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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 12 再集結③

「なんだって?」

 僕は危うくカクテルにむせそうになった。

「何も驚くことはないわ」

 細身のメンソールを指に挟み、紫煙をくゆらせながら、光が言った。

「闇虫殲滅は、いわば、私たちに与えられた弥勒からの使命。異界との接点がその島にあるというのなら、もう行くしかないのよね」

 ここはドーム前イオンから北に数キロ離れた繁華街の地下酒場。

 パトカーのサイレンに追われるようにしてイオンを後にした僕ら4人は、光の案内で昼間っから開いているこの店に潜伏することになったのだった。

 僕が驚いたのには、理由がある。

「で、君たちは何者で、いったいどうしてあんなとこにいたんだい?」

 という僕の素朴な質問に対して、

「私は流しの薬剤師。一平は発明狂のやんちゃな小学生。実家は静岡の山田玩具店。店にはフィギュア職人のじいさまがひとりいるわ。ここに来た目的は、もちろんあずみちゃんとあなたをサポートして、荒神島の闇虫どもを殲滅すること」

 などと、意味不明なことを光が突然言い出したからである。

「でも、そのミロクって、要は俺の親父のコースケのことなんだろ? なんであんなやつの言うことを、見知らぬ君らがホイホイ聞かなきゃなんないんだよ?」

「話すと長くなるから割愛するけど、コースケは”神”なのよ。デリヘルの取材中に突然神が降臨して、世界の危機に気づいたんだって。だから神の命令はある意味絶対なの。私たちには、神に選ばれし者として、世界を救う義務がある」

 なんだこりゃ、新興宗教かよ。

 だいたい、『だから』の使い方がおかしくないか?

 デリヘル?

 降臨?

 なんだそれ?

 僕は呆れて隣に座るあずみを見た。

 あわててイオンを飛び出してきたため、あずみはまだ真っ赤な水着姿のままである。

 しかも呑み慣れないカクテルを飲んだせいで、目がとろんとしている。

 一平みたいにジュースで我慢しておけばいいものを、背伸びしてそんなものを飲むからだ、と叱りつけたくなったが、もう後の祭りだった。

 外見が女子大生レベルなので、18歳未満と気づかず、あずみにねだられるまま、マスターが僕と同じものを彼女にも出してしまったのである。

「コースケが神というのは、嘘らないろ。信じられないかもしんないけれろ、本当にそうなんらから」

 僕の視線に気づいたのか、ろれつの回らない口調で、あずみが言った。

「神だけじゃない。神に敵対するモノとしての、ツクヨミの存在も忘れるわけにはいかないわ。どさくさに紛れてあの八岐大蛇でも召喚された日には、まず間違いなくこの世界は滅ぶ」

「ツクヨミ? 八岐大蛇?」

 何かが記憶の底のほうでざわめいた。

 が、思い出そうとしても、再生機能が壊れたCDレコーダーのごとく、それ以上は何も出てこなかった。

「とにかく、アキラ君、あなたも見たでしょ? さっきの化け物たち。荒神島には、おそらくあんなのがうじゃうじゃいるに違いないわ。そんなところへ、あずみちゃんひとりを放り出す気なの?」

「い、いや、だから俺も一緒に…」

「アキラが一緒でも、しょーがないじゃんか! それこそ犬でも連れてったほうがマシってもんだ」

 横から憎まれ口を叩いたのは、一平である。

 しかもこのセリフ、確か唯にも言われたような気がする。

 俺は誰から見ても、犬以下なのか。

 さすがの僕もへこまざるを得なかった。

「そうよねえ。せめで銃でもあれば話は別なんだけど」

 と、これは光。

「銃?」

「うん。あなた、この前のサバイバルゲームで、銃の撃ち方覚えてたから」

「そ、そうなのか?」

 小学生の頃、水鉄砲で遊んだ記憶しかない僕にとっては、意外なひと言だった。

「お兄ちゃんは、このままで、いいんれすよ」

 僕の腕を両手で掴んで、あずみが口を尖らせた。

「あずみは、お兄ちゃんがいてくれるらけれ、強くなれるんれすから」

「そういえばあずみちゃん、さっきちょっと大きくなってなかった?」

 光がつっこむと、えへへへとあずみが笑った。

「わかっちゃいました? ちょっち試してみたかったんれす」

「試すって、何を?」

「まあ、そんなことより、まずは作戦だね」

 僕の質問を無視して、光がコートもポケットから折りたたんだ地図を取り出した。

 用意のいいことに、そのものズバリ、荒神島の地図だった。

「青柳氏には、私たちの意向を電話で伝えてOKももらったから、後は明日集合場所に直接行くだけでいい。問題は、上陸した後だよね。青柳家の本家は港からかなり離れたところにある。まずはそこまでその青柳唯さんとやらを、無事送り届けなきゃならないわ」

「ハイヤーのお迎えが来るって話だったけど」

「あのね、海を隔てた本土のイオンにまで、何者かが闇虫をよこしたわけでしょ? 敵の本拠地である島に上陸して、おいそれと本家までの道を車で通行させてくれるものかしら?」

「うーん」

 僕は唸った。

 確かに光の言う通りである。

 島に上がったが最後、敵が雲霞のごとく押し寄せてきても不思議ではないのだ。

「大丈夫らよ。お兄ちゃんのことは、あずみが守るから」

 ゆらゆら体を揺らしながら、あずみが言う。

 カクテル一杯で、完全に酔っぱらってしまったらしい。

 見ると、水着の肩ひもがはずれて、右の乳がカップからこぼれかけていた。

「うお。あずみ、大サービス!」

 一平が喜色満面で叫んだ。

「あずみちゃん、こんなところでポロリはやめて」

 冷たい声で、光が言った。

「ごめんらさい」

 真っ赤になって、あずみが胸を隠した時である。

 ふいに、何の前触れもなく、僕のスマホが鳴った。





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