アタシは何度も恋をする。
伝説の魔女。
何時の頃からその名前は轟いただろうか。
いくつもの時代、いくつもの世代をまたぎ、その存在は語り継がれている。
名前も本来の姿も知られていないその魔女は、どのような姿を持ち、どのような力を使うのだろうか。
そもそも、彼女の存在すら、真実なのであろうか。
女は長い栗色の髪を揺らして、長い足で大股に歩く。
「――どのくらい振りかしら」
ボディラインの激しい身に纏った真っ赤なワンピースの裾を翻して、宮中をまわる。深く切り込みの入ったスリットが、歩くたびに女の太ももを外気に晒す。
すれ違う男達が好奇と懸念の顔で女を見送る。その視線を感じ、女は満足げに微笑む。
女が今歩いているのは、リビドム王宮である。
小さいが研究能力に特化し、土壌も豊かで恵まれた国である。
アドルンドやマルキーに比べれば小さな王宮だが、どこもかしこも磨き上げられ、まるで遜色はない。
女はつかつかと目的地を目指して歩く。すれ違う人々は、明らかに部外者である女を見ても不審そうな顔は一つもせず、むしろ女の存在なぞないように振舞っている。
女は迷いなく目的地の前で、足を止める。
何度も何度も足を運んだその場所に、目を細める。
――この扉を開くと、彼が居る。
心臓が脈打つ。期待で膨らんだ胸は高鳴り、女の顔を紅潮させる。
そして、両手で思いっきり扉を開けた。
扉を開けたその先に居た人々は、驚いたように女を見る。
執務室であるその場所には、沢山の人間が出入りしている。
「誰だ!」
女の姿を見てカチンと固まった人間の中から、いち早く冷静さを取り戻した黒髪の男が叫ぶ。男はすらりと剣を抜き、白刃を女に向ける。
「あら、人のこと呼びつけておいて、失礼な話ねぇ」
女は室内を見渡す。
年若い男から、壮年の男まで、色とりどりに男共が働いていた。
部屋の真中にある一番大きな机にいる人物に、目が止まる。
(見つけた)
心臓が大きく跳ねる。どのくらい待ちわびたか忘れてしまった。
嬉しくて嬉しくて、顔がほころぶ。
黒髪、そして紫の瞳を持つ――リビドム国王。
女はその人物の前まで歩み寄り、そして跪き頭を垂れた。
「お初にお目に掛かります」
顔を上げてニッコリと妖艶に微笑むと、一連の出来事にあっけに取られていたのだろうか、リビドム国王はきょとんとしたままだ。
「唐突に訪問したりしてごめんなさい? ここの老人達に呼び出されて、呼ばれましたの」
女は更に言葉を紡ぐ。すると何か納得したのか、あぁと小さく声が洩れる。
「話には聞いていたけれど、また随分と小さな娘さんが来たねぇ」
「え?」
その声は数人分。その場に居た若い男達だ。
女も驚いて、目の前のリビドム王を凝視する。そして、困ったように笑んだ。
「……やだ。アンタ、随分目がいいのね」
その声に、更に若い男達がぎょっと目を見開く。
どう見ても見た目にそぐわない子供のような声を、女が発したからだ。
「あーあ。このビボーに惑わされてくれるんだったら、まだよかったのに」
畏まっていた動作を突然止め、女が立ち上がる。
「その目さえなければ、簡単に済みそうだったのに。ねぇアンタ、名前は?」
リビドム王は視線を下方にし、にっこりと微笑む。
「僕はカペラ・フォン・リビドム。でも、本当にキミなの?」
「えぇ、薔薇の魔女ヴィーズィー・ヴィリー・ディヴィドゥム。アタシで間違いないわ」
高身長、栗色の瞳、魅惑的なボディラインの女。
しかし、カペラの目には十歳程の、濃灰色の髪、紫の瞳。赤とピンクの極彩色のワンピースを身に纏った少女にしか見えなかった。
そしてヴィヴィは挑戦的にカペラを睨む。
「アタシ、アンタの子供を産みに来たの」
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