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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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第六十七話 丘の上にて

聖育院じっかから戻ってきた俺は、早速魔導陣版護符アミュレット作りに取り掛かった。

公星は俺が研究で忙しく構ってもらえないと分かっているので、何処かへ飛んでいってしまったので暫く戻っては来ないだろう。

まぁ、絶対に晩飯を食いに夕方過ぎには戻ってくるだろうがな。


さてまずは最初使っていた護符アミュレットの解体からだ。

まずシエルが作った魔法構築式を魔法で転写した硝子玉からバラしていく。

これはコレで集中力がいるのでとても難しい。

失敗すると硝子玉自体が砕けてしまい2度と使い物にならなくなってしまう。

丁寧に魔法解除の呪文を唱えながら少しずつ剥がしていくしかない。

今までの魔法構築式を消し、まっさらになった硝子玉を光に当てて確認してみる。


「うん。大丈夫。きちんと綺麗に取れてる。さてコレからが本番だ」


まずは魔導陣の選別からだ。

今までシエルが作った魔法構築式を使っていたので、それを石に転写するだけでよかったが、これからはそうも行かない。

魔導陣は俺にしか作れないから俺が自分で考えて魔導陣を作らなければならない。

防御系ならどういった言葉か、攻撃系ならどうか、魔法の属性を上げたいのならどの組み合わせが良いか、全て自分で組みなおさなければならないのだ。

日本語で同じような意味の漢字を選び、必要最低限以外の言葉を削っていく作業を何回も試していく。

地道な作業だが普通の魔法構築式を描くよりも比べるまでも無く効率が良い。


「ふむ、とりあえずこれで良いか…後はコレを転写してから土台と組み合わせれ─」

バターーーーン!!!

「うお!!」


護符アミュレットを作り変える作業の前準備が一通り終わった頃、俺の工房部屋の扉が勢い良く開かれた。


「セボリー!お前騙したな!!ティグ兄なんていなかったぞ!!ステーキも持ってなかった!!」

「ルピシーか…びっくりするからノックくらいしろ。ん?ティグレオ兄さん?………ああ、そうか。じゃあ俺の見間違いだったのかもな」

「態々ティグ兄を見つけるために学園都市中探し回ったんだぞ!!ティグ兄に鼻で笑われた俺の気持ちを考えろよ!!ティグ兄パーティの他のメンバーの人には慰められたけど!!」

「あ、馬鹿がいる」

「え!?どこにだ!!?」

「俺の目の前だ」

「俺しかいねーじゃねーか!!」

「いや、他にもいるぞ。ほらお前の横に」

「え!!?いないぞ!!?どこにいるんだ!!?」

「え?嘘?普通にいるじゃん。緑色の髪の毛をした俺達くらいの女の子がお前の横にびったりくっついてるぞ」

「嘘だろ!!?誰もいない!!」


うん、本当はいません。



「うわぁあぁあああああ!!俺はお化けが駄目なんだ!!」

「いや、本当はいねーから。俺の身近な知り合いにはお前より馬鹿は存在しない」

「……おい!!また騙したな!!それにお前俺のこと馬鹿馬鹿言ってるけど、これでも進級できるくらいには勉強してるぞ!!」

「俺達が必死になって教えてるからだろうが。しかも毎回狙ったかのように赤点ぎりぎりでな。で、用はそれだけ?俺まだ研究を続けたいんだけど」

「おお!そうだ。忘れる所だった!俺の本が出来上がったんだ!!これだこれ!!」


そう言ってルピシーは、俺の目の前に勢い良く単行本ほどの大きさの本を差し出してきた。

差しだされた本には『学園都市一代美食男~食べ歩き界の貴公子が食べ尽くす絶品店~』と言う題名と共にロベルトとルピシーの名前も印字されている。


え?ぶっちゃけこんな本要らないんだけど。

貰っても読む気ないし、有難迷惑なんだけど。


「何この頭悪いタイトル」

「ん?なんかロベルトの部活のホビーファイターとか言う人がつけたらしい」

「………コピーライターな。わかった俺を褒めろ」

「そうそう、そんな感じの名前だ!!」

「で、何時発売するんだ?」

「予定としては学園都市の中だと来月で、シルヴィエンノープルだと再々来月らしいぞ」

「……サンティアス学園なんでも同好会出版って学園都市限定じゃなかったのか?」

「学園都市限定だったらシエルが入学した時に持ってこなかっただろ」

「ああ、それもそうだな…」


後に知ったことなのだが、サンティアスなんでも同好会のOBOGはてまた支援者の輪は聖帝国全土に広がっており、それなりのマニア層も多いため聖帝国全土はもちろん周辺国にも販売している店があるらしい。


「と言うことでお祝いに行こう!ロベルトも連れてどっか食べに行こうぜ!!」

「ん~、っていうか今何時だ?え!?ってかもう夜の7時回ってるじゃん」


時計を見るとすでに夕食に最適な時間を指していた。

どうやら研究に没頭しすぎて時間を忘れていたらしい。


「どおりで腹が減るわけだ。っていうか俺まだ昼飯も食ってないんだけど」

「1日3回しかない食事を1回も抜くなんて人生損してるぞ!!」

「あれ?おかしいな?俺にはお前が一日5~6色食ってるように思えるんだが?」

「当たり前だろ!朝食と昼食の間に軽食を取って、3時の食事に夕食の後は寮に帰って夜食だ!!」

「良くそれだけ食って太らないよな。まぁ良いや」


ここで考えてもこいつの思う壺なので考えを放棄した。


「じゃあ食いに行くか。ところで皆は誘ったのか?」

「おう!お前が最後だ!ロベルトがジジを誘っていたからジジも来るはずだぞ」

「そういえばロベルトとジジって仲良かったもんな。ガルディとかは来るのか?」

「いや、あいつは来ない。今初等部で大きな試験があるらしくてな、その勉強が忙しいんだってさ。勉強なんてせずに遊んだら良いのにな」

「おい、お前は今言ってはならない言葉を言ってしまったぞ。本来学生とは勉強と遊びを両立させるものだが、遊びの比率が99・999%のお前はもっと勉強の比率を増やせ」

「嫌だし!!勉強したら頭が悪くなる!!」

「「「「「「「いや、ならねーよ」」」」」」」


いつの間にか俺の部屋の扉の前にいたいつものメンバー達が俺と一斉にツッコミを入れてくれた。

なんか皆で一斉にルピシーを突っ込むのが恒例行事とされているような気がしてならないな。


「ロベルトとジジはまだ来ないのか?」

「もう工房のフリースペースで待ってる、うん」

「ねぇ?ジョエルとノエル、あとヴァン君も一緒に連れてっていいかい?」

「俺は構わないけどルピシーは?」

「賑やかな方が好きだから良いぞ!」

「まぁ、すでに呼んでいるんだけどな」

「「「こんばんはぁ!!!」」

「モキュ!!」


ジョエル君ノエルちゃんヴァン君が姿を現すと同時に、計ったかのようなタイミングで公星も帰ってきたようだ。

ヴァン君が言うには商会の建物の100メートル前を歩いていたらひょっこり飛んできたらしいが、絶対にこいつ見計らって帰ってきたんだろうな。

まぁ全員揃ったところで夕飯を食べに町へと繰り出しましょうかね。


「そうだ、ジジ。この前一人で試しの迷宮に潜っている時に例の馬鹿2人組み見かけたんだが…」

「………ああ、あれね~。………何か迷惑かけた?」

「いや、護符アミュレットを無料で貰いに来そうだったから商会の前に張り紙を張っただけ」

「……そう。来ても実力行使で追い返して良いから。ついでに蹴っても良いよ」

「蹴るのはちょっと……そこまで関わりたくないから無視する方向で対処するよ」

「……何かあったら俺に言ってね調教はちゃんとするから」

「わ、わかった…ジジも色々頑張ってください」


ジジも随分とストレスが溜まっているようだ。前に見た時よりもやつれている気がする。

この頃ジジから詳しい話は聞いていないが、寮のルームメイトからジジの事を又聞きしているので心配だわ。主にジジの胃が…

今度フェディに良く効く胃薬でも作ってもらおう、俺にも必要だから……


その日の夕飯は随分と賑やかに過ぎていった。





次の日、護符アミュレットの製作に取り掛かる前に、ユーリとヤンを俺の部屋へ呼び護符アミュレットのデザインを決めようと相談している。


前にも言ったようにデザインひとつで威力が変わってしまう事がある。それは良い意味でも悪い意味でもでだ。

そのためにユーリに数枚デザインを描いて貰い、それを元にヤンが元のアクセサリーを作って魔導陣に合うデザインと合わないデザインを選別しようと言う訳だ。

形がメジャーなブローチ型やカフス型や、ベルトに無限収納鞄マジックポーチをかける留め具なども作ってもらうつもりである。

ユーリは張り切って指輪やネックレスはてまたティアラと言った完全なるアクセサリー型の物も描いていたが、まず最初は今ある形の物で作る事にした。


「なぁ、セボリー。この硝子玉を作る魔法も魔導陣で作ったらどうゆう事になるんだろうな」

「………それは試してなかったな。試してみるか」

「試すなら人気の無いところのほうが良いですね。前の洪水のような事件があったら近所迷惑ですし」

「そうだな。移転陣でどこか人気の無いところでやってみるか…」

「それでは私はユーリのデザインを元に石の留め金を作ってくるからセボリーはそれを実験してくれ」

「ああ、わかった。行ってくる」


そのまま商会の事務所を出て近くの移転陣に飛び乗った。

移転陣で来たのは学園都市の東側である。

ここから歩いて30分ほどで殆ど人がいないような丘があり、その丘の上で実験を行ってみようときたのだ。

さて抽出の呪文を詠唱する。


「ここまでくれば大丈夫だな、人影なーし!良し『抽出』」


前のように倒れないために範囲もちゃんと決めておく。

そうすると以前よりも早い段階で既に違いがわかった。


「お?おお!!前より透明なものが集まってる!!それに量も段違いだぞ!!じゃー次だな」


前はヤンの火の魔法で硝子玉に加工していたのだが、俺の土魔法のレベルが上がってから凝縮と形成の魔法を覚えたので一人で硝子玉を作る事が出来るようになった。

ヤンは趣味の一つがなくなったと嘆いていたが、俺的には無駄な時間がなくなって効率が良い。


『凝縮』『形成』


コレも今までの比ではないほど、どんどんと抽出したものが固まっていく。


「早いな…前はもっと時間が掛かっていたのに。これも日本語詠唱のおかげか?」


野球ボール大の大きさの不純物が全く感じられない透明な硝子玉が出来上がった。

前よりも形が綺麗に形成できた。

前は頑張っても少し歪みが生じていたからな。


「そういえば土魔法のレベルが上がっても抽出できる物が限られていたんだっけか。それも実験してみたほうが良さそうだな…っ!!誰だ!!」


ひとり実験をする俺の後ろに気配を感じて慌てて振り向くと、振り向いた先に俺の見知った顔の人物が笑いながら立っていた。


「よぉ。久しぶりって程じゃないが、元気だったか?」

「はい。それなりに元気ですよ。どうしたんですか?こんな所にいるなんて思いもしなかったんですけど?」

「ちょっと用事があってこちら側に来てたんだが、見知った魔力を感じてな、来てみたって訳だ」

「成る程。ウィルさんも相変わらずお元気そうで何よりですよ」

「今は空元気が強いけどな」


そう言ってウィルさんは苦笑をしながら口に咥えた煙草の紫煙を吐き出した。

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