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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 15 海と空の罠③

 振り返ると、そこに一平がいた。

 右手にあのでかいハンドガンを握り、行く手の海を見つめている。

 一平の武器は、片手で扱えるように改良したボウガンである。

「前はさ、レールガン使ってたんだけど、あれガチで電気食いすぎるし、バッテリー重いんで、省エネタイプに変えたんだよ」

 きのう、地下酒場で話し込んだ時、一平はそんなことを言っていた。

 姉の光によると、とにかくこの少年、学校の成績は最悪だが、武器を作ることにかけては天才的な才能を発揮するのだという。

 光が駆使するナノ・カーボン製殺人ヨーヨーも一平の発明だというのだから、あながちそれも嘘ではないようだった。

「で、どこなんだよ? その妖怪ってのは?」

 舳先から身を乗り出して、一平が言う。

「見えねえか? ほら、あすこ。海の色が変わってっぺ?」

 サトが指さすほうに視線をやった僕は、うっとうめいた。

 島はもう、細部が見て取れるくらいまで近づいてきているのだが、船と岸とのちょうど中間あたりの海面が、なるほど確かにピンク色に染まっているのだ。

「赤潮か?」

 僕は目を凝らした。

 ピンクの帯は、船の行く手を阻むみたいに、みるみるうちに左右に広がっていく。

「うんにゃ、亡者だよ」

 サトが言ったとたん、ピンクの帯からなにやら半透明のものが無数に伸びあがった。

 海藻のようにゆらゆら揺れるそれは、

 ”腕”だった。

 何十本、いや、何百本もの細い手が海から生え、おいでおいでをするように手首を動かしているのだ。

「どうしたの?」

 ドタドタという複数の足音とともに、あずみの声がした。

「出たみたいだね」

 光もいる。

「あ、お嬢様」

 サトが目を丸くして操縦席から立ち上がった。

「危険です。お嬢様はキャビンにお戻りくだせえ」

「いいのよ、サト。それより、あれを一気に突っ切って」

 あずみと光にはさまれて、唯が佇んでいた。

 しなやかなストレートヘアを強い風にたなびかせている。

「だども…」

 ピンクの帯はもう目の前だ。

 船に、あの気味の悪い手の群れが今にも触れそうなほど、近くまで来ている。

「いいもん見っけ」

 ためらうサトを尻目に、一平が操縦席にもぐりこんだ。

 赤いポリタンクを抱えて戻ってくると、キャップをはすして中身を海面にぶちまげた。

「おい、こら、何すんだ」

 サトが叱った。

 が、一平はサトの叱責などどこ吹く風といったふうで、今度は僕のほうに向き直ると、

「アキラ、ライター」

 やにわに片手を突き出した。

「お、おまえ…」

 抗議するつもりが、その逆に言われるまま反射的に百円ライターを渡してしまうところが、僕の弱さである。

 一平がボウガンから突き出た矢の先に火をつけた。

「いちいち撃ってたら、矢がいくらあっても足りないからな」

 ピンクの帯に狙いをつけ、撃った。

きれいな放物線を描いて、炎の矢が飛んだ、

 流れ出たガソリンに引火して、ボウッと帯状に火の手が上がった。

 きゃあああああ!

 甲高い悲鳴が、風に紛れて耳に届いてきた。

「んもう! 乱暴なガキンチョじゃな!」

 サトがわめいて操縦席に飛び込んだ。

 船が尻を叩かれた馬のように、大きく跳ね上がった。

 エンジン音が急速に高まっていく。

「みんな、伏せて!」

 光が叫ぶ。

 そのまま炎の帯に頭から突っ込んだ。

 その瞬間、

 突然、船体に衝撃が走った。

 何か大きなものが左舷にぶつかったのだ。

 足をすくわれ、甲板に転がった。

 地面がどんどん右を下にして傾いていく。

 ずるっと体が滑った。

「うわああああ!」

 懸命に手足をばたつかせるが、つかまるものがない。

 下を見ると、スニーカーの向こうに燃え盛る海面が見えていた。

 まずい!

 まずいぞ!

 このままでは、マジやばすぎる!

「お兄ちゃん、つかまって!」

 と、聞き慣れた声とともに、何か白いものが視界の隅をかすめた。

 懸命に首をねじって見上げると、目と鼻の先にあずみの足があった。

 あずみがマストの支柱につかまり、僕のほうへと足を伸ばしてくれているのだった。

 超ミニのスカートの中が、丸見えになっている。

「きょうは、ピンクか」

 覚えずそうつぶやいたとき、

「馬鹿なこと言ってないで、つかまって、早く!」

 あずみがつま先で頭を蹴ってきた。

 適度に締まった足首をつかみ、ふくらはぎからムチムチの太腿へと手を伸ばし、身体をずり上げていく。

「きゃはは、くすぐったいよ! お兄ちゃん」

 形のいい尻に頭を乗せ、少し休憩していると、あずみが身もだえした。

「遊んでる場合かよ!」

 一平の声。

 見ると、他の4人は操縦席の中だった。

「なんかガチでヤバいもん出てきたから、せえの! で海に飛び込むぜ」

 ガチで、ヤバいもん?

 何のことだ?

 あずみの尻に頬をくっつけて心の中で首をかしげたときである。

 ふいに陽が翳ったかと思うと、生臭い臭いがあたりに充満した。

「わ、何あれ?」

 あずみが息を呑むのがわかった。

 そして僕も見た。

 巨大で、とてつもなくおぞましいものが、船にのしかかっていた。

 こ、これは…?

「さあ、炎を抜けたわ。みんな、飛び込むよ!」

 光が叫んだ瞬間、それがぐわっと大口を開けた。







 
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