ディープグリーンのカーテン
この殺風景に近い部屋の中で、分厚いだけが取り柄の、どこかしら空間から浮いているカーテンがある。それは深い緑色をしているのだが、カーテンとカーテンの間から差し込む眩しい日差しのせいで、黒色に見える。
「翔、あたしね、恐い夢見た」
ぱちぱちと何かが焼ける音と、匂いがする。翔に背を向けるため、あたしはベッドの中で寝返りをうった。
「あたしだけ箱に入ってて、動けないの。それでね、あたしの腕時計は止まってるの」
確かな一日がまた、やってくるのがわかる。卵焼きの匂い。あたしは幸せだなって、頭の端っこで思う。
「周りを歩く人の腕時計を、頑張って覗き込んだの。結構大変だったんだよ。みんななっがいコート着てるんだもん」
翔は何も言わずに、あたしのはなしを聞いている。そんな翔のクールなところが、いつもあたしの不安の種で、だけど翔を好きな理由。
「でも、やっとのことで覗き込んだ時計は、やっぱりきちんと動いてるの」
ブラウン管の中で動くアイドルに憧れて、伸ばした髪が、頬を弄ぶ。くすぐったいだろ、とでも言うように。
あたしだけが動けないでいる。夢の恐怖を思うと、身体が震えた。
「ねぇ、翔はあたしを置いていったりしないよね? 見えないふりして、通り過ぎたりしないよね?」
ふと窓の方に目を向けると、いつの間にか分厚いカーテンが、深い緑色を取り戻していた。
「大丈夫だよ」
泣き虫なあたしは、一日に一回くらい泣きたくなる。だけど翔といる時は、一日三回に増えるよ。
「泣いてるの?」
ううん。違う。だけど涙が出る。
この涙を翔に見つけて欲しくなくて、見つけて欲しい。
翔が、あたしのがさがさの髪の中を探した。
「みつけた」
翔の手が、あたしの頬を撫でた。本当はわかってた。翔には、簡単に見付かってしまう。
「髪、切った方がいいよ」
また、涙が出た。
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