第8話:Party
「ねぇ、新一君の復帰お祝いパーティーしない??」
ある日の放課後、新一と蘭、園子の3人での下校途中で園子がそう切り出した。
「はぁ?」新一と蘭は同時に口にした。
「いーじゃない。土曜日の夜にやれば、和葉ちゃんや服部君も呼べるし?
例の少年探偵団のガキんちょ達も呼んでもいいし。」
「でもさー、園子ー。新一が帰ってきてもう結構たってるよ?
『復帰』って…。」
「いーじゃない。楽しけりゃ♪」
新一たちの有無を言わさずパーティー計画は進んでいた。
〜ある土曜日の夕方〜
鈴木邸ではパーティーが行われていた。
新一はグレーのスーツにネクタイなし。いつもと同じ…格好で鈴木邸に入ってきた。
その後ろからはピンクのキャミワンピのロングドレスにショールを羽織った志保の姿が。
「お姉ーさーん!志保お姉さーん!」志保の姿を見つけて真っ先に駆け寄ってきたのは
赤のドレスに赤のカチューシャ姿の歩美だった。
「志保お姉さん。こんばんは。とってもキレー」
「こんばんは。歩美ちゃん。歩美ちゃんもとっても可愛いわよ。」
志保は歩美の目線に合わせて、そう言うとにっこり微笑んだ。
「えへへへ」歩美は大好きな志保に褒められて頬を赤く染めた。
「新一お兄さんもこんばんは。」隣にいる新一に気付くと丁寧にお辞儀をした。
「こんばんは。歩美ちゃん。」新一もにっこり微笑んだ。
「元太君に光彦君もこんばんは。」
歩美の後ろからいつものようについてくる2人にも志保は声を掛けた。
「こんばんは。」光彦は丁寧にお辞儀をした。
「こんばんは。なぁなぁ、ここの料理食べ放題だってよ。うな重は無かったけどな。
早く食わね−と姉ちゃん達の分なくなるぜ?」
「もー、元太君はそればっかりですね?」
「いいじゃねーか。おぃ、光彦!今度はあっちのテーブルに行ってみようぜ?」
元太は挨拶もそこそこに料理のいっぱいのっているテーブルに駆け出した。
「あっ、待ってください!」光彦もそれに続いた。
残された歩美は志保の顔を見ると少し小声で
「志保お姉さん。…その…あのね…。あ、哀…ちゃんは、元気かな?志保お姉さんは、
哀ちゃんと連絡してる?歩美ね、哀ちゃんにいっぱいお手紙書いたの!だから…だからね。」
「哀は元気してるわよ。歩美ちゃんの手紙、哀に送ってあげるわ」
「本当?ありがとう、志保おねえさん!!」
「あの子、あまりそういうことしないから。…ごめんなさいね。歩美ちゃん。
ちゃんと返事も書くように言っておくから。」少し目を細めて寂しそうに答えた。
「うん。じゃあ、今度持っていくから!絶対に絶対だよ!」
歩美は嬉しそうに元太たちの元に走っていった。
志保は小さく溜め息をつき「あの子達は傷つけたくないわね」と哀しい笑顔をつくった。
新一は志保の肩をポンっと叩くと優しく笑いかけた。
志保はいつもの表情に戻すと「貴方にはないみたいね?忘れられちゃったんじゃない?」
と意地悪そうに口元を引き上げた。
新一がジト目で志保を見た…
「よぉ。工藤!!」
「服部!!オメェも暇だな?こんな所までワザワザ来るなんて」
「しゃーないやろ?和葉が『行きたい!!蘭ちゃんに会いたい』ってゆーんやから。
俺は別に来とーなかったんや。」
新一と平次の会話に後ろにいた志保がくすくすと笑った。
「貴方たち、本当に仲がいいのね?」
「おっ?もしかして…灰原の…ねーちゃんなんか?」平次はその相手を凝視した。
「えぇ、この姿で会うのは、初めてね。」
「なんや、えらいべっぴんやなぁ?ホンマ18歳やったんやな?工藤から戻ったとは聞いとったけど」
「あら?ありがとう。お世辞がうまいのね?」志保が笑うと平次は
「まぁ、なんにせよ、元に戻って丸く収まったわけやし?灰…やのーて宮野のねーちゃんも
お疲れさん!ちゅうことで…今度デートしよか?俺が大阪、案内したるでー?
大阪にはな、ぎょーさんいいとこがあるさかいに」
「ちょっと、待て!何でお前が志保とデートなんだ?お前には和葉ちゃんがいるだろ?」
新一がジト目で睨んだ。
「なんや?和葉は別に何でもないやろ?そないゆうなら、お前もまた案内したろか?
まだまだ、大阪にはいいとこあるでー?」
「あぁ?遠慮するぜ。また、パトカーで案内させられそうだしな」
「なんやとー?あの車は新品やってんで?」
志保は二人の会話に呆れて一人パーティー会場の中に消えていった。
「新一!!遅かったじゃない?もうパーティー始まってるよ?」
蘭が新一の姿を見つけ近づきながら話し掛けた。
「あぁ、志保が準備に手間取ってな。」新一がそう答えると
「そ、そう」蘭は少し俯いて答えた。
(…一緒に来たんだ。そうだよね?お隣だもんね。…宮…野さん、綺麗な人)
蘭はさらに不安が大きくなった。
(もしかして…新一って…)そう思って蘭は大きく頭を振った。
「蘭?どうかしたか?」新一の問いに「えっ?…ううん!なんでもないよ。」
そう答えるのが精一杯だった。
「工藤君!!やっと帰ってきてくれたか!!これからも君には期待しとるぞ!!」
そう言って新一の背中を叩いたのは…目暮警部。
「目暮警部殿!この私、名探偵毛利小五郎もお忘れなく!!」
パーティー会場はいつもの顔ぶれが揃っていた。
目暮警部、佐藤、高木、白鳥、千葉刑事まで…。
(おぃおぃ、どうなってんだよ?警視庁捜査一課はそこまで暇なのか?)新一は苦笑いしていた。
おっちゃんが来てるってことは…妃さんもいるんだよな?
妃さんの姿を見つけて新一は目を丸くした。
その隣には新一の両親が立っている。
「いつ、帰ってきたんだよ?息子にも連絡なしかよ?」
「あら、新ちゃん!!元気してた?さっきロスから戻ってきたのよ。
で、英理ちゃんに電話もらって来たってワケ♪たまたま帰ってきたらパーティーだなんて
運がいいわね?ね?優作!!」
「そうだな。新一も元気そうで良かったよ。」
「あぁ、お陰様でね。で?いつまでいるんだ?」
「2,3日はいるつもりだよ。日本の出版社との打ち合わせがあったからね。
あぁ、あともうすぐ闇の男爵の新刊が出るからまた送っておくから」
「マジ?」
「ちょっとー、そんな話よりー新ちゃん!!どうなのよ?」
「あ?何が?」
有希子が新一に耳打ちするように小声になる。
「蘭ちゃんよ!ら・ん・ちゃん!戻ってきた時に言ったんでしょ?」
「何にも言ってね−けど?」
「えー?どーしてぇー?」
「別に、蘭とはどうもなってねーから!」
そう言って新一はパーティー会場の人込みに入っていった。
「どーして?ねぇ、優作−。」
優作は新一の後姿を新一と同様あごに手をかけ目を細めた。
「志保君。こんばんは。あまり楽しそうじゃないね?」
志保は窓際に1人佇み外をみていた時、後ろから声を掛けられた。
「こんばんは。いつ此方へ?」
「夕方にね。日本で打ち合わせがあったんだよ。」
「そうですか。…あの、私…何て言っていいか…あの時は本当にお世話になりました。」
「いやいや。皆無事に戻って来れたんだ。君も辛かっただろう。」
「いえ、私なんか。こうして生きていられるのも皆さんのお陰です。」
「それに、君には感謝しているんだ。」
「えっ?」
「新一を元の姿に戻してくれただろ?有希子も本当に喜んでたよ。ありがとう。」
「そ、そんな、感謝だなんて…元はといえば私の所為でこんな事になってしまって…
恨まれるのが本当なのに……」
「もう、そんな事気にしなくてもいいんだよ。君の罪はもう消えたんだから。
何も気にせずに君は君の幸せを見つけていくといい。それが私達の希望でもあるからね。」
「幸せ?」
「そうだよ。有希子も私も、それに新一もきっとそれを望んでいるはずだから。」
「工藤君にも言われました。『誰も責めたりしない』って…。でも工藤君だけじゃない…
有希子さんにも優作さんにも…他にも何人もの人を苦しめたんです。工藤君には
1年と言う時間を奪ってしまいました。彼女の元から引き離してしまったんです。
彼にはとても辛く苦しい時間をあたえてしまったんです。今、ここに居られるのは
工藤君のお陰だけど…私は何一つ彼にしてあげる事は出来ないんです。それなのに彼は
私を…責めてくれれば…憎んでくれればいいのに…」
「それは違うよ。新一は志保君を恨んだり憎んだりはしないだろう。それどころか、
きっと君には感謝していると思うよ。」
「かん…しゃ?…く…どうくんが?ど、どうしてですか?」
「それは親の私が言う事ではないからね。私の勘は当たるんだよ。」
そう言うと優作は身を翻し人込みの中に消えていった。
新一は適当に復帰の挨拶を済ませるとパーティー会場からベランダへの扉を開けた。
ベランダへの扉を閉めると室内からの声は聞こえなくなり1つの空間を作り出した。
新一はベランダの手すりに背を預け両肘を掛けると仰け反るように空を仰いだ。
風が少し吹きその心地よさに目を瞑った。
少し変化した風が新一の周りに吹くと新一は
「今日は予告状出してねーだろ?何しに来たんだ?……快斗?」といるであろうその場所に
目を瞑ったまま話し掛けた。
「今日は確かに出してはいませんよ。名探偵。でも、その名前はやめて頂けますか?」
と新一と同じ声でクスクスと笑った。
新一はゆっくりと目を開け体を翻すとベランダの前にある大きな木の枝に座っている白い姿の
人物に続けて話し掛けた。
「そうだったな。その格好の時は違ったな。…KID…で?何の用だ?」
新一もフッと笑った時、会場からの扉が開いた。
「なんや?黒羽やないか?何しにきてん?」声の主は服部平次だった。
「全く、貴方たち名探偵は。困った人たちだ。」KIDはそう言うと目を瞑り溜め息をついた。
「で?何しに来たんだ?俺たちに捕まりに来たのか?」新一はクックッと笑ってKIDを見た。
「違いますよ。それに今日ここへきたのはお祝いを言いに来たのですよ。『復帰祝い』にね。」
「どうでもええケド、ええ加減その格好どうにかしたほうがええで?中にはお前の敵さんが
ぎょうさんおるからな。でも、中森警部はさすがに予告無しではこられへんからなぁ。」
平次も新一の隣にきてKIDにそう告げ笑った。
「そうですね。そうそう、今日はもう一人貴方にお祝いの言葉を言いたい方がいるのですよ。」
そう言うとKIDはボンッと白い煙幕と共に消えた…と同時に新一と平次の後ろに
すたっと降り立った。
「しんいちー。復帰オメデトー♪」その人物は笑顔を向けた。
「何なんだよ?オメェはよ?普通に玄関からこれねぇーのかよ?」新一は快斗に呆れていた。
「だぁーってー。俺の正体、みんな知らねーじゃん?招待状来なかったしさー。
しかもSPがいっぱいいてまともに入れなかったからKIDでお空から来たんだよ♪
それにさ、新一たちに会いたかったしー。」さっきとはまるで違う口調だ。
KIDと黒羽をちゃんと分けている。
「なんや?工藤もえらい人気者やなぁ?今日も主役のパーティーでぎょうさん人が集まっとるしな。」
平次がからかい気味に言うと
「バーロ。何が主役だ!そんなの肩書きに決まってんだろ?現に俺がいなくても
誰一人気付いてないじゃねーか。騒ぎたい奴等ばっかだよ。」
「そらそーや。俺もその一人やしな。」とケケッと笑った。
新一は手すりから体を離すとパーティー会場へ足を進めた。
「何や?戻るんか?」と聞かれ「いや、ちょっと目暮警部に話があってな。すぐ戻るよ」
「しんいちー。俺がいることチクらないでね♪」快斗はそう言うと手をひらひらさせた。
「あぁ、言っておくから心配すんな」そう言うと会場の扉を開けた。
「!!」快斗は瞬時にしてベランダから飛び出し木の上に移動した。
ガチャ
パーティー会場からの扉を開けたのは蘭だった。
「あれ?服部君1人?さっき誰かいなかった?」蘭はあたりを見渡した。
「お、おぅ、俺1人やで?何や?工藤ならさっき目暮はんとこ行ったで?」
平次は目をきょろきょろさせながらも平静を装った。
「あっ、うん。知ってる。…その、服部君に…聞きたい事があって。」
「何や?」
「…その…服部君、新一から何か聞いてる?」蘭は俯きながら言葉を探した。
「ん?何をや?」平次は蘭を不思議そうに見つめた。
「ん。新一って…何か戻ってきてから…少しおかしい…からさ。何か聞いてない?
服部君は何か気付かない?」
「いや?別に俺は何も聞いてへんぞ?工藤がおかしいって?そうやろか?」
平次は会場内の新一の姿を見ながらそう答えた。
「そ、そう。ならいいんだ。じゃぁ、私の勘違いね。ごめんね。変なこと聞いて。」
そう言うと蘭は会場へと戻っていった。
「…お前も何かは気付いてんのやろ」平次は蘭の後姿を見送ると
「…うん。あの子の言いたい事は分かるよ。平次も知ってるんでしょ?」
そう言うと再び快斗が平次の横に降り立った。
「あぁ、工藤からは電話でしか話は聞いとらんかったけどな。工藤は気ぃついてないな。」
「そうだね。新一、自分の事に関しては鈍感だからね。」そう言うとクスクスと笑った。
「あのねーちゃんには可哀相やけどなぁ。こればっかりはどうしようも出来へんわ。」
「そうだね。」快斗も平次に同感した。 |