挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
layer0 作者:運転安全
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

1/46

強制昇進試験1

 薄暗い部屋の中に、男が二人で向き合って座っている。
 一人は背が高く体格がよい。もう一人は細身でメガネを掛けていた。
 細身の男が言った。

「ここは? 僕がここに来た経緯を思い出せないんだけど」
「西村吉武さんですね。私はlayer1試験官の佐々野暁斗と申します」

 佐々野と名乗る背の高い男は、笑顔で西村に答えた。

「レイヤーワン?」
「そうです。layer1はご存知で?」
「ええ、確か私たちがいる世界がlayer2であり、layer1は神の世界だとか、そんなことを中学に習った覚えがあります。あなたは、正気なんですか?」
「はい」

 佐々野が立ち上がり、汚れて黒くなっているカーテンを開けた。窓の外は明るく、窓から緑が生い茂っているのが見えた。木々がひしめきあっており、遠くは何も見えない。
 佐々野がふり向いて西村へ言った。

「西村さん。あなたは今までに、非常に多くの窃盗をくり返しましたね」

 西村の表情が固まる。
 佐々野がさらに言葉を続けた。

「誤解しないで欲しいのですが、私は警察官のように西村さんを窃盗の犯罪者扱いするためにここにいる訳ではありません」
「窃盗など知りません。私は犯罪など行なったことはありません」

 すぐ西村が否定する。

「そうですか」

 佐々野が動き、部屋の奥にまとめて置いてある紙袋から書類を取り出して西村へ渡した。資料はかなりの分量があり重い。

「それはあなたが犯した窃盗の一覧です。被害総額も記載されています。私は全部見ましたが、そうですね、本当にすごい額だ」

 西村は恐る恐るそれを手にして、内容を確認して凍りついていた。

「なんで。どうやってこんなに詳しく調査したんだ。隠蔽は完璧で、今まで誰も気がつかなかったのに、詳細が全て知られてしまっているじゃないか!」
「layer1にある機関に問い合わせれば誰でも簡単に調査できます。layer2の人間は全員監視されているのです。でもlayer1は神の国なのですから、そういう仕組みがあってもおかしくはないでしょう」
「わかった。窃盗をしていたことは認める。被害総額も莫大だ。それで、あなたは僕をどうしたい? 窃盗したものを返せっていうのか?」

 西村は恐怖のため、若干興奮状態になっていた。そんな様子を見て、なるべく西村に刺激を与えないようにと、佐々野はやさしく丁寧に説明をした。

「先程も言ったとおり、私はlayer2の警察官や裁判官のようにあなたを裁くのが目的ではありません。そうではなく、あなたの窃盗の能力に敬意を示したい。西村さんの窃盗が余りに素晴らしかったため、あなたをlayer1に格上げして、神の国の一員にしてあげたいと思っています」
「なんだって? 格上げ?」
「そうです」
「あんた、本当に正気なのか?」
「ええ」

 佐々野の顔はやさしく笑みが浮かんでいる。その微笑みは、西村と穏便に会話が出来るようにするための配慮であった。

「神の国の一員なんて、そんなのは要らない。僕はlayer2の生活で満足できている。裁くつもりがないっていうなら、もういいだろ。帰っていいかい?」
「西村さんに帰っていただくことはできないのです。これは強制昇進試験と呼ばれており、西村さんには強制昇進の義務が課せられています。それは強制的なもの。あなたにはlayer1昇進試験を受ける義務があり、拒否する権利は無いのです」
「ちょっと待ってくれよ。いくら何でもおかしいだろう? 嫌だと言ったらどうなるんだ。お前が僕を殺すのか?」
「いえ、私はいつだって西村さんの味方です。私があなたを殺すことは無いでしょう。しかし、私以外の何かが西村さんを殺すと思います」
「は? 何かってなんだよ?」
「別の試験監督か、あるいは外にいるケモノです」
「ケモノ?」
「はい。試験のために人工的に作られたヒグマをベースにした人工生物であり、人を食い殺すことに特化した特殊な猛獣です」
「な、なんだよ、それ」

 佐々野が部屋の隅まで歩き、置いてある箱を開ける。

「西村さん、あなたがする事は単純です。この箱の中にある登山道具を身につけて、ただ指定された場所に歩いていけばいい。私はあなたのガイドとして道案内をします」
「ちょっと待てよ。ケモノがいるって、食われたら終わりだろうに」
「そうです。大半は食われて死にます」
「馬鹿言ってるんじゃねえ」

 西村が立ち上がり佐々野に怒鳴りつける。

「気持ちは分かりますが落ち着いて下さい。これは私が決めたことじゃない。私はただの試験監督であり、そしてあなたの味方だ。私としては西村さんには何とかして合格してもらいたいのです」
「そのケモノってやつが出てきたら追い払ってくれるのか?」
「それはできません。私はあなたに何でも助言できる。ゴールの位置、方向、飲水の場所、山菜の種類、道具の使い方など。しかし手出しはできないのです。それはわかって欲しい」
「あんたはケモノが出ても平気なのか?」
「私は平気です。でもあなたのためにケモノを倒すことはできない。それは試験官として、つまり試験のルールとして無理なのです。そんなことをして合格しても、たぶんあなたは失格として殺されます」

 西村は何も言えずに黙ってしまった。そして箱の中にある道具をいじり始めた。

「ずっとここに居たらどうなる?」
「ゴールへは制限時間があります。制限時間を超えたら、あなたは殺されます」
「そうか」

 西村は何も納得できていないまま、ザックの中に適当に道具を詰め込んだ。準備を終わらせ、二人は小屋の外に出た。家の中に戻れないようにと、すぐに佐々野がドアにカギを掛ける。西村はそれを見ていたものの、何も言う事はできなかった。

「さあ、方向はあちらです。でも、もう私たちの存在に気がついたみたいですね」

 佐々野が指差した方向には、かなり遠くの方に生き物が三体いた。視力の都合でうまく確認できなかったものの、こちらに向かってきていることだけはわかった。

「あれは本当にクマなのか?」
「限りなくクマには近い生物です。でも普通のクマより人間を食い殺す事に特化しているため、私たちはケモノと呼んでいます」
「どうしたらいい? 僕は食われたくない」
「これは試験なのです。戦うか逃げるか、私にはそれしか助言できません」
「何にもできないんじゃねえか!!」

 ケモノはゆっくりと確実に距離を縮めてきている。西村は慌ててザックに手を入れた。震えた手を抑えながら、大型のナイフを取り出す。それを手に茂みに身を潜めて隠れようとする。

「ケモノは鼻が効きます。何か対策をしないと身を潜めても見破られると思います」
「お前はどうするつもりなんだよ! 食われるのはお前も一緒じゃないのか!?」
「ご心配ありがとうございます。でも私は大丈夫、気になさらずに」
「なに言ってんだ馬鹿!」

 それから佐々野は、表情を何一つ変えること無く、ケモノと西村を見続けていた。

(何度見た光景だろうか。)

 佐々野が思ったことはそれだけである。
 ケモノと呼ばれる動物はクマによく似た形をしていたが、クマより口が大きく割れており、見た目はよりグロテスクで攻撃的に見えた。
 三体のケモノが近づいてきても佐々野の方を見ようともしなかった。逃げようとする西村をだけを確実に追い詰めていた。ケモノにとって佐々野は、餌を持ってきてくれる変な人くらいにしか認識していない。
 餌である西村はナイフで必死に抵抗していたものの、すぐ捕まり、そしてすぐ食われた。

 西村が食い殺されたたことで試験は中断。
 佐々野は試験場から引き返し、職場へと戻っていた。扉には『治安維持層・分析業務』という札が貼られている。部屋の中は、机と本棚が並べられておりかなり広かった。しかし、そんな広い事務室の中には佐々野一人しかいなかった。
 佐々野が椅子に座り、受話器に話しかけていた。

「強制昇進の試験が終わりました」
「結果は? まあ時間的にダメだったのは知ってるけど」

 受話器からは男性の声が聞こえてきている。

「はい、ダメでした」
「どのくらい持った?」
「ほぼ最短です。小屋から出たら、もうあいつらがいました。餌の時間だと思ってるんでしょうか。しかも自分には見向きもしませんでしたよ」
「ははは、あいつら頭いいからな。でもすごいな、暁斗のことをちゃんと覚えてるんだ。私の時はそんなことなかったよ」
「明日もお願いできますか?」
「熱心だな。早く誰か決まるといいんだが。でも受かったら佐々野の部下になるんだから、気に入らなかったら私のことなんて気にせず途中で殺してしまってもいいぞ。神への言い訳は任せておいて欲しい」

 物騒な言葉がとびだしても、佐々野は何とも思っていないようだった。

「主観でlayer1にふさわしく無いと思ったなら、殺そうとは考えています」
「うむ、そうするべきだ」

 電話を切る。佐々野が広い部屋を見渡した。だが部屋にいるのは佐々野一人。時計の音だけが静かに聞こえてくるほど、部屋は静まり返っていた。
 佐々野は立ち上がってコーヒーを入れた。

「忙しいな」

 誰に言うのでもなく、コーヒーを飲みながらつぶやいた。

 次の日、佐々野は同じ場所で、違う男性と向き合っていた。

「スコットさんですね」
「なにここ。病院? あんた誰?」
「私はlayer1試験官の佐々野と申します」

 その男性との会話は、前回試験に失敗して死んだ西村とほぼ同じであった。layer1に驚き、現状に驚き、そして男性が不機嫌にならないように、佐々野が丁寧に説明する。

「スコットさんは投資をやっておられるのですね。その金額は、一、十、百・・・、すごい額だ。これは本当にすごい」
「もしかして金額がすごいから誘拐されたの?」
「それもあります。投資額の大きさに加えて、その資金を用いて無差別に人を殺していたのに目を付けられたのかもしれません」
「は?」

 スコットの表情が固まる。

「勘違いしないで欲しいのですが、私はlayer2のように、あなたの事を裁こうとしている訳ではありません。あなたは、さまざまな投資活動を行って巨額の利益を得ては、その利益を用いて殺し屋を雇っている。ずっと沢山の人を殺していますね。しかも殺害の対象となった人物はみんな大物だ。何故殺したのか、それも明確な理由は無いようだ」
「ちょっと待て。なぜそんなことが分かる。組織が情報を漏らしたのか?」
「いえ、layer1は神の国であることはご存知ですよね。スコットさん以外にも、個人の情報は全部監視されているのです。だから調べれば何もかもが分かります」

 前日の西村の対話と同じように、スコットに資料が渡される。佐々野が話を続けた。

「それにしてもすごい額だ。被害者の名前もかなりすごい。これは国を滅ぼせるレベルだ。layer1に目を付けられたのも納得できる」

 スコットは多少焦ったものの、すぐに冷静さを取り戻して、落ち着いて佐々野に話しかけた。

「別にやっていないとは言うつもりはないよ。でも俺をどうしたいんだ。その大量の証拠を使って牢屋にでもぶち込むのか。言っておくが俺は全面的に争う。そんなもの出されても、弁護士でも何でも雇って全面的に抵抗させてもらう」
「いえ、私はどちらかといえばあなたの味方です。どうか身構えないでいただきたい・・・」

 同じような反応、そして同じような返答。佐々野はこれを何度も繰り返し行ってきていた。
 佐々野の説得がしばらく続く。最後には根負けをしてスコットがしぶしぶ了承。装備を整えて部屋から出た。
 スコットはすぐにケモノに見つかり、そして食われた。

 次の日は詐欺師の女性。

「どうか立ち上がって下さい、ソニアさん」

 床に座り込んだ女性に、何とか立ってもらおうと、佐々野は説得を続けていた。

「いや! どうして私がこんな目に合わなきゃダメなの? 殺されたくないし、動物に食われて終わるのも絶対にイヤ!」
「でもここにいたら確実に殺されます。お願いです。部屋から出てくれませんか」

 ソニアはずっと泣いており、部屋から出ようとしない。

「餓死してしまいますよ。ここにある食料は何日も持つわけではありません」
「私がここから出ても、すぐケモノに食べられるんでしょう?」
「それはわかりません。少なくともあなたには試験を合格できる可能性がある」
「そんな思いをするのと、ここで餓死するのは、どっちでもいいのでは?」
「気を落とさないで下さい」
「・・・」

 佐々野の方を向いて首を降る。ソニアは床に座り込んだまま、動くつもりはないようであった。

「佐々野さん」
「はい」
「私を殺して下さい」
「それは出来ません」
「・・・」

 そのまま固まってしまう。

「ソニアさん!」
「・・・」

 佐々野の呼びかけに、一切答えようとしなかった。
 沈黙を続けたまま小屋で一日経過。翌日にソニアは登山用品のナイフで自殺した。

 次は連続殺人犯の男性。

「ケモノなんていなかったな」
「そうですね。大抵は入り口すぐに待ち構えているのですが、羽賀さんはとても運がいい」

 その羽賀と言う男性は、体格が細く痩せ型であった。しかし体力はかなりあるようで、日中は山道を力強く歩いており疲れも見えていなかった。
 やがて日が暮れる。周りが見渡せる開けた場所で焚き火を起こし、佐々野と羽賀は向き合って座った。

「後どれくらいなんだ」
「本日のペースとしては悪くなかったとは思います。でも20日くらいはかかります」
「そんなに? 今日は持ってきた缶詰しか食ってないんだが、あと19日分も無いぞ」

 手持ちのザックに手を伸ばして数を確認していた。

「途中で山菜や動物をとって食べるしかありません。そんなことをしている時間を考えると、明日はペースを上げたほうがいいと思います」
「今日のペースはそんなに楽じゃなかったんだがな」

 羽賀は缶詰を二つ食べようとしていたが、手を止めてザックの中に戻した。

「あんたはこの仕事して長いのか?」

 羽賀が佐々野に問いかける。

「そうですね。私がこの試験に合格して何年になるんでしょうか」
「あんたもこの試験を受けてたのか?」
「はい。私は元layer2の住人で、羽賀さんと同じように強制昇進試験を受けて合格しています」
「そうかぁ。何かもうあんたと俺じゃあ感じが違うもんな。やっぱりここに来る前は山登りとか得意だったのか?」
「いえ、本試験は適性が合わないように調整されていますので、私もあなたと同じように、登山経験はなく、そして軍や消防署員など、体力を使うような仕事をしたことがないのです」
「そういうものなのか」

 羽賀は佐々野と話しているうちに、大分緊張は解けてきているようであった。

「条件は私と同じ。私に出来たのですから、羽賀さんにも出来るはずなのです。だからこそ、あなたには頑張って欲しい。絶対に受かって欲しいのです」
「ああ、頑張るよ。あんたと一緒に働ければいいな」
「合格したら一緒に働けます。そうしたら、羽賀さんの好きなお酒でも飲みにでも行きませんか。お祝いに私がおごりますよ」
「ははは。是非お願いします」

 二人は和やかに笑って、そして焚き火の日を消して就寝に入った。
 その夜、羽賀はケモノに襲撃されて死んだ。

 次は素手で大量に人を殺害した男性。

「お前をぶち殺せばいいんだな」
「ジンさん、ちょっと待って下さい。落ち着いて下さい。私はあなたの味方なんです」

 その男性はスキンヘッドであり全身が筋肉質で背が高い。佐々野に明らかな敵意を向けており、今にも襲いかかろうとしていた。佐々野は、そんなジンをなんとか落ち着かせようしていた。

「ならとっとと元の世界に返せ。わかりきったことを言わせるな」
「私はただの試験官ですので、そんなことは出来ません。もっと言うなら、私を殺してもあなたは自力でここから出なければいけないんですよ」
「車とかあるだろ」
「ありません。外をご覧になりますか? 私もあなたと一緒に、このケモノが沢山いる山地に捨てられていることになります」
「何なんだよぉ、それ」

 佐々野はジンに対して始終低姿勢で対応していた。そんな様子に影響されているのか、ジンの表情に怒りがなくなっていく。ちゃんと佐々野の話に耳を傾けるようになると、すぐにうなだれて気弱になっていた。

「でも、ジンさんだったら大丈夫です。今まで見てきた人たちより、すごく体格が良く強そうだ。注意深く行動すれば試験は突破できるはず」
「本当かよ。っていうか今までお前が見てきた中で、何人テストを合格できたんだ?」
「ゼロです」
「ゼロって。みんな死んだのか!」
「はい。でも全員があなたのような体力の有りそうな人ではなく、会社員みたいな感じの人がほとんどでした。ジンさんならクマも殺せるんじゃないかと思います」

 いつの間にかジンが弱気になっており、佐々野が励ます形になっていた。

「クマなんて殺したことねえよ」
「先程もいいましたが、私はあなたの味方ですし、あなたには是非合格して欲しい。しかし手出しは出来ません。あなたの力だけでここを抜けなければいけない。わかってもらえますね?」

 ジンは黙って立ち上がると、ほかの人たちが実施してきたように、箱の中から道具を取り出して準備を始めた。いくつかジンから質問が出ていたが、佐々野はジンが納得するまで丁寧に説明していた。
 二人が部屋から出る。毎度同じように、佐々野は部屋にカギをかけた。

「あれがケモノってやつか」

 遠くに一体だけ待ち伏せしていたケモノが寄ってきていた。

「そうです」
「走って逃げれそうだな」
「ケモノは平地では人間の何倍も早く走ることが出来ます。なので走って逃げるには、何らかの工夫が必要かと」
「そうなのか」

 ジンはカバンからナイフを取り出した。近くの木の枝に刃を叩きつけて切り落とした。テープを使い、木の棒の先端にナイフを固定して槍を作った。

「これで行くしかねえな」

 槍を持ったジンが恐れずにケモノの方向へ歩いて行った。

「正面から行くのですか?」
「近づいたら考える。絶対に殴り殺す」

 ジンの堂々とした歩みを見ると、ケモノの方が怖気づいたのか、すぐ横の茂みの方に走って逃げていった。

「逃げたか。油断できねえけど」
「すごい。ジンさんすごいですよ。こんな事は初めてだ」
「はは」


 日が落ちてから時間は立っており、辺りはすでに真っ暗になっている。それでもジンは歩みをやめようとはしなかった。

「ジンさん、暗い中での行動は極めて危険です」
「それは知っているが、お前の話を聞く限りだと、少しでも距離を稼いでおかないとダメなんだろ」
「そのとおりです。決めるのはジンさんです。どうかお気をつけて」
「ありがとよ」

 ジンはヘッドライトの頼りない明かりだけを頼りに、一晩中歩き続けていた。やがて日がのぼり、明け方になったが、何の問題もなく歩みを進めていた。

「明け方になると昼まではケモノが活発になりますのでお気をつけて」
「おう。少し休むよ。ペースはどうだい?」
「徹夜の行動で、まる一日の余裕は出来たと思います」

 ジンの体からは汗が滲んでおり息も上がっているが、まだ余裕がありそうであった。しかしジンとは対象的に、佐々野は全く疲れておらず、少しも汗が出ていないようであった。

「あんたの中の最高記録か?」
「いえ、5日程度まで頑張った人はいます」
「そいつはスゲー鍛えてたとか」
「ひ弱な学生でしたね」
「意外なもんだ」

 地面に腰を下ろして休憩を取る。行動中に適当に採った木の実と、佐々野から教えてもらった山菜を生でそのまま食べていた。

「この試験では、長期間生存した人の特徴に共通点はありませんでした。男性も女性もいますし、体力がある人もない人も関係ないようでした」
「女性もこんなことしてるのかよ」
「はい、長期間生存した人の比率としては、男性の方が多いです」
「しかしこんなクソみたいな試験をやって、神は何がしたいんだか。合格者はいないんだろ?」
「合格者はいます。私が試験官を担当してから合格者はいませんが、最後の合格者は私です」
「はあ? お前かよ!」

 ジンが改めて佐々野の方を向いて驚いていた。

「お前、やっぱり強いんだな。俺に付いてきているのに、息一つあがってねぇし。最初に殺すとか言っちゃったけど、どうも俺だと無理っぽいな。ハハハ!」
「いえいえそんな」
「しかし試験官があんたみたいな親切なやつで助かったよ。ずっと俺の事を心配してくれてるし。なんとか頑張れそうな気になるんだ。これから気力が続くまでは寝ないで行くぞ」
「ええ、でも十分お気をつけて」

 ジンならゴール出来るのではないか。佐々野は大分期待していた。
 だが二日目の深夜に足を滑らせて、崖から落ちて死んだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ