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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 13 海と空の罠①

 豊橋までJRで2時間。

 そこから伊良湖岬までバスで更に1時間。

 渥美半島の先端に位置する伊良湖港は、まさしく地の果てに位置していた。

 素晴らしく晴れた午後である。

 正直、もう少し曇っていてほしいと思うくらいの上天気だ。

「うわーっ! 空気おいしい! 潮の香りもするし、もう最高!」

 あずみが大きく伸びをした。

 レモンイエローのタンクトップを突き上げる爆乳は、ロケットさながらに天を指している。

 黒のマイクロミニから伸びた長く白い脚が目に毒なほどまぶしかった。

「ちょっと凶悪過ぎるほど暑いよね」

 サングラスを光らせて、コート姿の光がぼやく。

 光のこの格好には理由がある。

 彼女は生まれながらのアルビノで、素肌を陽光に晒すことができないのだ。

「あー、早く泳ぎてえ」

 ランニングシャツに半ズボンの一平がわめいた。

 何か根本から勘違いしているらしい。

 船の見えるところまで歩くと、ちょうど、リムジンのようなバカでかい車が停まって、中から唯が下りてくるところだった。

 水色のワンピースに身を包み、白いつば広の帽子をかぶった唯は、深窓の令嬢とでもいった趣だった。

 養父の青柳氏にエスコートされて僕らのところまでやってくると、

「あずみ、お久しぶり。あ、それから付録のお兄さんも」

 例のクールな口調で、言った。

「付録だってよ!」

 それを聞くなり一平がブッと吹き出し、嬉しそうに僕の顔を見た。

「あたしが山田光。これが弟の一平。よろしくね」

 光が手袋をした手を差し出すと、

「青柳唯です。こちらこそよろしくお願いします」

 僕に対してはそっけなかった唯が、しおらしく頭を下げた。

 なんだ?

 見ず知らずのこの姉弟に、なんで唯はこんなに素直なんだ?

 いったいどういう話になっているのだろう?

 僕は少なからずムッとした。

「唯、身体のほうは、もういいの?」

 歩み寄って、あずみがそっと唯の肩を抱く。

「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ」

 花が咲くように微笑む唯。

 なんだか僕ひとりだけ、蚊帳の外に置かれた感じだった。

「荒神島に渡る船って、あれかな?」

 あずみが停泊中のフェリーを指さして、言った。

「いや、あの船は荒神島へは行かないんだ。同じ伊勢湾の島でも、観光地である答志島や賢島に直行する」

 口をはさんだのは、青栁氏である。

「荒神島は、観光ルートに入っていないのよ。たぶん、ヤバすぎて、みんな近寄らないようにしてるんだと思う」

 と、これは唯。

「じゃ、どうやって行くのさ?」

 一平が、初対面の唯にいきなりタメ口をきいた。

「心配ない。ちゃんとこっちにクルーザーを用意してあるよ」

 青柳氏を先頭に別の埠頭に回ると、なるほど一艘のプレジャーボートがひっそり波間に浮かんでいた。

 帆を立てればヨットになり、また帆がなくてもモーターで走る、そんなタイプの船なのだろう。

 もちろんフェリーと比べればずっと小さいが、10人くらいは乗れそうな大きさだ。

「うわあ、かっこいい! これ、青柳さんが操縦なさるんですか?」

 何につけても単純なあずみは、もう大喜びである。

「残念ながら私は仕事が立て込んでいて、今すぐ島には行けないんでね。それにこれは、本家が寄越したものだから、運転手は別にいる」

 その言葉が聞こえたかのように、船室から人影が現れた。

「あ、サト!」

 唯が叫んだ。

「お嬢様!」

 船を降りてきたのは、今時こんな子が? と思わず目を疑うほど、実に素朴な雰囲気を持った娘だった。

 日に焼けた丸顔。

 その上更に、頬が林檎のように赤い。

 髪の毛は日に焼けたようにばさばさで、後ろでひとつに縛ってはいるが、その形状はポニーテールというよりもはやチョンマゲに近かった。

 ぴったりしたダイビング用のスーツを着ているのだが、小柄ながらまるでレスリングの選手のような逞しい体つきをしている。

「サト…元気そう…会いたかったよ」

「唯お嬢様こそ、綺麗におなりんさって」

 抱き合っている。

 いつもクールな唯が、ここまで感情を露わにするのは珍しいことだった。

「サトは本家の使用人でね。唯が島に居るとき、姉妹のように一緒に育てられたんだそうだ」

 目を細めて二人の様子を眺めながら、青柳氏が言った。

 とても姉妹には見えなかったが、このサトという少女、悪い人間ではなさそうだった。

 感動の再会を済ませると、僕らに向かって、言った。

「さ、みんな、乗るべ。明るいうちに島に着かないと、やっかいなことになるからさあ」

「乗るべ、だって。どんな田舎のねーちゃんなんだよ」

 一平が要らぬ感想を述べようとするのを、光が口を掌でふさいで遮った。

「では皆さん、くれぐれも唯をよろしく頼みます」

 船に乗り込んだ僕らに向かって、埠頭から青柳氏が深々と頭を下げた。

「仕事のめどがついたら、私もそちらに駆けつけるつもりだ。だが、唯、身の危険を感じたら、なりふり構わず帰ってこい。島の儀式より、大切なのはおまえの命だ。わかってるな」

「はい、お父さん」

 唯が心なしか湿った声で答えた。

「あっしが命に代えても、お嬢様のことは守りますから」

 胸を張って、サトが言う。

 ぎらつく真夏の陽光の中、こうして、僕らのサバイバルゲームは、静かに幕を開けたのだった。






 
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