挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第1章 因習の島

11/99

scene 10 再集結①

 なるほど、僕は確かにボンクラである。

 ヘタレと言い換えてもいい。

 そのことを今更否定するつもりもないし、何よりも本人がいちばん自覚している。

 しかし、である。

 山梨孝司のようなイケメン・リア充にけなされるのならまだしも、このような見ず知らずの小学生に罵倒されるいわれはなかった。

「おまえ、なに?」

 イガクリ頭の生意気そうなガキを睨みつけて、僕は言った。

 ふと、どこかで見たような気がしたが、そんなの気のせいに決まっている。

 僕に小学生の知り合いなんて、いないのだ。

「なんだよ。ごあいさつだな」

 ガキが頬を膨らませた。

 右手に、先端から矢じりが突き出した大ぶりのハンドガンを提げている。

 まさか、3匹めの怪物を倒したのは、こいつ?

「明君、お久しぶり」

 声をかけられて振り向くと、あのコートの女性が立っていた。

 胸まである色素の薄いストレートヘア。

 面長の顔に大きなサングラスをかけている。

 肌は透き通るように白く、唇だけがほんのりと薄桃色をしていた。

「私だよ。山田光。そっちの小さいのは、弟の一平」

「山田光…山田一平…?」

 記憶の底で何かがざわめいた気がした。

 光と名乗った女は、左手にヨーヨーを握っていた。

 怪物の首を切断した、あの凶器のようなヨーヨーである。

「きみら、武器持ってるみたいだけど、サバイバルゲームの人?」

 おそるおそる訊くと、女がうっすらと微笑んだ。

「サバイバルゲームねえ。まあ、いわれてみればそうかも。強いて言えば、これはその第2弾かな」

「第2弾?」

「そういうあなたも、この前のゲームには、私たちと一緒に参加したんだけどな」

「お、俺が?」

 そこへ、無事ブラジャーを装着し直したあずみが近寄ってきた。

「ごめんね、光さん、それに一平君。うちのお兄ちゃん、ちょっと記憶喪失気味でさ、あのときのこと、全然覚えてないんだって」

「わかるよ。私たちもそうだったから」

 光がうなずいた。

「時間の巻き戻し現象の副作用だね。実を言うと私たちも、ついこの間”彼”から連絡もらうまで、さっぱり忘れちゃってたんだ」

「”彼”って、もしかして」

「そう。コースケさんっていったっけ。あなたたちのパパであり、弥勒でもあるあの存在」


 時間の巻き戻し?

 副作用?

 なんだかあずみも前に同じことを言ってたような。

 それより問題は、コースケである。

「あんた、親父を知ってるのか? あいつ、今どこにいる? それに、何なんだ? そのミロクってのは」

 父コースケは、三流雑誌に記事を売って糊口をしのいでいる、怪しげな風俗ライターである。

 一応毎月口座に生活費を振り込んでくれているから文句は言わないが、僕らの前から姿を消して、もう半年以上になる。

「ああ、それも忘れてるんだったね」

 気の毒そうに光がつぶやいたときだった。

「姉貴、大変だ! あずみもちょっと来て!」

 あのクソガキの叫び声がした。

 僕は呼ばれていなかったが、好奇心に駆られてふたりについていくと、一平は化け物の死体のそばにかがみこんでいるところだった。

「見てよ、ほら。人間に戻ってる」

「わ」

 僕は込み上げる胃液を懸命に飲み込んだ。

 床に倒れているのは、首をきれいに切断されたスーツ姿のサラリーマンだった。

 真っ赤な血の海が、ひたひたと足元まで押し寄せてくる。

「こっちの人も、そうね」

 段ボールの下敷きになっている死体を見やって、あずみが言った。

「ふつうの女の人に戻ってる」

「ってことは…」

 少し離れたところに倒れている3人目もそうだった。

 片目に矢が突き刺さっているのはさっきのままだが、姿かたちは若い主婦なのだ。

「俺たち、人を殺しちゃったってこと?」

 一平が、青ざめた顔で姉を見上げた。

「闇虫が抜けたんだわ…」

 小声で光がひとりごちた。

「抜けたって…どういうことですか?」

 たわわに実った胸を揺すって、あずみが身を乗り出したときである。

 僕らを取り巻くようにしていた群衆の中から、立て続けに悲鳴が起こった。

「まずい」

 光が顔を上げた。

「転移した」

 群衆が割れ、その間から何やら黒い巨大な影がうっそりと現れた。

 真ん中に一体。

 左の端と右の端に一体ずつ。

 全部で三体いる。

「こ、これは…?」

「闇虫が、宿主を変えた。そうですよね?」

「どうやらそのようだね」

 光がコートの袖をめくり、ヨーヨーを握った手を露わにする。

 右手と左手に、それぞれ一つずつ持っている。

「一平、用意はいい?」

「OK」

 少年が、身体に不似合いなほど大きい例のハンドガンを構えた。

「あずみも行けますよ」

 ブラジャーの紐をきつく結び直して、あずみがいう。

「あ。あんたら、何するつもりなんだ?」

 僕がたずねると、ぐいっと胸を張って、あずみが言った。

「あ、それから、お兄ちゃんはいいからね。終わるまで、どこか安全なとこまで下がっててね」











+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ