一月も十日を過ぎました。今年はいつもと同じ新年を迎えられませんでした。私の周辺で二つの出来事が起こったものですから…。
一つは主人の死です。年明け前、大晦日に急性心不全で亡くなってしまったのです。主人とは見合い結婚で子供はいません。至って普通の夫婦だったと思います。ただ、彼の事は好きでしたが、愛していたかとなると疑問符が付くのかも知れません。見合いという状況が気持ちに水を差していた事は否めません。
でも主人が愛情を注いでくれた事はよくわかります。わがままにも文句一つ言わず付き合ってくれて…。あんないい人に「愛情がない」なんて、私は何と罪深き女でしょうか。
そんな私に起こったもう一つの出来事、それは年賀状。十日も過ぎたのにまだ来ないのです。もしかすると彼に何かあったのかも…。
彼というのは私が以前に付き合っていて、結婚寸前までいった人です。高校の同級生で、私は彼を本当に愛していました。彼もきっとそうだった。でも、名家の跡取りに貧乏人の娘は相応しくないという彼の両親の反対で、二人は引き裂かれてしまったのです。
それから直に顔を合わせた事はありません。ただ毎年、年賀状が来たのです。それも送り主の住所なしで。私は彼から年賀状が来る度、昔を思い出して胸ときめいたものです。返事が書けないので一方通行ですが、それが去年まで二十九年間も続いたのです。しかし…
そう。今年は彼から年賀状が来ないのです。三十年の月日を考えると、毎年来ていた物が急に止まる事に違和感を覚えます。主人も亡くなり、さらに彼まで消息を絶ってしまったら、という不安で一杯なのです。
いや、正直に言いましょう。主人が亡くなった今だからこそ、彼に会いたい。女の未練と言えばそれまでですし、彼もそんな気持ちはない筈です。でも私は、彼にもう一度気持ちを告げたいと思って生きてきたと言っても過言ではないのです。毎年決まり文句しか書いてない年賀状にどれほど胸が高鳴った事か。
もう私の気持ちは止まりません。同級生も一人として行方を知らなかったので、ついに私は興信所に彼を捜索してもらいました。そうまでしてでも彼に会いたかったのです。
一週間で連絡が来ました。当然、待つ間に年賀状も来ていなくて、届いた書簡を前にして、年甲斐もなくどきどきしておりました。
「貴方が調査依頼をされた○○氏は××県△△市で5年前に亡くなっておりました」
それを見た時、私の中で衝撃音が鳴りました。この世に置き去りにされた気がして、涙が止まりません。
泣き止んだ私は、主人の遺品整理に没頭しました。生前の書類が机の中からたくさん出てきましたが、図面ばかりだったので、チラッと見ては元の場所に返しておきました。
ところが鍵付きの引き出しから一枚のハガキが見つかりました。それは年賀状で、宛先は私の名前…。差出人は彼、○○君からのもの…。何故それを主人が?
三十年前、彼から初めて年賀状が来た時、私はにこやかな表情を浮かべていたようで、
「おやご機嫌だね?誰かいい人からの年賀状かい?」
と主人に聞かれました。そしてその時、過去の交際を正直に話したのです。
「へえ〜っ。いいなあ青春の思い出か」
なんて主人は言ってましたが、その時私の胸の内をわかっていたのかも知れません。
よく考えてみれば、彼が5年前に死んでいるのに、何故年賀状が届いたのでしょうか。今になって自分の愚かさに気付きました。そしてまた涙が零れ落ちてきました。今頃、主人の事が本当にいとおしくなるなんて…。心の底から後悔と悲しみに襲われました。
五日が経ちました。不意に時期外れの年賀状が届きました。宛先は主人の名前…。
「明けましておめでとうございます。今まで素敵な思い出をありがとう。いつまでもあなたの事を胸に、この家で生きていきます」
|