上半身を一瞬後ろにたわめると、反動をつけてあずみに襲いかかった。

 あずみは尾に巻かれて動けない。

「あずみ!」

 今度こそ、僕は絶叫した。












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