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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 11 再集結②

 下がってろ。

 妹にそういわれただけで後に引いたら、男がすたる。

 とは思ったものの、この際僕はあずみの言葉に素直に従うことにした。

 人混みが割れ、その間からのっそり姿を現した新たな化け物の異様な姿に、危うく腰を抜かしかけたからである。

「お、ま、え、ら、く、え、る、か?」

 白目を剥いた中年男が、身体を波打たせながらまろび出てくる。

 その腰から下が、変形し始めていた。

 見る間に膨れ上がり、Tシャツとズボンが弾け飛んだ。

 その下から頑丈そうな皮膚に覆われた巨体が現れた。

 丸太のような4本の足で地面を踏みしめた、灰色のサイの体である。

 両肩から湾曲した象牙のような角が飛び出し、その間から中年男の上半身が生えている。

「こりゃ硬そうだ」

 一平が舌打ちするのが聞こえた。

「矢が通らないぞ」

 と、化け物が後足で床を蹴った。

 巨体に似合わぬ敏捷さで突進し始めたのだ。

 その進路に立っているのは、あずみだった。

「あずみ!」

 僕は叫んだ。

「危ない! よけるんだ!」

 が、どこまで兄に逆らえば気が済むのか。

 あずみは一歩たりともその場を動かなかった。

「お、おい!」

 僕は思わずぎゅっと目をつぶった。

 地響きが止まった。

 こわごわ目を開けると、あずみが怪物の角を両脇に抱え、踏みとどまっていた。

 なんだかひと回り、前より身体が大きくなっている。

 肩まで2メートルほどもある犀人間と、ほぼ同じ背丈に成長したような感じなのだ。

「く、っ、て、や、る」

 犀の胴体から生えたゾンビめいた男が、大きく口を開け、あずみに襲いかかろうとする。

「うおおおおおお!」

 あずみが咆哮したのは、その瞬間だった。

 両脇に長い角をはさんだまま、化け物の巨体を持ち上げにかかった。

 すごい力だった。

 おそらくあの怪物、動物園のゾウ並みに体重1トンは超えているに違いない。

 それを軽々と持ち上げると、身体を海老のように反り返らせて、そのまま一気にブリッジの要領でで背後の床に叩きつけたのだ!

「出た! ワンハンド・バックブリーカー!」

 一平が手を叩いて飛び上がった。

「喜ぶのはまだ早い」

 叱るように光が叫ぶ。

 その通りだった。

 後頭部を強打して悶絶した化け物の口から、何やら黒い染みのようなものが床に這い出したのだ。

 長い尾のあるエイのような形をしている。

 化け物の下から抜け出したあずみが、とっさに右手を伸ばし、それをつかんだ。

 きゅい。

 影のようなものが、苦しげに鳴いた。

「これが闇虫?」

 光に向かって、訊いた。

「たぶん」

 うなずく光。

「だったら」

 あずみが両手でそれを握り締めた。

「こうしてやる!」

 ぶしゅ。

 柔らかいものが潰れる音。

 どす黒い液体が、あずみの足元に飛び散った。

「姉ちゃん!」

 一平の声。

 振り向くと、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した客たちの中に、更に2体の化け物がその全貌を現していた。

 一匹は、両腕がゾウの鼻になった男。

 もう一匹は、セイウチそっくりの牙を、耳まで裂けた口から生やした女である。

 どちらも白目を剥き、涎を垂らした例のゾンビ顔になってしまっている。

 逃げ遅れた子どもが、転んだ。

 小学校低学年くらいの、小さな女の子だった。

 母親が泣き叫びながら駆け寄ろうとする。

 が、そこにゾウの鼻が襲いかかった。

「ママ!」

 ヘビのような鼻に巻かれ、少女が宙高く吊し上げられる。

「行くよ」

 光が低く言い、マントのようにコートの裾を翻した。

 走りながら、手首のスナップを利かせ、ヨーヨーを投げる。

 目に見えないほど細い糸が空を切り、ゾウ鼻に巻きついた。

 同時に光が、クイっと糸を引く。

 まるでバナナを切るみたいだった。

 鼻が、ダルマ落としのダルマの胴よろしく、分断されて弾け飛ぶ。

 支えを失くして落下し始めた幼女を、地面すれすれで赤いシルエットがキャッチした。

 疾走してきたあずみである。

 赤いブラからこぼれ落ちそうな爆乳のクッションで少女を抱きとめると、

「一平君、後ろ!」

 こっちを見て叫んだ。

「任せろ」

 一平がハンドガンを振った。

 振り向きざま、腰だめにして撃った。

「グアアアッ」

 背後から迫りつつあったセイウチ女がのけぞった。

 目と目の間に、金属の矢が深々と突き刺さっている。

「闇虫が出て来たら、逃がさないで捕まえて」

 あずみが言った。

 幼女を母親に返し、身を翻すと、その足で果敢にゾウ鼻男に飛びかかっていく。

 地面を薙ぐようにして迫る鼻をジャンプしてかわすと、空中で大きく足を前後に広げた。

 次の一瞬、破壊力抜群のキックを食らい、化け物の首があり得ない角度にへし折れた。

 倒れた化け物の口から逃れ出てきた黒い染みを、あずみが逃さず踏み潰す。

「こっちもOK]

 ハンドガンのグリップで闇虫を叩き潰しながら、一平が言う。

「こっちも始末した」

 両手をパンパン叩きながら、光が歩み寄ってくる。

「終了かな」

 周囲を見渡しながら、つぶやくあずみ。

 客たちは全員逃げてしまって、食品売り場は奇妙なくらい静まり返っている。

「おいらたち、殺人罪で警察に捕まるかな」

 人間に戻り始めた化け物の死体を気味悪げに眺めながら、一平が言った。

「それはないと思う。だって、血が出ていないもの」

 あずみがゾウ鼻男に死体を指さした。

「あのひとたち、初めから死んでたんだよ。闇虫に取り憑かれた時点で、もうゾンビになってたんだ」




























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