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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第1章 因習の島

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scene 14 海と空の罠②

 どどどど…。

 小刻みなエンジンの振動と、波による横揺れが船体を揺すぶっている。

「お、俺、ちょっと外の空気、吸ってくるよ」

 だんだん気分が悪くなってきて、僕はトランプの札を配ろうとしているあずみに言った。

 ちょっとしたマンションの一室を思わせる、洒落たキャビンである。

 真ん中のテーブルを囲むようにして、両サイドにソファ。

 小ぢんまりとしたキッチンとワインセラーも設置されている。

 見た目は抜群にスタイリッシュなのだが、船底に近いせいでとにかく揺れる。

 5分としないうちに、僕の胃袋はひっくり返りそうになっていた。

 あずみの提案で、一同、ポーカーを始めたところだった。

 島に着くまで1時間半ばかりかかるということで、その間にお互い親睦を深めておこうというわけだ。

「あー、お兄ちゃん、ひょっとして酔っちゃった?」

 あずみが核心を突いてきたが、兄たるもの、ここで素直に肯定するわけにはいかなかった。

「い、いや、ついでに偵察してこようかと思って。島の化け物が、急に襲ってこないとも限らないだろ?」

「ここ、海の真ん中なのに?」

「半魚人か何か、居るかもしれないじゃないか」

「可能性として、なくはないね」

 配られたカードを扇形に開きながら、光がつぶやいた。

「でも、出るとしたら海坊主かな」

「船から落っこちないように、気をつけて」

 トランプから目も上げず、そっけない口調で言ったのは、唯である。

「あんまりあずみに迷惑かけないでね。彼女は私のボディガードなんだから」

 ボディガードなら、サトがいるだろ?

 と、喉まで出かかったが、さすがに大人げないので、こみあげる胃液とともにグッと飲み込んだ。

 とにかく今は外に出なければ。


 海に向かって吐き、甲板で手すりにもたれて潮風に当たっていると、ようやく人心地がついてきた。

 ずっとそうしているわけにもいかないので、落ち着いたところで手すりにつかまりながら船首のほうに移動する。

 船の前部には操縦席があり、操縦桿を握ったサトが、シートから半立ちになって、前方を見つめていた。

 湾から沖に出たせいか、波も荒く風が強い。

「あの、ちょっといいかな?」

 波の音に負けまいと、僕はかなり接近してから、サトに声をかけた。

「君、なんて名前?」

 いきなりサトと呼び捨てにするわけにもいかないので、一応そこから会話を始めることにした。

「十文字サト。だども、ただのサトでいい」

 僕を訝しげに見やると ハリネズミの針のような髪を海風になびかせながら、サトが答えた。

 十文字?

 なんだかすごく由緒正しそうな苗字である。

「あんた、お嬢様の友達の兄者だな? サトに何か用か?」

 潮風に目を細めて、サトが訊く。

 近くでよく見ると、年相応の娘らしい、素朴でそれなりに可愛い顔をしている。

 ただあまりによく日に焼けているので、遠目では造作がよくわからなかっただけなのだ。

「あのさ、訊きたいことがあるんだけど」

「何だべ?」

「荒神島に、尼寺って、あるかな?」

「あまでら?」

 サトがきょとんとした顔をする。

「そう、尼寺」

 僕は、きのうの電話の内容を思い出していた。

 難を逃れて避難した地下酒場。

 僕のスマホにかかってきた電話の主は、ただ一言、

 -アマデラ…。

 それだけ告げると、通話を切ってしまったのだ。

 男の声だということはわかった。

 が、通話時間が短すぎて、誰の声なのかまでは聴き分けられなかった。

 不思議に思って調べてみると、なぜか着信記録も残っていない有様だった。

 あり得なかった。

 バグだろうか?

 それとも誰かのイタズラ?

 あるいは暗号?

 その後2度とかかってこなかったので忘れてしまっていたのだが、さっき海に向かって嘔吐しているときに、ふと思い出したのである。

「そんなもの、なかっぺ」

 しばらくして、サトが言った。

「寺はあるけど、尼寺じゃなかよ」

「だよなあ」

 島に尼寺なんて、僕だって聞いたことがない。

 だとすると、あれは何だったのか…?

「それより、外ふらふらしてると、海神様に捕まって、海中に引き込まれんぞ」

 ぼくを横目で見て、サトが脅すように言った。

「海神さま?」

「んだ。荒神島は、名前の通り、神々の島。神様の中には、いい神様もおれば、悪い神様もおる」

「まあ、八百万やおろずの神ってのは、だいたい二面性持ってるからね。豊穣の神も、あるときは祟りなす神に成り得るわけで…」

「難しいことはわがんね。けんど、島の神はよそ者が嫌いだし、特に今は、荒神祭が近いんで、神様たちはみんな気が立ってる」

「でも、君はひとりで、無事、本家から本土まで来れたわけなんだろう?」

「サトは島の生まれだ。それに身分もたがくねから、神様も魔物も鼻もひっかけない。だども、帰りは違う。よそ者のあんたらが居るし、なによりもお嬢様が乗ってらっしゃる。神様や魔物の中には、巫女を目の敵にする輩も多い。いいがだ悪いかもしれねげど、女子供でお嬢様を守り切れるとは、とても思えねえ。だがら、お嬢様の身は、このサトが守らねば」

「気持ちはわかるよ」

 僕はサトの隣のシートに座った。

 車でいえば、助手席にあたる位置である。

「ただ、あの3人は、けっこうわけありでね」

 煙草に火をつけて、言った。

「いわば妖怪ハンターみたいなものだから、相当役に立つと思うよ」

「妖怪、ハンター?」

 サトが訊き返したときである。

 前方に、島が見えてきた。

 船が三河湾からいったん沖に出て、伊勢湾方面に舵を切ったのだ。

 唯は『ちっちゃな島』と形容したが、荒神島は伊勢湾で2番目に面積の広い島である。

 平たいが、近くで見るとかなり大きい。

 島の中央部が台地になっていて、壁のようなものに囲まれているのが見える。

 あれが問題のカルデラに違いない。

「あらまあ、さっそく亡者どものお出迎えだべ」

 ふいに、前方に目を凝らしていたサトが言った。

「亡者?」

 僕は危うく火のついた煙草を膝の上に取り落としかけた。

 この娘、何を言い出すんだ、急に。

 亡者だと?

 なんにも見えないじゃないか。

「あんたの言う、妖怪ハンターさんたちの腕の見せ所だね」

 サトが言った時だった。

「呼んだか?」

 びっくりするほど近くで、だしぬけに一平の声がした。

















 
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