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超空陽天楼 作者:レルバル

解放への道

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軍艦霧中

「春秋、フェンリアさん。
 状況は?」

 こういう状態においてすぐに復旧されるように選択されているのは通信システムだ。
今回もその教訓は生かされており、すぐに通信システムだけはオフラインからオンラインに戻る。

『俺達は、第三防壁を突破されてシステムが全部ダウンっす。
 兵装もダメっすね
 完全に浮かぶだけの鉄くず状態っす』

まだまだノイズが混ざっているが、聞き取れないほどではない。

『少し時間をくれれば機関だけでも復旧できるはず。
 春秋、緊急マニュアルを開きシステムの再起動を。
 私もすぐに終わらせる。
 蒼様、約十分ぐらいあれば戦力になれる』

 頼もしいのはフェンリアだ。
こういうときでも冷静さを失わずに春秋に指示を飛ばす。
短く返事をし、春秋も自分の艦の復旧を急ぎ始める。

「了解しました。
 それまであの正面の敵は私が対処します」

(自動修復装置での回路の再構築を開始する。
 対象装備“イージス”及び“強制消滅光装甲”を指定。
 完了まで約十分だ。
 それまで何とか耐えるしかないようだな)

 遠くに見える古いつぎはぎの軍艦にはためく黒色の骸骨旗は風にはためいている。
さっさとその布ごと燃やし尽くしてやりますよ。

「兵装システムがオンラインになるにはどれくらいかかりますか?」

(約二時間……二時間くれれば……)

「っち、じゃあ駄目じゃないですか……」

(すまない。
 全処理を“イージス”及び“強制消滅光装甲”回復に費やす)

 機関が動くだけまし、と考えるべきだろう。
蒼は思考を切り替え、敵艦たちを睨みつける。

【野郎共!
 やっちまえ!!】

【了解ですぜぇ兄貴ィ!!!】

 戦況はすぐに動いた。
敵駆逐艦が艦隊から離脱し、襲い掛かってくる。
三隻の駆逐艦もまた戦艦と同じく型が特定できないほどに古いものだった。
それでも敵は海賊であり、ヒクセスやシグナエの軍艦まで奪った猛者たちだ。
外見に騙されてはいけないだろう。

(敵駆逐艦、接近!
 注意されたし!)

 三隻の駆逐艦が《ネメシエル》の前面に押し出されてくる。
二基の対空砲と四角い艦橋。
錆が目立つ船体は年期を感じさせる。
平べったい甲板に並ぶ三連装魚雷発射菅が旋回し、《ネメシエル》達三隻に向かって魚雷を吐き出してきた。

(敵魚雷を発射!
 数三十、まっすぐ突っ込んでくる!)

飛んで回避したいところだが浮上したら浮遊島がある。
頭を抑えられている以上、空を飛べない蒼はこの巨体を制御している自分の身に舌打ちする。

「っく、機銃も動かないし……割とまずいですよこれ……」

 今の《ネメシエル》は粘つく海面を切り、宙に浮かない姿は大昔の戦争のやつに軍艦を彷彿とさせる。
蒼はその当時の戦術をデータベースから引きずり出し、参考にする。
空を飛べない《ネメシエル》もその大昔の戦争の法則に従わざるを得ない。

(魚雷着弾予想地点の特定を開始。
 何とかして避けれないものか)

「了解です。
 敵魚雷の航跡を憶測でマップに表示してください」

 マップに三十本の魚雷が赤色の矢印で表示される。
弾密度はかなりのものだ。
それでも何とか間を縫えさえすれば、全幅が六百メートル弱もある《ネメシエル》でも避けることが出来る。
そう踏んだ蒼は魚雷に向かって船体を縦に持って行こうとした。

「っ、《ネメシエル》。
 このまま真っ直ぐに!
 舵そのまま」

だがすぐに思い直す。

(何をしているんだ蒼副長!
 それでは……!)

「いいですから!」

(魚雷着弾まで三、二、一……今!)

 《ネメシエル》の右舷に十三本の着弾の水柱があがった。
“イージス”も“強制消滅光装甲”もない船体に容赦なく魚雷が食らいつく。
弾頭に搭載されていた“量子”に信管が命令を下した。
一瞬にして量子が暴走を始め、空間が歪む。

【よっしゃ命中だ!
 結構ちょろいぜ兄貴!】

【案外《超極兵器級》ってのも大したことないんじゃないっすかぁ!?
 あれも奪い取ってしまいましょうよ!】

【ギャハハハ!
 バカ言うな!!!
 そしたら俺達はまさに最強の軍隊になっちまうだろうが!!】

 現実と別の次元を引きずり出すほど高濃度で圧縮された量子の塊が《ネメシエル》の舷側を噛み千切る。
“セラグスコン”で作られた装甲は重ねられた装甲のうち三枚ほどを蒸発させる。
並の戦艦だったら三発も受ければ轟沈していただろう。
だが《ネメシエル》は耐えてみせる。

『蒼先輩別に俺達のことはいいっすから!』

 その光景を見て春秋が絶叫した。
蒼は首を横に振って否定する。
恩にきってほしくてやっているわけではない。

「……構いません。
 この程度……《ネメシエル》にとってかすり傷です」

 第四装甲まで突き破られたものの空間装甲の間に充填された特殊ベークライトのお陰で被害は最小限で押し止められる。
バイタルパートにまで届かない損傷で、かすり傷といっても差し支えないレベルだったが“レリエルシステム”は相応の痛みを蒼に伝えてくる。

『危険です蒼様。
 今のが“量子拡散兵器”だったら私達はみんなやられていたんですよ』

「……《ネメシエル》損害は?」

フェンリアの言葉を無視し、問う。
分かっていることだ。
全て分かっている上でこの行動に起こしたのだから。

(極めて軽微だ。
 私は《超極兵器級》だぞ?)

「……ですね。
 《ネメシエル》機関巡航速度を維持。
 ここから離れます」

 機関出力を六十パーセントにし、現在地点から移動する。
その《ネメシエル》を追撃するように敵駆逐艦も《ネメシエル》の後ろをついてくる。

「うっとおしい……!」

二隻の僚艦から離れ、巻き添えがないと判断した所で《ネメシエル》は敵へと艦首を向ける。
この攻撃で黙らせてやりますよ。

【そうはさせるか!】

 向かってくる《ネメシエル》に敵駆逐艦から再び魚雷が吐き出される。
その魚雷を艦首で、舷側で受けつつ《ネメシエル》のスピードをさらに上げていく。
同航戦をやめ、《ネメシエル》の船体が敵へと近づいていく。
《ネメシエル》のスピードが五十ノット以上に達したとき右舷艦首が敵駆逐艦と接触した。

「よしこれで……」

 敵駆逐艦の装甲が破れ少なくとも浸水程度の、損害が敵には発生する、と考えていた。
ところが敵駆逐艦は《ネメシエル》の艦首からぬるりと逃げるように動いた。

「な!?」

【“対衝撃装甲”だけは負けねぇよバーカ!!】

まるでゴムボールに当たったような感触と共に敵駆逐艦が弾んだ。
その弾んだ駆逐艦は海を跳ねるようにして逃げていく。

「何ですかそれ!?」

 曲りなりにも船の形をしているがその形に深い意味はないとでも言うのだろうか。
全く敵の損害は認められない。
蒼の軍艦は鋼鉄で出来ていると思っていた先入観を利用されたのか。
ギリ、と歯を食い縛り蒼は沸き上がる苛立ちに

(敵駆逐艦は柔らかいぞ蒼副長。
 どうやら装甲が……)

「見れば分かりますよ!」

 思わず《ネメシエル》に八つ当たりをしてしまう。
再び船体を回転させようにも敵駆逐艦は遥か横へと逃げてしまっている。
またぶつかったとしても《ネメシエル》の攻撃は相手には通らないだろう。

【食らえ!】

その隙に新しい魚雷がまた叩き込まれる。
舷側に上る水柱、そして損傷が少しずつ増えていく赤いエリアと被弾カウントだけが増えていく。
こうなれば従属艦を利用して左右から挟みこむようにして撃破するのが一番だと考え、蒼は二人に話しかけた。

「春秋、フェンリアさん、まだですか!?」

『もう少し待ってほしいっす!』

『同じく。
 回路が焼き切れている箇所がある』

(敵装甲の分析が完了した。
 マクラーレ共立国のものだな。
 片方からの衝撃を受け流す作用がある。
 元々マクラーレ共立国はラム戦が得意な国だ。
 そのための装甲だろう)

「両側からの挟み込む衝撃はどうなんですか?」

(ふむ。
 衝撃を受け流せなくて破損するようだ。
 やるとしたらこれしか手はないが……)

 その作戦も不可能。
《アルズス》、《タングテン》と共同して潰すことが出来ない以上ネメシエル一隻で敵駆逐艦を相手するしかない。
何かで挟み込むようにすれば撃破する事は可能だろう。

【なんだ所詮こんなもんなのかよ!
 兄貴ィ!
 俺達で世界取れるんじゃないっすかぁ!?】

【バカ野郎焦るなィ!
 こいつらが弱ええだけかもしらねえ!】

 敵の無線が更に苛立ちを加速させる。
挟み込む物挟み込む物……。
浮遊島に挟むことも考えたが、《ネメシエル》がぶつかってしまった場合を考え却下する。
動かない二隻のところにまで持っていくか。
いや、敵もそれを読むだろう。
なんとか《ネメシエル》の装備で撃破するしかない。
考える蒼の頭に一つの物が浮かんだ。

「……《ネメシエル》主砲発射モードへ。
 緊急プロトコルによる処理を開始してください」

『蒼先輩!?
 撃てるんすか!?』

春秋が茶々を入れてくる。

「撃てませんよ!!
 ごほん。
 《ネメシエル》いいですから主砲展開を開始してください。
 ただし、展開は三十パーセント程度で抑えてください」

考えを“レリエルシステム”で伝える。

(全く大した発想だ。
 了解、主砲発射モードへ。
 緊急プロトコル承認、艦首の統括システムを抑制。
 私が直接統括する。
 艦首隔壁解放、特殊閉鎖待機する)

 逃げる駆逐艦を《ネメシエル》が追う。
だが駆逐艦からしたら《ネメシエル》の攻撃を全て無力化できているという安心感がある以上必要以上に避けるよりも近距離から魚雷をぶち込んだほうがいいと判断したのだろう。
逃げるどころか逆に寄ってきたのだ。

【ゼロ距離の攻撃をくらいなぁ!!!
 兄貴ィ!
 見ててくださいよ!!】

【おうよおめぇら!!
 見とくからちゃんとするんだぜ!!】

「後悔しないでくださいよ……?」

 そして蒼はその相手の怠慢を逃すつもりはない。
機を伺い相手と自分がもっとも接近するタイミングから逆算を重ねる。

「今です《ネメシエル》!」

そのタイミングが来ると蒼は《ネメシエル》へと指令を下した。

(了解隔壁閉鎖、三番から四十五番まで。
 右舷、左舷共に機関出力安定。
 第八ブロックから第三百ブロックまで閉鎖。
 伝導管の接続を解除、新規接続。
 艦内装甲、主砲発射へと移行を開始。
 両舷装甲、接合を解除)

 《ネメシエル》の艦首が上下に開く準備を始める。
舷側に白い筋のようなものが走り、その筋を境として境界のロックが外れていく。
全てのロックが外れ、防水の為の隔壁が降りたのと同時に艦首が開いていく。
開いた艦首から覗くのは鋼鉄の歯のような装甲と、数々の射撃安定システムのビルのような姿だ。
まるで狼の口内を思わせるようなその姿は、獲物を食いちぎるためだけに口を開いた。

【な……変形……?】

【かまうこたぁねぇ!!
 魚雷をぶち込んでやれ!!】

(B二十三からH四一までのシステムプロセスを承認。
 特殊回路形成完了。
 主砲発射プロセスに従い装甲の展開、及び変形を行う。
 エネルギー脈停止まで三秒。
 特殊ユニット接続による艦首統括システムを再起動開始。
 主砲展開開始。
 プロセスの三十パーセントで停止させておくぞ?)

「それで大丈夫です。
 こんなやつらに主砲を使ってられません」

 蒼の視界に赤と黄色の表示が現れては消える。
正規コマンドではない緊急コマンドは船体に大きな負荷をかけるいわゆる非常用のエラーモード。
そのエラーのおかげで規格外の出力、規格外の変形を可能としている。
ネメシエルは主砲を発射する際にはそのエラーモードを利用するように改装されていた。

【食らえ!!】

 ぶっ放されてくる魚雷をものともせず《ネメシエル》の変形はとまらない。
上下に開いた艦首のうち下の部分が少し開き、内部機器を露呈させる。

【バカ!
 逃げろ!!】

「無駄ですよ!
 《ネメシエル》ちょい浮上!」

スラスターの噴射を受け少し艦首が、浮き上がった時を計らい浮上を取り止める。

「食いちぎってください」

(了解!)

浮き上がった艦首が下に向いたその勢いで敵駆逐艦に《ネメシエル》が“噛み付いた”。

【バケモノかよぉ――!】

 主砲を展開させる際に、《ネメシエル》の艦首は上下に開放されそこから更に変形する。
開いた隙間には大量の機器が詰め込まれており、主砲のエネルギーを制御するために数々の内部機器が聳え立っている。
内部機器はまるで鉄の歯のようだ。
その鉄の歯が敵駆逐艦に少し斜めの角度から食らいついたのだ。
逃げる敵駆逐艦のやわらかい船体を挟み込むために蒼はこの構造を利用することにしたのだ。

「そのままプロトコルを停止!
 艦首を元に!」

(了解!)

 敵駆逐艦を口に、咥える《ネメシエル》の顎に力が入る。
柔らかい駆逐艦の構造物など《ネメシエル》にとっては豆腐も当然だった。
駆逐艦よりも大きな機械の駆動力で一千万トンにもなる艦首が元の形へと戻っていく。

【ひぃ!
 ダメだ兄貴助けてくれ!!】

【兄貴ィ!
 嫌だ!!死にたくねぇよ!!】

 噛み砕かれていく敵駆逐艦のマストがへし折れ、構造物が削げ落ちていく。
撃ち尽くされた魚雷も発射管には残っておらず、誘爆の危険はない。
マストの次には艦橋が砕けてしまった。
二基の対空砲がひしゃげる。
慌てて逃げようとして海に飛び込んでいく奴もいたが大多数は逃げることができず《ネメシエル》の歯に砕かれる。
やがて《ネメシエル》の口は完全に閉じ、敵駆逐艦の船体は真っ二つに折れた。
食べこぼしのように《ネメシエル》の口から落ちた敵駆逐艦の船体が海に落ち漂う。

【お前ら!!
 クソ!
 覚悟しやがれ《鋼死蝶》!
 お前らぁ!!!引け!!!
 ヒクセスからのぶんどり品を使うぞ!!】

(前方海域に巨大な艦影を確認!
 レーダーにも反応あり。
 なんだこれは……)

 逃げていく二隻の駆逐艦の背後から巨大な影が霧の中から現れた。
そのシルエットは以前見たことがある。

「あれは……」

 前に蒼が戦った際には《パンケーキ》と呼んでいた。
艦橋も何もない姿には強烈な既視感がある。
だが《パンケーキ》よりも更に大きい。
強いて言うならば《エクレア》のようなものだ。

『なんすかあれ!?』

『蒼様、逃げた方がいい 』

逃げろと言われても。

【こいつでぶっ潰してやる!】

 真っ黒な船体に艦橋の無いシルエット。
旗から見れば新型の潜舵のない潜水艦に見える。
逃げていった駆逐艦と残った戦艦一隻を収納するとその軍艦は機関を吹かした。
霧が吹き飛び、その全貌が見える。
敵軍艦の船体のあちこちに緑の光が灯る。

【うおおおやっちまってくだせぇ!
 兄貴ィ!!】

【任せろお前らぁ!!!
 ゲヘヘヘ!!
 攻撃モードに移行だ!
 《チョコロール》なんてだせぇ名前じゃねぇ!
 こいつは俺達の旗艦であり、家! 
 名付けるなら……そう《ディアブロ》……。
 俺達の《ディアブロ》だ!!】

【イカしてるぜぇ!
 兄貴ィ!!】

 最高にダサいと思うんですけど……。
名前はともかくあの巨体は本物だ。
《ディアブロ》の甲板が開くと《パンケーキ》のように多数の兵装が展開されはじめた。
まるでビルが生えてきているようだ。
二つの砲塔主砲のようなものが競り上がり、砲門をこちらへと向ける。
その砲塔を覆うようにミサイルサイロが伸び、対空兵器が並んでいく。
シャッターのように舷側の装甲が開くと中からは多数の大口径のレーザーガトリング砲台が姿を現した。
それでは足りないと言わんばかりに舷側の装甲がまた開きコンテナのように並んだ砲が広がっていく。

【どうだぁ?
 これだけじゃねぇ!
 バリア展開!】

(あの軍艦の表面に“亜空間反射鏡”の展開を確認!
 いつかの《パンケーキ》と同じだ!)

全長は二キロ強にまで巨大化している。
この空間では飛ぶことが出来ない以上敵艦の艦底兵装は無視してもいいとしても……。
蒼は相手の甲板にある兵装の多さを見てゲンナリする。
あいからわずヒクセスの美的センスは狂っている、と思っているのだ。
美しさがまるで無い。

【ヒクセス共からぶんどったのさ!!
 あいつらはこいつのことを《超極兵器級》って呼んでたぜぇ?
 ベルカの《超極兵器級》をこの最新型の《超極兵器級》が潰せねぇはずがねぇ!
 ましてやお前の《ネメシエル》は兵装が使えねぇんだからよ!】

【イカしてるぜぇ!
 最高にイカしてるぜぇ!】

【うるせぇおめぇら!
 ありがとうよ!】

わいわい騒ぐ敵と違い深刻な空気がこちらには流れていた。
主に面倒なことになった、という空気たが。

『蒼様。
 見たことの無い艦影から敵は新造艦だと考える。
 今後のためデータの収集を行う』

 《ネメシエル》の後ろに二隻の軍艦が並んでくる。
《タングテン》と《アルズス》がやっと機関の修理を完了したのだ。
ただ、応急処理のため兵装を使うことは出来ない。

『一体どうするっすか?
 あんな大きなものを相手にするなんて……』

『私達は兵装が使えない。
 かといって緊急処置の機関で敵から逃げることも不可能。
 戦って撃破するしかない』

『でも!
 どうやっ――』

【食らいやがれ!!
 部下達の恨みだ!!】

敵甲板からミサイルが百を越える数で射出される。
赤い光を出し、空高くにまで上昇したミサイル達は《ディアブロ》からのデータを元に《ネメシエル》達へとその頭を向けた。

(敵艦、ミサイルを発射!
 数は二百!
 まっすぐ突っ込んでくる!
 着弾まで後三十秒!)

 一つの塊のようにもなったミサイルが空から降り注ぐ。
全て命中したら流石の《ネメシエル》も航行不能にまで持っていかれても不思議ではない量だ。

『蒼様!』

『蒼先輩危ないっすよ!』

二人の声が大きくなり、小さくなる。
張りつめた糸がさらに張り詰められていく。

(“イージス”及び“強制消滅光装甲”自動修復完了!)

待っていた、と心の中で叫んだ。

「“イージス”及び“強制消滅光装甲”展開!」

 薄いオレンジのような幕が《ネメシエル》を覆ったように見えた。
その幕へと二百のミサイルが突っ込んでいく。
 果敢に飛び込んできた二百を超えるミサイルを《ネメシエル》の“強制消滅光装甲”が超高熱で溶かして輪切りにする。
その過程で爆発したミサイルの弾頭から発生した爆発は海と空を照らす。
霧がかき回され、太陽の光が少し強くなる。

(危なかったな)

「本当ですよ……。
 これで少しは対等と言ったところでしょうか」

鈍く照らされた船体に赤と青のバイナルパターンが強く浮かび紋章が姿を取り戻す。

【っち!
 バリアが戻りやがったか!
 だが……!】

『蒼先輩かっくいい!』

 再び敵から放たれてくるミサイルと百を越えるレーザーの光が《ネメシエル》目掛けぶっぱなされる。
“イージス”の紋章が可視化し、それらを跳ね返す。
機関の数が圧倒的に増えた《ネメシエル》だが、それでも敵の攻撃には長くは持たないだろう。
何しろ相手はヒクセス製の《超極兵器級》なのだから。

(蒼副長“イージス”過負荷上昇中だ。
 再起動を含めてもこのままでは後十分持つかどうか……)

「分かってますよ!
 少し待ってくださいなんとか……」

 《ネメシエル》の兵装は使えない。
それに《パンケーキ》の時のように《ジェフティ》というドリル戦艦がいるわけでもない。
春秋達が操る《アルズス》とフェンリアの《タングテン》では敵戦艦の装甲に負けるだろう。
かといって“イージス”を持っている《ネメシエル》が突っ込んだとして、こちらの損傷も大きい。
兵装が回復するまで残り一時間五十分。
戦闘中の回復は期待できない……とすると。

(敵艦よりミサイル!
 数は二百!
 突っ込んでくる!)

レーダーに映る赤色の矢印が《ネメシエル》へと向かってくる。
ミサイルの半数は目の前を通りすぎていった浮遊島に命中し、数を減らす。
“あれ”は、武器になるんでしょうか。

(残り約半数を“強制消滅光装甲”で迎撃する!
“強制消滅光装甲”最大展開!)

 ……やってみますか。
一か八か賭けに出ることにする。
頭に浮かんだ事を現実にするには少し準備が必要だ。

「春秋、フェンリアさん飛べますか?」

『え、いけるっすけど……』

「ならあいつの側面に張り付くなりして気を逸らしてくれませんか?
 その間に私があいつを無力化できるかもしれません。
 作戦はあなた達のモニターに送っておきました」

 その方法にざっと、目を通した二人は目を丸くした。
誰もこんなやり方で敵を粉砕した事などないだろう。
戦艦で格闘戦を多く経験している蒼ならではの思い付きだ。

『面白そうっすね!
 やってみるっすよ!
 《アルズス》全速前進!』

『蒼様、気をつけて。
 私達はなんとかなる。
 気にしないでやってしまって』

《ネメシエル》の影から二隻の軍艦が敵《超極兵器級》へ向かって駆ける。
舷側のバイナルパターンを光らせ二隻はほとんど同じタイミングで離水した。
《ネメシエル》では離水した瞬間に浮遊島に、ぶつかってしまうだろう。
まだ小柄な方である二隻の軍艦が浮遊島を盾にしながら敵艦へと接近する。

【っち!
 うっとおしい!!】

 所詮海賊は戦争の素人。
まして“核”ですらないのにあの《超極兵器級》を操っているのだから精神的な負荷は計り知れない。
軍事的な立ち回りを分からず簡単に《ネメシエル》から集中を外し、二隻へと気をとられる。
敵《超極兵器級》から放たれたレーザーが《アルズス》や《タングテン》へと襲いかかっていく。

『っぶない!
 蒼先輩できるだけ早く頼むっすよ!』

「分かってますよ。
 《ネメシエル》、主錨射出。
 目標地点選択完了。
 撃て!」

(了解。
 指定地点へと主錨を射出する)

《ネメシエル》の両舷についている主錨が二本、舷側に垂直になるようにして首を持ち上げる。
先の引っ掛かる所が持ち上がり、鋭い刃が先を向く。
主錨が舷側から撃ち出されるとそのまま空高くへと飛んだ。
一つで何十トンにもなる主錨は二つの浮遊島に二本ずつ突き刺さる。

『っ、しまった』

その時フェンリアの《タングテン》のデータが更新された。
警報が鳴ると共に一つの危険を表すシグナルが表示される。
バイタルパートを破られたのだ。

【やっとひとつか!!
 しぶとい!!!
 ハエ共が!!】

 もう少し。
もう少しだけ耐えてください。
祈るように《ネメシエル》の主錨を見つめていた蒼だったが春秋の切り裂くような声に注意を持っていかれた。

『蒼先輩!
 《タングテン》が!』

「あと少しです!
 フェンリアさん!」

浮遊島のど真ん中にまで突き進み、がっつりと固定のための金具を出した主錨の状態を確認し、《タングテン》へと目を向ける。

『大丈夫、まだなんとかなる。
 仮にも私は戦艦、硬い』

 美しいシルエットだった《タングテン》は舷側エンジンから火を吹いていた。
艦橋のあちこちもボロボロになっており、主砲の一つが削げ落ちている。
もうぐずぐずしていられない。

「《ネメシエル》!
 機関全速!
 相手にぶつける勢いで行きますよ!」

(了解だ!)

 水中長く伸びた紫の光に押され、《ネメシエル》は、海を蹴っていた。
空に浮かない船体で出せる最大のスピードにまで加速していく。
その《ネメシエル》から伸びた二本の主錨の先には直径一キロほどの浮遊島がついている。
鎖は海に落ちていたが《ネメシエル》が引っ張るにつれその姿を順番に現し始めた。
やがて鎖はピン、と張りしっかりと主錨の根本まで刺さった浮遊島は《ネメシエル》の船体に引っ張られ、動き始めた。

【終わりだ!
 沈め邪魔なハエ共!】

『っく……!』

 《タングテン》のスピードが、下がる。
装甲が破れ、内部機器が露出したその姿は瀕死の鯨を彷彿とさせる。
特殊ベークライトの血を流しており、《アルズス》もいくつかの直撃弾を受けていた。
損傷の度合いは大きく、このままでは二隻とも今すぐ沈んでもおかしくない。

『フェンリアさん……大丈夫っすか……?』

『潮時……これ……以上は無理……』

【死ね!】

勝利を確信した海賊から二隻を守るように《ネメシエル》が現れた。

「二人とも!
 退いてください!」

《ディアブロ》へ向かっていた《ネメシエル》が霧の中からその姿を整えていく。

【っち、邪魔をしやがって!!】

【やっちまってくださいよ兄貴ィ!】

【主砲、射撃用意!】

 《ディアブロ》の甲板が開き、二基の砲塔が左右へと押しのけられる。
その開いた甲板の下から現れたのは一つの巨大な砲塔だった。
格納式の主砲はベルカ以外には珍しい。
その機構は明らかに《ネメシエル》達《超極兵器級》をモデルとしているようだった。
口径は十メートル以上あるだろうか。
捩れた蛇口のようにも見えるその兵器は《ネメシエル》へとその砲門を向けている。

【食らうがいい!!】

いつの間に装填していたのだろうか。
咄嗟に舵を切ろうとしたが間に合わなかった。

『蒼様!』

『蒼先輩!』

光。
強い光が敵《超極兵器級》から放たれた。
霧の海を切り裂くようにして敵の光が《ネメシエル》へと飛翔する。

「っ!?」

《ネメシエル》に着弾する寸前に“イージス”が展開される。
ところがその“イージス”すら押し切る勢いで敵の光はさらに強くなる。

(“イージス”過負荷率、五十――六十――まずい……!)

【ギャハハハハ!
 貴様に負けるわけないだろうが!】

こんなところで……。
こんなところで負けるわけにはいきません。
上がっていく“イージス”の過負荷は見ない。

「そう言うやつこそ負けるべきなんですよ!!
 《ネメシエル》!
 たとえ“イージス”が破れようが構いません!
 全力で敵を撃破しますよ!」

(“イージス”最大艦首展開!
 ここで負けたら《超極兵器級》の名が廃るというものだ!
 全速前進を続ける!)

敵《超極兵器級》まで距離はおよそ二キロ。

【何をしようとしていたのかは知らんが……!
 ここで終わりだ!
 貴様が沈んだ暁にはベルカを俺達のものにしてやるぜ!!】

“イージス”の過負荷率が九十を突破する。

(“イージス”稼動限界まで後十秒!
 くっ……!)

 艦橋内が赤色に染まり、危険の警報が流れ出す。
これ以上被弾し続けると《ネメシエル》は“イージス”を失う。
そしてその“イージス”を失った《ネメシエル》を支えるのは装甲だけになる。

「構いません!
 警報を停止!
 《ネメシエル》の正面装甲で持ちこたえます!」

(了解!
 敵との距離およそ一キロ!)

【っ、何だお前その後ろの影は……!?
 まさか!】

霧のせいで隠れていたものがようやく敵に見えたのだろう。
海賊は驚愕の声を出すと共に慌て始めた。

「その通りですよ!
 沈むがいいです!」

【だけどあめぇんだよなぁ!?
 沈め!!
 出力臨界!!】

 さらに敵のビームが太くなる。
果てしないまでの力が《ネメシエル》の船体にかかった。
霧を吹き飛ばし、太陽の光が空から射し込む。
まだ全力ではなかったと言うのか。

(“イージス”過負荷率百パーセント!)

船体を守っていた“イージス”が消える。
続いて直接ビームが当たるようになった装甲は何とか一瞬だけ耐えている。
だがその装甲も次々と融解していく。

「くっ、流石に……でも……!」

 あきらめるわけにはいかない。
このままでは確実に《ネメシエル》の装甲を貫通されるだろう。
何とかして後八百メートル分の距離を持たせるしかない。

「“イージス”再起動は!?」

(無理だ!
 時間が足りない!)

 万事休す。
残り五百メートル程度なのに。
ここまで来て届かないなんて。
一瞬あきらめようとしていた蒼だったが、二隻からの通信とその行動で再びやる気を奮わせた。

『蒼様!』

『蒼先輩!』

『うおおおお!
 覚悟するっすよ!!』

強烈な光の中二隻の軍艦が敵の砲身へとその艦首を突き立てたのが見える。

『……覚えておいて。
 私達は《超空第一艦隊》。
 あなた達に……負けるわけにはいかない』

『何も出来ないだろうと油断していたあんたがいけないんすよ!
 蒼先輩さっさとやっちゃってくださいっす!』

【っく、何を!
 くそ!!!
 ハエ共が!!!!】

敵艦の甲板で主砲は暴発。
特攻により歪んだ敵の砲身から光が迸る。
その光は敵自分自身を傷つけていく。

「二人とも離脱を!
 でかいのをぶち込んでやります!」

『了解っす!』

『了解』

【まだまだぁ!!】

 迫ってくる《ネメシエル》の迫力に押し負けまいと、敵が声を荒げる。
暴発の際に漏れた光は敵軍艦の船体へと確実に致命傷を与えているようだった。
あちこちで起きている爆発がそれを主張している。
それでも敵は負けるわけにはいかないのだろう。
死ぬ気で《ネメシエル》へと攻撃を続ける。
ミサイルや、レーザーをあの海賊は撃ってきた。
最後の攻撃のつもりで動く全ての兵器が駆動し、《ネメシエル》を攻める。

「でももう遅いんですよ。
 これで終了です!」

 そのレーザーやミサイルの雨を装甲で凌ぎ、《ネメシエル》の船体が敵《超極兵器級》へとめり込んだ。
“亜空間反射鏡”がある分、薄くなっている敵装甲は《ネメシエル》の質量を受け止めきれずにひん曲がった。

【くっそぉおお何だよくそぉおお!!】

 《ネメシエル》の鋭い艦首が《ディアブロ》の船体中央へとめり込んでいく。
《ディアブロ》の船体についていた多数の機銃や砲塔が潰れ、ショートの炎を吹き上げた。
だが襲うのは《ネメシエル》だけではない。
浮遊島も、だ。
《ネメシエル》と同じスピードで突っ込んできた浮遊島は《ディアブロ》の艦橋と、船体中央へと突き刺さる。
直径一キロの島という大質量をまともに受け止めた《ディアブロ》の艦橋が根元から折れると、続いて船体に走った亀裂が幅を広げていく。

【ちくしょぉおおおおおおおお】

【兄貴ィ!!】

 《ネメシエル》の艦首から伸びた亀裂はやがて衝突した右舷から左舷にまで達し、へし折れた船体が海水を飲み込みながら傾いていく。
鋼鉄の悲鳴を海域中へと撒き散らしながら《ディアブロ》は、姿を消していく。
巨大な質量を飲み込んだ海面は渦を巻く。
敵の残った浮遊物をも巻き添えにして、その渦はやがて姿を消していく。

『なんとか……やったっすね……!』

『……。
 疲れた』

 沈んでしまった《ディアブロ》にふと自分の将来をそこに蒼は重ねてしまった。
いつか《ネメシエル》よりも強い《超極兵器級》が敵に出てきたときの運命。
今は考える時ではない、ですよね。

「やれやれあなた達もボロボロじゃないですか……。
 さっさと帰って修理ですね」

自分の《ネメシエル》も人の事を言えた義理ではない。
それでもいつもよりは損害を抑えた方だと自分で思っている。

『やっぱり蒼先輩と一緒に任務は楽しいっすね』

『死にかけたけど』

「さあ帰りましょうですよ。
 私はマックスのプリンが食べたくて仕方がないです」





     ※





太古の大昔。
大きな戦争があった。
その戦争は星と星、大空よりも遠い所での戦争。
人類は自らその戦争で自分を閉じ込めてしまった。
鋼鉄のゆりかごから人類は出ることを許されない。
この先も。
これからも。





               This story continues.
ありがとうございます。
お待たせしました、更新です!
春休みで花粉症がひどい時期です。
みなさまお気を付けください。

今は《ネメシエル》のCGを制作しています。
そのうちお披露目出来たらなぁって考えています。

部分部分は、ツイッターで上げていたりするのでよろしかったらフォローしてみてくださいな!
なろうから、と言っていただければフォロバしまくりますので!

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↑です。
どうかよろしくお願いします。

ではでは!
毎回読んでくださり本当にありがとうございます。
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