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超空陽天楼 作者:レルバル

蒼天孔

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回る世界

 痛んだ船体を引きずるようにして《ネメシエル》はセウジョウのドックになんとかたどり着いた。
《ヴォルニーエル》と《ニジェントパエル》の二隻に引っ張ってもらっていなくてはとてもセウジョウにたどり着くことは出来なかっただろう。
何隻もの戦艦に粘つく海水を掻き分けさせ、引っ張らせた後ドックから伸びる誘導ビーコンに引かれ《ネメシエル》は専用第五乾ドックに船体を突っ込んだ。

(危なかったな蒼副長。
 今回は本当にあぶないところだった)

第五乾ドックの装甲扉が閉まり、天井を鋼鉄の装甲が展開して覆っていくのを確認すると《ネメシエル》が話しかけてくる。
停止した船体を支えるアームが《ネメシエル》を左右から挟み込んで固定する。
艦橋に伸びてきた廊下が扉に接続されカチリ、とロックを解除する音が響いた。

「本当ですね……。
《ウヅルキ》……それに夏冬も……」

“レリエルシステム”による連携を切るとどっと蒼の体を疲れが蝕んだ。
大きく息を吐き第五乾ドックの天井を見上げる。

(しかし……。
 《ヴォルニーエル》も《ニジェントパエル》も生きているとはな。
 てっきり沈められたかとばかり……)

「そうですね」

適当に返答をしつつ、蒼はシートベルトを外しなんとか立ち上がる。
被弾による痛みと疲れで体がふらついたが緊急コマンドを使用したほどではない。
頭を押さえ、艦橋の装甲扉から出て接続された廊下を歩く。
第五乾ドック内の海水が抜かれた為、損傷し破れた装甲から海水が流れ出し、滝のように乾ドックの中に降り注がれていた。

「蒼先輩!」

 その光景を見ていると遠くから呼ぶ声が聞こえた。
先を見ると春秋をはじめとして五十人ほどの“核”が待っていた。
全員が今回の作戦に参加した連中達だ。
朱も藍もそこに加わって揃って敬礼してくる。

「………………」

答礼を返し、“核”達の輪の中に溶け込むように足を踏み入れた。

「よく帰ってきたやん、蒼。
 お疲れさんや」

朱が話しかけてくる。

「なんとか……なんとかなるもんですね……」

ボロボロになった自分の艦を眺め蒼は小さくため息をついた。
修理のための機材が《ネメシエル》を取り囲むように展開され、ぽっかりと開いた損傷の穴の回りではすでに修復ドローンの溶接の光が飛び散っている。

「しっかしまぁーなんや。
 まさかあそこで《ウヅルキ》が出てくるとは思わんやんなぁ」

「ほんまその通りと思うわ。
 これはまさに神のみぞ知る暗黒のダークサイドやね。
 しかも新型と同じ力の持ち主みたいやったけんね」

藍も朱に相づちを打ちながら蒼を優しい目で見てくる。
《アイティスニジエル》と《ルフトハナムリエル》の改装をマックスに進言するべきでしょうか。
そんなことを考えていると

「あら、蒼大丈夫なのかしら?」

真横からそんな声が聞こえた。
声の主は空月・Kニジェントパエル・真白だ。
蒼と同じ髪色のツインテールがくるくるとねじまがったまま地面につくすれすれまで垂れ下がっている。
胸は程々あるといってもよく、高い身長とくびれのお陰で空月兄妹の中でも抜群のスタイルとなっていた。
目はグレーで片目を白の眼帯で覆っている。
眼帯にはベルカの紋章が描かれており、目の部分には赤く光るカメラのようなものが一つついているのだった。
眼帯をしていないもう片方から覗く目は何を考えているのか分からないようなそんな気を放っている。
子供らしさなど何処にもなく、冷静に物事を見る、といったような表情は冷たい雰囲気を醸し出しているのだった。
逆にその幸薄そうな唇がまた色気を放っている。

「助けてくれて、ありがとうございます真白姉様……」

「かまわないですことよ?
 これも私達の祖国を取り戻すためなんですもの。
 それに……ここに来てみたかったですし。」

真白は自分の髪をくるくると指に巻き付けながら答える。
身長は百七十を軽く越えるため大きさで、蒼と並べばまるで親子のようにも見えてしまうだろう。

「そう……その通りだ……妹よ…………」

 人混みの中から現れる身長二メートルはあるのではないかと言うような大男が出てきた。
筋肉が隆々と付いた体は見るものを畏怖させる。
短く刈り上げられたその頭は空月兄妹の長兄と言っても過言ではない雰囲気を纏っている。
身体中から溢れ出るオーラは駆逐艦程度ならその身一つで砕きそうだ。
瞳と体に合ってないぐらいに小さなメガネは黄色に光を反射する。
目は鋭く、細く、真っ黒の瞳には光は無く奥まで続くような闇が湛えられている。
空月・Vヴォルニーエル・真黒の姿はまさに巨人といってもいい。

「真黒兄様に真白姉様、生きていて本当に嬉しいです。
 でも、またどうやって?」

「その話はご飯を食べてからにしませんこと?
 お腹がペコペコリンですの」


     ※



「どうだ?」

 そっとマックスは尋ねてみた。
聞かれた部下は顔を曇らせ、力無く顔を右に左に振る。

「……ダメです。
 相手の方が計算速度が速すぎます。
 とても私達の計算速度では……」

「そうか……」

ため息が出た口にタバコを咥え、言葉を続ける。

「一瞬だけでもコントロールを奪うことが出来ればそれでいい。
 それが出来れば後は楽だからな」

 煙を天井の換気扇へと吐き出しマックスは額に浮かんだ汗をぬぐった。
それでも流れ出る汗に苛立ちを覚えつつマックスはタオルでもう一度顔を拭く。
電子機器から溢れ出す熱で部屋は五十度にもなる。

「ここはいつも熱いわねー……。
 暑いんじゃなくて熱いわね」

 機械好きでロリコンの副司令にもこの環境には閉口するしかない。
それだけ過酷な環境にマックスと副司令を加えた七人で何をやっているのかと自分でツッコミたくなるマックスだ。
静かに唸りまた排熱を出すために機械の排熱口が開く。

「副司令、仕方ないですよ。
 こんなにデカイ機械があったらそれも普通ってもんです」

副司令のぼやきに部下が返答するのを聞きながら目の前に浮かぶ様々な文字列をぼーっと眺める。

「そうねぇ……。
 しっかし暑いわねぇ……」

むんむんと熱い部屋で副司令は団扇で自分を扇ぐがぬるい風がただただ来るだけだった。

「空調を新しいの入れてくれないですか?」

ここぞとばかりにねだってくる部屋長だったが副司令はその要求を一蹴した。

「もー調子に乗らないの」

 冷房を入れても間に合わないほどの排熱を出す電子機器は計算速度は《ネメシエル》のAIをも凌駕するほどの性能を持っている。
《超極兵器級》にも匹敵する程計算速度を持つAIを二十個並列で繋いだ人工知能にも関わらず勝てない相手。

「っ、くそ!」

部下の呟きと共に今回はもしかしたら、と期待に膨らんだ胸が萎んでいく。
やはりダメか……。
マックスは副司令と目を会わせると小さく肩を落とした。

「ヤバイ、接続を切れ!
 急げ!」

それどころか反撃を受ける。
並んだディスプレイが一斉にエラーの赤を浮かべ、侵入を受け展開された防壁はあっという間に突破されてしまった。

「危ない!
 コードを抜け!!」

並べられた機器からは火花が飛び散る。
相手はこちらへと負荷をかけている。
こちらが処理できないような量の情報を送り込んできているのだ。

「司令!
 危ないのでこの部屋から……」

 マックスは屈み、机の下のコードを手に持つ。
副司令だけを部屋から逃がし、マックスは手にもう一本コードを握った。

「このコードを抜けばいいな!?」

 部下の退避指示に従っている場合ではない。
急がなければこの基地の電子機器全てが吹き飛ぶほどの情報が送り込まれてくるだろう。

「抜いてください!!!」

 マックスは目の前の機器からコードを抜いた。
新しい情報が来なくなった機器は止まり、激しく吹き荒れた火花も飛び散らなくなる。
変わりに部屋に充満するのは濃い煙と生体光ニューロの焦げる臭いだった。

「ゴホッゴホッ……。
 みんな……みんな無事か?」

「はい、なんとか……」

「AIの状態を知らせろ……っ」

立ち上がったマックスに引っ張られるように他の部下も立ち上がった。
真っ暗になり沈黙しているディスプレイの電源スイッチを入れてみるが壊れているのか入らない。

「見なくても解るわよ……。
 私達の敗北ね。
 今度こそは行けるかと思ったんだけど……」

副司令がドアを手動で開け入ってくる。
失敗、か。

「司令……」

すがりついてくるような部下の視線を握り、マックスは首を縦に振った。

「かまわん。
 もう一回だ。
 そのための予算は出す」

焼け焦げた匂いを体に纏いながら部屋から出る。

「……分かりました」



     ※



「んで?
 真黒兄達は何をしよったんかいね?」

 あらかた食い終わってほとんどの器が空になった瞬間を見計らって藍が真黒達に尋ねた。
ほとんどスープしか飲まなかった真白が口許をぬぐいながら答える。

「遊撃ですことよ。
 あなた達の所へと向かう連合の艦艇を撃沈し続けていましたの」

 この人は固形物を食べないんですかね……。
蒼は自分の兄妹の事すらよく分からない。
いつも隔離され、たまに遊ぶぐらいのお付き合いだったためだ。
それでも朱や藍と仲がいいのは訓練が一緒だったから。
《超極兵器級》の一番艦と二番艦である二人は

「ほんならもっとはように合流すればよかったんちゃうか?
 何でまたこんなに遅いタイミングなん?」

朱はまだ食べるらしい。
追加の料理を注文しながらしゃべる。

「いいか……妹よ…………?
 こっちに…………来るにも…………敵が……多すぎた…………。
 お前達が……総力戦で……敵を……減らしてくれたから………… こっちにこれた……」

「確かに。
 連合は私達を潰そうと思えばすぐにでも潰せたはずですもんね。
 潰せなかったのはそれをしたかったけど出来なかったってことですね」

蒼が言葉を引き継ぐ。
蒼自身も朱に負けないほど食べていたが、さすがにもうお腹はいっぱいだった。
本物の食糧を使っていない、合成食品だったとしてもこの味に慣れているため不平不満はない。

「なるほどね。
 じゃけん、いくら悪魔の子と言えども何も出来んかったんやね」

蒼達がまだ小さな勢力でコグレを本拠地としていた時期は連合が蒼達を潰そうとすればすぐにでもできたはず。
それが出来なかったのは他にも敵がいたからだ。

「そして……我は美しい……」

「そういえばよくここまで生き残れてきましたね……。
 《ヴォルニーエル》も《ニジェントパエル》も……」

蒼の何気ない一言に真白が眉をひそめる。

「……それは私達が力不足だって言いたいのですこと?」

「あっ、そういうわけじゃないです!
 本当に!」

慌てて弁解する。

「あの、私が言いたいのは改装とかしていないのですか……?
 ってことで……。
 うな……本当にそんなつもりはないです……」

真白はひそめた眉を元に戻し、コップに残っている水を飲み干すと口を開いた。

「……したわよ。
 するしか勝ち目はなかったんですもの……」

しんみりした口調で真白は言った。
軍艦、それに“核”の身はベルカの天帝陛下からの授かりもの。
自らが手を入れていいものではない。
だが、仕方ない。
仕方なかったのだ。
本来なら軍法会議で厳しく罰せられるレベルだったがこの場合は黙認するしかない。

「そらするわなぁ……。
 実質世界が相手みたいなもんやしのぉ。
 勝てる見込みなんてこれーぽっちもありゃせんし……」

朱は注文して来た料理にスプーンを差し込み、一気に食べ始める。

「ほうじゃのぉ。
 あちきらも今こうやっていることが既に奇跡じゃけぇ」

 藍姉様に至っては敵に鹵獲されて改造までされていましたからね……。
口にこそ出さないものの藍はこの兄妹の中で最も敵の事を知っているだろう。
怖さも、卑劣さも。
だからこその言葉だと蒼は感じていた。

「奇跡……それは……違う。
 我達の……実力が……あったから」

「……そうですことね」

真黒の言葉に真白は頷いた。

「どこを拠点として、どういう風に戦っていたのかぜひ教えてほしいもんだな」

兄妹の話を遮り、別の所から声が割って入ってきた。
セウジョウの面白い司令官マックスだ。

「もーマックス。
 いきなりなんなんです?」

蒼が家族の団らんに割って入るな、と目で訴える。

「すまんすまん。
 この二人の事を詳しく知りたくてな。
 少し借りてもいいか?」

「あーかまへん。
 あたいらはどうせやることもないし。
 真白ねぇも真黒にぃも暇やろーしな」

「……また戻ってくる」

まだ残っているオムライスを恨めしそうな目で見て真黒と真白はマックスのあとをついて外に出たのだった。



     ※



 真っ暗な部屋の中に一人の男が倒れている。
床は冷たく、鋼鉄の冷たさは皮膚を通り越して骨にまで届くようだった。
その扉が開かれ、今度は一人の少年が入ってくる。

「すいませんねわざわざこんな所に……」

少年は蔑みをもった目をして目の前のスーツの男を見る。
檻のような場所に入れられ、まるで家畜のようにその男は飼い馴らされている。
哀れ、という感想は抱かない。
大きな目標のために必要な犠牲、としか思わない。

「ん!
 んんんー!!」

 暴れる男を大人しくさせようと思ったが更にそれで暴れられても困る。
この戦争が始まる少し前から捕らわれ、貧しい、精神を削る生活をさせられているというのにこの男の抵抗する意志は固い。
武力を持って制するわけにもいかず今現在夏冬は目の前に転がっている男を持て余しているのだった。

「んー!!!
 んんんんんん!!ん!!」

うるさい。
夏冬は置いてある椅子から立ち上がると男の頭付近にしゃがんだ。

「ああ、申し訳ないです。
 今外しますんでね」

 そう言い夏冬は目の前のスーツの男の口を塞いでいたテープを勢いよく取ってやった。
ぼさぼさに生えた髭、初老の男はここ数カ月の過酷な生活のお蔭で年齢よりも老けて見える。
その顔は世界中のだれもが知っていると言ってもいい顔。
移送する前の場所ではさんざんな扱いをされていたのか顔には殴られた後があり、目は腫れていた。
ところどころ歯が抜けており、ろくな治療を受けていないであろう傷は膿んでもおかしくない。

「お前……!
 お前が……お前たちが……何をしているのか……!!
 ……分かっているのか!!
 私はヒクセ――オゴッ!!」

「あーうるさいなぁ。
 そんな風に言わなくても分かってるよ」

 イライラして少し前まではヒクセスの大統領だった男の腹を夏冬は尖った軍靴の先で蹴った。
激痛が走ったのか初老の男の顔が歪み、唸り出す。
黙らせるのは簡単だ。
問題はこいつの抵抗する意志にある。
まったく大したものだ、と夏冬は感心する。

「あなたがうるさいから蹴っちゃったじゃないか。
 もう少しでつくんだから静かにしていてよ」

夏冬の操る《ナニウム》は五百メートルを超える巨体にまで“成長”していた。
まるで何かの生物の体内のように心臓のような音が艦内に響いている。
元の形、《ラングル級》の痕跡はどこにもない。
艦橋の形も、兵装も、全て変わってしまっていた。
《超常兵器級》にも迫る大きさにまで成長している《ナニウム》のAIが夏冬に話しかけてくることはもうない。
かわいがっていたあのAIの性格を削除し、今は別のAIをインストールしていた。

「く……お前達は………」

「………………さぁ?」

(夏冬様。
 もう少しで目的地に着きます。
 着水の操艦をお願いします)

「今いく。
 《ナニウム》、牢屋の鍵を閉めろ」

ロックされた牢屋からも外の様子は見える。
雪の積もった大きな山脈を越えると目的地はすぐだ。
衛星から見ても分からないように空にはホログラムがかかっている。
ステルス防壁に光学迷彩と、考えうるほとんどの隠蔽構造がこの空間には施されていた。
端から見たら何もないただの危険地帯に見えるだろう。
空には大量の岩が不規則に飛び交っており、島ほどの大きさのものもある。
だがその偽りを潜り抜けた先には別のものがある。
記録がないほど昔に起きた名前も伝わらない戦争。
その時に何かしらの原因で作られた半径二十キロのクレーターの中に築かれた要塞。
数々の軍艦がそこには揃っていた。
五本の滑走水路を備え、どの国の艦艇も発着できるようになっている。
そのうち一本をまるまる占領しているのは《ウヅルキ》の巨大だった。
修理のための火花を体から散らし、沈黙している。

「なんだここは…………」

「…………世界平和のための施設ですよ。
 もっとも……。
 貴方にはここからまた別の艦に乗り換えてもらうわけですが」

夏冬はそう言い、外に見える滑走水路に《ナニウム》の船体を向かわせたのだった。



     ※



「それで、私めは何を話せばいいのですこと?
 この……いえ、何でもないですわ」

 マックスが向かったのは基地司令室ではなかった。
食堂の入っているビルを抜け、ドックへと向かっている。

「何を……と言われても困るな。
 俺はお前たち二人の実力が知りたいんだ」

「……実力……?」

 真黒が反応を示したのはそこだった。
自分達を侮っているのか、というような目つき。
《超極兵器級》の名を負って立つに相応しい風格だ。
自分よりも大きな真黒にマックスは内心怖がりながらも言葉を続ける。

「ああ。
 《超極兵器級》というからには期待も大きい。
 このセウジョウ全体の士気も大きく上がっている。
 だが、もし《超常兵器級》たちとあまり変わらない……。
 そうなってみろ。
 みんながっかりしてしまう。
 それはお前たち二人にも、俺達にもおいしくない」

分かるな?
マックスは視線でそう伝える。

「……少しいいですこと?
 私めに一体何を望んでいるのですこと?」

強い口調だった。
こっちも怖い、とマックスは更に怯えながら頭の中で言葉を紡ぐ。
どうしてみんな蒼みたいにほんわかした外見をしていないんだ。

「絶望に打ち勝つための希望だ」

そして出た答えがこれだった。
至って真面目に考え、そして出た答えがコレ。
マックスの性格が綺麗に表れた言葉と言って差し支えないだろう。

「…………」

「………………」

「…………なんか言えよせめて」

痛い沈黙に耐えきれないのは当たり前のようにマックスだ。

「……今のは……ない」

「そうですことよ……。
 今のは……」

「うるさい!」

 くだらない会話をお互いに投げ合いながら移動するのに使われているリフトに乗り込む。
マックスが押した行き先は第三桟橋だ。
時速三十キロ程度のスピードで動きだした五人乗りの小さなリフトはすぐに目的地についた。
《ヴォルニーエル》と《ニジェントパエル》は第三桟橋を挟むようにして係留されている。
波に揺られる事もなくその船体はただそこに壁として存在していた。
第三桟橋に基地司令のマックスは来たかったのだ。

「はー……やっぱりデカイなぁ」

 リフトから降りて滞留している潮風を身体中に浴びる。
空の向こうまで見通せそうな青空は白い雲を少しだけ従えていた。
その空と鋼鉄の色のハイライトは美しい。
そこに浮かんだ《超極兵器級》の圧倒的姿は巨大すぎて逆に気持ちがいい。
艦尾から艦首まで一キロを超える大きさは大昔の大戦からしたら異常だとしか思えないだろう。

「それで、私達めは何をすればよろしいのですこと?」

真白は自分の艦を見上げる。
ここまで連れてこられたのが不満のようだ。

「一体どのような兵装なんだ?
 《ネメシエル》よりかは小さいのかなぁ、とか思うが。
 それを教えてほしい。
 恥ずかしい話なんだがな……。
 実は部下が一気に増えすぎて把握するのが難しくてな」

照れくさそうにマックスは頭をかいた。

「それならそうと早く言えばいいではありませんの……」

 鼻から小さなため息を出し、真白は言葉を出す。
わざわざここまで来なくとも、という文句を封じる言葉を先に言われたからだ。

「文句よりもまずは、私達めは貴方にお礼を言わなくてはなりませんのよね。
 藍や朱、蒼を……私達めの妹達を生かしていてくれてありがとうですことよ」

頭を下げる。
マックスはその頭を上げるように言い

「俺もあんた達に言わなきゃならないな。
 蒼を助けてくれてありがとう、な」

今度はマックスが頭を下げた。

「蒼は……我の……我々の……妹……。
 助けて……当たり前……だ」

 潮風が吹き抜けていく。
風向きが変わったのだ。
《ヴォルニーエル》と《ニジェントパエル》の間を通り抜けるように強い風が空へと突き抜けていく。
艦から突き出した細い主翼が空気を切り、鋭い音を流す。
もう少ししたら日は傾いていくことだろう。
この風が吹くのは午後二時と相場が決まっている。

「……なぁお二人さん。
 ベルカは勝てると思うか?」

「…………わからないですわ。
 でも、その可能性は……」

電子音が鳴り響いた。
マックスの携帯電話からだ。
二人に合図をして、取る。

「なんだ?
 ……なんだと!?
 わかった、すぐいく!」

携帯の通話を切り申し訳ないが、と二人に切り出した。

「かまわない……。
 司令官の……緊急は……軍の……緊急……」

「すまん。
 また、埋め合わせは必ず……」

遠くへと走って消えていくマックスの後ろ姿を見ながら真黒は真白に話しかける。

「妹よ……我々は……」

何かを言いたかったのだろうが口下手の真っ黒はその何かを言えなくて困っている。
妹はその言葉を勝手に予想する。

「ええ。
 勝てると思っていますことよ?
 きっと。
 ここに来るまでに大勢の部下を失ったのですから」

まだ太陽は高い。
大空に浮かぶ雲は大きく一雨きそうな気配だった。



     ※



 扉を開けて入ってきたマックスは息が上がっていた。
コグレチョコレートの食べ過ぎで太ったんじゃないですかね。
蒼は密かに最近そう思っている。

「遅いですよマックス」

「……しかた……ないだろうっ!?」

 その体を椅子にもたれこませ、マックスは落ち着いて大きく息を吸った。
上着を脱ぎ、窓を開け、椅子に座り直すと

「どういう……ふぅ。
 どういう用件で呼び出したんだ? 」

蒼を膝の上に乗せてご満悦の副司令に聞いた。
副司令はいじっていたタブレットをマックスへと向ける。

「これは……?」

「今から一時間ほど前に《宇宙空間航行観測艦》撮られた写真よ。
 この艦に見覚えはまるでないけど、何処かしら面影が見えないかしら?」

「見覚え……?」

「分かったらあなたもなかなかのものだと思うわよ?」

 マックスは副司令のタブレットを片手に持つと少し考える。
ちなみに蒼は一発で分かった。
甲板に刻まれている模様がもともと何だったのかを思えばすぐにその正体が分かる。
そこだけは変わっていない。

「……まさか。
 いや、そんなわけないだろ。
 大きさも兵装配置もこれを見るに全然違うじゃないか」

 マックスも五分ぐらい唸ってようやく気が付いたらしい。
発光しなくなったエネルギー管の模様は《ラングル級》そのもの。
むしろそれ以外で見極めることはほぼ不可能と言ってもよかった。
敵の新造戦艦と位置付ける所だったのだから。

「おそらく《ラングル級二番艦ナニウム》に間違いないわねぇ。
 フェンリアのお墨付きよ」

ああ、あの歩く艦艇識別表の。
それにメカマニアの副司令の判断でもあるのだから間違いない。

「《ナニウム》はこの後どこへ行ったんだ?」

「さあ……。
 《ナニウム》自身から発せられる強力なジャミングでロストしたわ。
 場所は……アージニウス大陸南東部。
 ガルマ砂漠……というぐらいかしら」

「ガルマ砂漠……?
 なんでまたあの周辺に……」

ガルマ砂漠は先ほど副司令が言ってくれた通りアージニウス大陸南東部にある。
なぜかその周辺は重力波が乱れており、岩が宙に浮いていたりする。
物によっては巨大な島が浮いていることもあってこの星の中でも最も危険な場所と言っても過言ではない。

「《ナニウム》であることは間違いないわ。
 でもこの形は……なんなのかしら。
 見たこともない形状だし……」

「分からん」

唸るマックスの肩を叩き副司令は横からタブレットを操作した。

「まぁ、問題はそこじゃないの。
 こっちよ」

もう一枚タブレットには画像があった。
強力なジャミングが《ナニウム》からは出ているらしくその顔まではきっちりと把握することが出来ないが大まかな雰囲気を掴むことぐらいは出来る。

「これは……ロバート大統領……?
 なんでまた……?」

「分からないわ。
 ヒクセスのトップがどうしてここにいるのかも分からない。
 それにここを見て」

副司令はロバート大統領の手首の部分を指差した。
赤く発光する何かが大統領の手首部分を覆っている。

「拘束具が……?
 いったいどういう……?」

「詳しいことは分からん。
 俺もソムレコフから聞いた事が真実だとは思えなくてな」

 ソムレコフがマックスに言ったことはその日のうちに基地中に広まっていた。
今ではベルカ中いや、記者のペンを介して世界中に広まっているだろう。
ヒクセスをけしかけ、その隙にシグナエが世界を取る。
だが果たして本当にそうだろうか。
世が世なら陰謀論として何かしらの週刊誌に取り入れられるものだ。

「ソムレコフは知らないんだろう。
 恐らくそこまで知らされていない。
 となるとシグナエをそそのかした連中もいる、ということになるのか?」

「でも……」

言葉に詰まる蒼だったが《ナニウム》という事はそこには夏冬がいたはずだ。
夏冬がいるという事は《ウヅルキ》もそこにいるという事になる……のでしょうか。

【蒼さん。
 世界が一つの世界になったら。
 何もかもが全て共通のもので支配されたら。
 世界は平和になると思いませんか?】

その言葉が脳裏に明々と浮かんできた。
夏冬の言葉の意味。
それにヒクセス首相の拘束。
《ナニウム》の謎の変形。

「もしかして……。
 マックス、もしかしてなんですが。
 そのそそのかした連中こそが世界を支配したいと思っているとしたら。
 そしてその連中こそがこの戦争を始めたのだとしたら……?」

マックスはポケットから煙草を取り出すと震える指で火をつけた。

「その可能性は……。
 考えておくが一応は無視していいだろう……。
 今はソムレコフの言うとおりシグナエがすべての裏にいるという考えで……。
 何より部下を混乱させたくない。
 それに実際ヒクセスはまだ俺達の首都に居座っているわけだからな……」

 轟音を立て、港から《アイティスニジエル》が艦隊を率いて飛び立っていく。
まだ首都に大した勢力が集まる前に叩いて力を削いでおくつもりのようだ。
無傷なのは《ルフトハナムリエル》と《アイティスニジエル》が率いた艦隊で、《ネメシエル》は《ウヅルキ》との戦いで消耗しているため適任だ。

「まぁきっと朱姉様が取り戻してくれると思っていますですよ。
 マックス、次の作戦をまた私達に指示してください。
 それまで私は少し部屋に戻って眠ります」



     ※



 アラーム。
その強烈な音はどんだけ深く眠っていたとしても蒼の軍人的な感覚を鷲掴みにして叩き起こしてくる。
イライラよりも勝るのは非常事態への焦り。
飛び起き、さっさと着替えようとして立ち上がった蒼だったが床が揺れるのを感じ歩みを止める。
大きなものが近づいてくる。
大地が揺れるように音が大きくなるにつれ、その揺れも大きなものになっていく。
テーブルの上に置いたコップが床に落ち、割れる。
まるでセウジョウ全体を揺さぶっているような錯覚にも陥るほど強い。
割れたコップの破片を踏まないようにして窓から外を見る。
大騒ぎし、ドックの方へと駆けて行く人達。
あちこちでライトが付き、深夜のセウジョウが活気を取り戻していく。
そして蒼のいる建物の上を巨大なものが飛び越えて行った。

「嘘……」

《超極兵器級》の一隻。
《アイティスニジエル》の変わり果てた姿だった。
あちこちから黒煙を噴き出した船体のあちこちには巨大な穴が形成されていた。
舷側の光は弱々しく、主翼の半分を失ったためか船体は左に大きく傾いていた。

「朱姉様――!」

落ちていく《アイティスニジエル》の艦底から砲塔が抜け落ち、セウジョウの建物を押しつぶす。
砲塔と一緒に様々な部品がちぎれ、砲塔と一緒に多数の装甲も落ちる。
装甲版一ブロックが家以上の大きさがあり、その下敷きになった建物は耐えれずに崩壊する。
半分ほど無くなっている艦首の向かう先は湾だ。
あのスピードで着水するつもりなのだろう。

「無茶な――!
 朱姉様!」

 《超極兵器級》の巨体を制御できるのは“核”だけだ。
その“核”がどうしようもないことを外からどうにかすることはほぼ不可能に近い。
《ネメシエル》が落ちそうになった時も、そうだった。
《アイティスニジエル》は黒煙を強くひっぱり、その燃えた船体を湾内へと向かわせる。
あれでは藍も間に合わないだろう。
高度が下がっていく。
対津波緊急防壁が展開され、《アイティスニジエル》の着水に備えられる。
そして轟音とともに湾内の水をすべて吹き上げるような勢いで《アイティスニジエル》が堕ちた。





               This story continues.
ありがとうございました。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!

本当にあけましておめでとうですねぇ。
さあ今年はもっともっとこの作品を面白くします!
がんばります!
+注意+
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