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layer0 作者:運転安全
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悪魔編2

 炎天下の中で、二人の女性が並んでランニングをしていた。

「ふみは何かおとなしいね」

 第三班に所属するエレナという女性は、ふみと年齢が近いと言う理由でいつも一緒に居るようになった。

「もともとアクティブな性格ではないと思いますよ」

 二人はかなり速いペースで走っていたものの、話しながらでも息は上がっていなかった。

「でもクマを倒したんでしょう? 暁斗の下にいたんでしょう?」
「はい、でも昔のことです」

 ふみがそっけなく返答する。

「もっとさ、ふみは明るくしていれば男の人にモテると思うよ」
「そうかもしれません」
「・・・」

 ふみは始終笑顔だったものの、反応が薄いことにエレナは不安になってきてしまった。

「もしかして、私の質問嫌だった?」

 少し驚いた顔をしてふみはエレナの顔を見た。

「え? そんなことはありませんよ」
「本当にー?」

 エレナはすぐ笑顔になったものの、誤解されないようにと今度はふみから話しかけた。

「エレナは常人層出身なんですか?」
「うん、そうだよ」
「layer2には行ったことはあるんですか?」
「あるよ、何度か訓練でね。でも人が全然いない山の中だったね」
「そうですか。layer2は私の故郷なので、訓練でも行くことがあるなら楽しみですね」

 話しかけてくれたことに、エレナが喜んでいるのがわかった。
 エレナはすぐ調子に乗って質問を続けた。

「分析業務の室長暁斗もlayer2出身なんだよね?」
「そうです」
「暁斗とは会ってないの?」
「同じ治安維持層ですから、たまに会いますよ」

 まるで興味が無いように答える。
 だが本当は会える日を心の底から待ち望み、そしてマイと三人で過ごしていた。

「どうしてさ、ふみは一般業務に来たの? 分析業務が嫌になっちゃったの?」

 珍しくふみが即答せず、返答内容を考えているようだった。

「上からの命令です」
「え!?」
「私は強制昇進したばかりなので詳しくは知りません」

 不本意なものであった。
 そんな無言の返答がエレナには聞こえてきたようだった。

「まあ色々あるんだねー。でもふみは一般業務に合ってると思うよ」
「はい、がんばりますのでよろしくお願いします」

 笑顔でエレナに返答する。
 それからしばらく無言で走っていたものの、ふとふみが気になってエレナに話しかけた。

「あの」
「なに?」
「治安維持館の事務所属であるマイという女性のことはご存知ですか?」
「マイ? 知らない。事務員は私たちのような下っ端だと接する機会が殆ど無いからね」
「歳が私たちと同じくらいなんですが、交流というものも無いんですね」
「所属が違うと全然違うからね。ふみのお友だちなの?」

 一般業務の担当レベルでは、事務という職についてはまるで知らない世界であった。だからこそ、エレナは少し興味があった。

「はい、私の大切なお友だちです」

 本当は恋人と言いたかった。それをここで言ってはいけない。ふみは注意深く発言を選んでいた。

「へえ、そんなこと言う人めずらしいね。今度あわせてよ」
「はい、機会があれば」

 だがふみの本心では、エレナとマイを会わせる気など全く無かった。


 それからしばらくときが経つ。
 エレナとふみが食堂で昼食にしていた。
 早めに食堂に来たせいか、テーブルには人がほとんどいなかったため、エレナはテレビが見やすい所にふみを連れて行き座った。

「大悪魔エリザベスのばあさんが写ってるよ」

 エレナがテレビを指差してふみに言った。

「確か悪魔層のトップですよね。最近になって大悪魔なんて役職を知りました」
「私は大悪魔が役職だってことを今知ったけどね。ふみは物知りだね」

 そう言うとエレナはもりもりと食事を始めた。
 ふみもおとなしく食事を始める。

「そう言えば、もうすぐ悪魔昇進試験が始まるけどさぁー」

 エレナがそう言うと、すぐに口に食べ物を詰め込んだため、次のことばが出るまで時間がかかっていた。
 そんな様子をふみはおとなしく食事をしながら見ていた。

「悪魔昇進試験になると、悪魔とか天使の推薦を受けた一般警備の幹部たちが試験を受けるために席を外すから、業務自体が手薄になって仕事が結構暇になるんだよね」
「ああ、そうなんですか」
「だからね、その時期は長期でお休みを取る人が多くてね。ふみも休みを入れるといいよ」
「わかりました。ありがとうございます」

 いつもどおりのふみの笑顔を見ながらエレナが話を続けた。

「私とどこかに行こうか。ふみが暇だったらだけど」
「え?」

 驚いてエレナの方を向く。エレナはふみの反応を期待して、食事をせずにずっと返答を待っていた。

「あ、ありがとうございます。すごく嬉しい」

 ふみが動揺して目をそらしてしまった。そんな行動の意味が、エレナには全く分からなかった。

「行こうよ、だってふみって、普段はちっとも楽しそうじゃないんだもの。笑顔は見せてるけどね。でも毎日私と一緒にいてくれるってことは、別に嫌じゃないんでしょ?」
「嫌じゃないです。エレナと遊びに行きたい」
「じゃあ決まりだね」

 エレナが笑顔でふみに言った。だがふみは、少しつらそうな表情をしてエレナに言い返した。

「ごめんなさい。本当に用事があってダメなんです」
「えー、そうなんだ」

 エレナのかなり残念そうな顔を見て、ふみも落ち込んでいた。

「でも、そうですね、エレナ!」

 ふみが体を乗り出して、エレナに問いかけた。
 それはふみの感情的な行動であった。今まで見たことのないふみの行動に、エレナが少し驚いてしまった。

「今度、絶対に行きましょう。どこでもいいから、絶対に! エレナと一緒に遊びたい」
「う、うん。なんか大げさだね。私はどこにも逃げたりしないから、いつでも大丈夫だよ」
「ありがとうございます。絶対に忘れませんから」
「もう、本当にふみって変な所はとことん変だね」

 それから二人は無言で昼食を取り終えた。
 テレビでは悪魔昇進試験の事を話題に上げているようであった。
『一次試験は一週間の日程で行なわれます。場所は山の中であり、試験用に用意されたフィールドで数人のグループを作り、ケモノと呼ばれる害獣を銃やマシンガンで倒しながら進むものです。』
 そんなテレビの様子を見ながら、ふみが無意識に笑っていた。

「どうしたの?」
「いえ、悪魔昇進試験って、結構面白くて」
「そうなの?」

 ふみはエレナに話しかけられて、自分が笑っていることにようやく気がついていた。
 心を落ち着かせてから、エレナに返答した。

「悪魔昇進試験を受ける条件って知ってます?」
「さっきテレビでやってたけど、悪魔か天使の推薦が必要なんだっけ」
「そうです。つまり、普通であれば悪魔になれない。一般警備の幹部候補は悪魔が上司であるため、そういった偉い人でなければ悪魔になる方法はない」
「うん」
「私やエレナのように、悪魔の知り合いも天使の知り合いもいなければ、絶対に悪魔になることはできない。推薦が無いから試験を受けられないわけです」
「そうだね」
「それが面白くて」
「はぁ!?」

 ふみは本当に楽しそうにエレナに喋っていた。

「ふみは狂ってるの? 笑いどころがわからないんだけど」
「まあ、そうですよね。それより、今度いつ一緒に遊びに行くか、私が計画しますね! 絶対にエレナと遊びに行きますので、忘れないでくださいね」
「え? うん、ふみこそ忘れないでよね」
「はい!」




「エレナ、ふみ、ちょっといいか」

 ダイゴが二人に話しかける。
 ついて行った先には大型トラックがおいてあった。

「こいつを二人にやる。だから毎回運転と整備を任せたい。二人でやってくれ」
「了解です班長。でも運転なんてできませんよ。整備が得意なやつって別にいるから、そいつらに任せたほうが早いと思います」

 エレナが適当にダイゴに話しかけた。

「運転出来ないなんてことはないだろう。治安維持層を取得する際に実技試験で出るよね?」
「もう忘れましたし、オートマだったんで」
「え! 今はオートマで試験なんてできるの!?」

 ダイゴが驚いた。
 だがすぐに落ち着きを取り戻し、エレナとふみを見ながら話した。

「エレナ、これはお前の勉強の為なんだよ。ふみもこんなの触ったことないだろ?」
「私はトラック、牽引、戦車あたりの運転と整備はよくやってました」
「そうだった、ふみは暁斗のもとにいたんだったな。じゃあ、エレナに教えてやることできる?」
「私は構いません」

 ふみが即答する。

「おお、ふみが得意ならなんかやる気出てきた」
「エレナはふみに頼りっきりになるなよ。エレナ自身の勉強なんだから」
「分かりましたー」

 整備の前にふたりは大型トラックに乗ってドライブにでかけた。

「おおー、ふみが運転してるー! なんかすごいー!」

 助手席に乗ったエレナは大はしゃぎしていた。

「帰りはエレナに運転してもらいますから」
「いや、絶対ムリでしょ、免許ないし」
「ここは一般警備敷地内なのでしてもらいます」
「あの、マジで言ってたんですか」

 適当な場所に行ったあと、ふみとエレナは席を交換した。

「あの、ふみ先生。まず何をしたらいいのかわからないんですけど」
「これがクラッチ、ブレーキ、アクセル。難しいことはなしにして、ギアとクラッチの仕組みを簡単に覚えれば運転はできるようになるから。でもこれってディーゼルなんだよね、大丈夫かな」
「え、え、ほ、本当にやるの?」

 それから数時間。試行錯誤を繰り返しながら、エレナはなんとか発進くらいまではできるようになっていた。

「いま携帯電話でダイゴ班長と話しましたが、エレナの運転練習はこのまま継続して良いようです」
「えぇー……、引き上げ命令を期待してたんですけど! なんか怖いよー!」
「大分うまくなってますよ。これを毎日続ければすぐ慣れますから」
「明日もこれの運転やるの!?」

 ふらふらと動くトラックの上から、ふみが遠くに視線をやると、第三班の連中がこちらを見ていたのがわかった。ふみは窓を開けて手を振った。

「ほら、エレナ。向こうで第三班が応援してくれてますよ」
「なんなのあいつら! こっちみて笑ってない!?」

 敷地内はちゃんとした道ができているわけではなく、オフロードのようなフィールドであった。そんな足場の悪いところを、大型トラック初心者がゆっくりと進んでいく。一般警備敷地内に近づき、第三班が手を振ってエレナを迎え入れてくれていた。

「ねえ、ふみ、ここから先は無理! 変な道だもん、ダメだよ!」
「大丈夫です。どうにでもなりますよ」
「本当なの? 信じるよ? 私、まだ死にたくないよ?」
「はい、大丈夫ですよ、絶対に」

 ふみが笑顔で答える。だがエレナは、ふみに対していつも抱いている違和感が大きく膨れ上がり、そっくりそのまま恐怖に置き換わっていた。

(ふみはやっぱり、どこか変だ!)

 大型車が悪路を行く。
 しかもスピードが異様なまでに早かった。

「ねえ、ふみ。絶対におかしいって。こんな速度じゃ転倒しちゃうよ」
「いいですか、エレナ。よく聞いて。車で悪路を走行する状況というのは本当に良くあります。幸いなことに私たちは訓練中ですので、どれだけ派手な失敗をしても許されます。恐れなど捨てて直進して下さい。私が全部保証します。エレナの命も絶対に守ります」
「本当に変なこと言わないでよ!」
「スピードをあげて」
「もう、わかったよ!」

 そのとき、エレナの操作ミスがあり、大きなコブのような地形にトラックが突っ込んで行ってしまった。
 車の片方がコブに乗り上げて車体が大きく斜めに傾く。
 エレナは既にパニック状態であったが、助手席に載っていたふみは、倒れることを予想していたため、すぐシートベルトを解除してエレナの体を掴み、ドアを開けて二人で外に脱出した。
 大きな音を上げてトラックが横転する。
 そんな様子をエレナとふみは少し離れた場所で見ていた。

「あ、あの、なんで私はトラックの外にいるんだっけ」

 動揺してエレナが話しかけるものの、ふみは携帯電話でどこかに繋いでいるようだった。

「ダイゴ班長ですか? 見ての通りトラックが横転しましたので、クレーンで引っ張り上げようと思います。貸していただくことは可能ですか?」

『大丈夫なのか? クレーンを貸すのはできるけど、まず二人にケガはないのか?』

「ねえ、エレナ、ケガはないよね」
「え? ないと思うけど」
「エレナ、ふみの二名にケガはありません」

『というか、どうやってトラックから脱出したんだ?』

「え? 普通にドアから脱出しました」

『ドア? 何の魔法を使ったんだ。』

「トラックの横転は十分予想できたことですので。それによくあることですよ、ダイゴ班長」

『よくあるもんか。どういう職場にいたんだよ、ふみ。』
 ふみはすぐに第三班と合流し、大型のクレーンを一人で操作してトラックに近づいた。途中でダイゴ含む第三班の連中も協力し、トラックは元の姿勢に戻すことができた。
 ただし窓ガラスは破損しており、フロントガラスも一部ヒビが入っていた。

「本当にありがとうございます。さあ、エレナ。ゴールはもうすぐですよ」
「ええー、まだ運転しなきゃダメなの!?」

 流石に可哀想に思ったため、ダイゴがふみに相談を持ちかけた。

「今日のエレナは十分頑張ったと言うことで、ここからはふみが運転してくれないか?」
「はい、それは構いませんけど」

 すぐにふみがトラックに乗り込んで、敷地内に駐車する。他の第三班の人たちは、クレーンのワイヤーを外し終えていたため、すぐにふみはクレーン車に乗り込んでトラックと同じように元の場所へ移動した。
 全てを終えたふみがエレナのもとに戻っていく。
 他の第三班の人たちは戻っていたが、エレナのもとにはダイゴもいた。

「すみません、お手伝いして頂いちゃって。トラックは一部破損しましたが、まあ綺麗なものです。エレナって運転の才能があるんじゃないでしょうか。明日からエレナと二人で整備に入りますので、可能であればガラスは治したいと思います」
「なあふみ。前の職場ではこれが当たり前だったのかもしれないけど、一般警備ではもう少しレベルを低くしてくれないか。正直、横転したときにはかなり焦ったよ」
「え? あ、はい。了解ですが、問題でしたか?」
「ごめんね、ふみ。あと、ごめんなさいダイゴ。トラック壊しちゃって」

 エレナはかなり怯えているようだった。

「大丈夫ですよ、エレナ。ケガはないですよね。なら明日もがんばりましょう? 今日の経験は絶対に役に立ちますので、安心してくださいね」
「うん。わかった」

 ほとんど放心しているエレナは、何も考えずにふみにうなずいていた。そんな様子を見ながら、ダイゴはふみへの印象が大きく変わってきていた。

(何なんだ、この子は)

 ようやく落ち着くことができたエレナは、自分が立てなくなっていることに気がついた。

「どうしたの、エレナ。もう戻りませんか?」

 ふみが不思議に思い話しかける。

「ごめん、ふみ。もう少し待って」
「どうしたんです?」
「ほんと、ごめん」
「んんん?」

 エレナの様子がおかしい。ここでようやくふみが違和感に気がつく。

「あれ、さすがに何か」

 ふみが慌ててダイゴの方を向いた。

「どうした、ふみ」
「もしかして、異常事態ですか?」
「ごめん、何が言いたいのかわからない。トラックの横転はここでは異常事態だ」
「あ!」

 すぐにふみはダイゴの方を向いて深く頭を下げた。

「申し訳ありませんでした! 少し勘違いをしていたようです!」
「いいよ。ふみなら次は絶対こういうこと起こさないだろ? だから、今回のことは訓練中の想定された事にするから。実際に想定してたみたいだし。ただし、エレナの面倒はちゃんと見てくれよ。いまエレナは精神的に一番弱ってるんだからさ」
「はい! ありがとうございました!」

 ふみの全身から大量の冷や汗が出始めていた。
 それを見たダイゴが少し笑ってしまった。

「はは、ふみが焦ってるの始めて見たよ。本当に気にすんな。悪気は全然なかったようだし」
「お、お気遣いありがとうございます」

 ダイゴが二人に背を向けて歩きだした。
 ふみはエレナの隣に座り、落ち着くまでずっとそばにいた。
+注意+
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