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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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外話 マルコとドリエッタ4

ジジとロベルトはセボリーの紹介で知り合い、お互い似ているものを感じたのか仲良くなることに時間はかからなかった。

なのでちょくちょくセボリー達を抜いて2人で遊びに行くこともある程の仲の良さである。

そんなロベルトにジジは先程あることを依頼した。


「いやぁ、びっくりしたよぉ。いきなりこの書類を指定の不動産屋さんに持って行ってくれって書いてあったからねぇ。一応おいら一人じゃ不安だったから部活の先輩と一緒に行ったんだけど、これでよかったの?」


そう言ってロベルトはジジに書類と数枚のメモ用紙を手渡すと、ジジは手渡された書類に目を通すと満面の笑みを浮かべ頷いた。


「うん。ありがと~、完璧だよ。」

「そう、よかったよ。ところでジジの後ろに転がってる人達はどうしたのぉ?」

「ああ、この物体ね~。気にしなくていいよぉ」

「うん、わかったぁ」

「「ンンンーー!!!」」


ボケだらけでツッコミがいない状態の空間にツッコミ希望者が現れるが、生憎彼らは猿轡で喋ることができない。

喋る事が出来たとしても相手にしてもらえるのかさえ不明であった。


「でも本当にごっめんね~。今ルピシーの本のことで大忙しでしょ?こんな時期に使わせちゃって悪かったね」

「大丈夫だよぉ。だってもう大方作業は終わってるからぁ。後は印刷会社に出すだけって感じかなぁ」

「本が出たら是非とも買わせてもらうからね~」

「ありがとぉ。ルピシーは感性や感想は良いんだけどねぇ、文章にすると一気に安っぽくなるんだよねぇ。それを修正するのが大変だったよぉ」

「ま~、ルピシーだしね」

「そうだねぇ、ルピシーだからねぇ」

「「ンンンーーー!!」」

「じゃあ、おいら用事があるからもう行くねぇ」

「ありがとね~。今度また一緒に遊ぼう」

「わかったぁ。じゃぁねぇ」


ロベルトは元気良く駆け出し帰っていった。

そして残ったのは先程の笑顔とは打って変わって無表情になったジジと、ツッコミ希望者の2名だけであった。


「ンンーー!!ンごはぁ!!」

「プハ!!これはどういうことですの!!?」

「とにかく入るぞ、ここじゃ近所迷惑だ」

「話が違いますよ!!!」

「良いから入れ。オラ」

「グェ!!」

「イヤァ!!」


ジジは2人の猿轡を外し、蹴飛ばしながらマルコの家へと入っていく。

未だ体を縛られている2人も抵抗も出来ずに家へと転がされていった。


「大公公子!ひどいではないですか!!俺様はあなた様についていくと言ったでしょう!!?それに俺の物を売る事はやめるといってくださったでしょうが!!」

「俺はやめるのも吝かではないといったんだ。やめるとは言っていない」

「あたくしを助けてくれるって仰ったじゃありませんか!!あれは何でしたの!!?」

「だから今助けているんだ。お前らこれ以上好き勝手やってると本当に死ぬぞ」

「だからってこれはあんまりですわ!!!」

「そうだそうだ!!!」

「………黙れ恥さらしめ。さっきの署名はこの家の契約解除を承認する書類だ。先程の家内捜索で見つけておいたものをお前等に書かせただけだ」

「そんな!!それじゃ俺様は何処に住んだら良いんですか!!?」

「横暴ですわ!!あたくしの家を返して!!」


一心不乱に金目の物だけをを詰めていたように見えたジジだが、高価そうな箪笥の中に契約書が入っていることを決して見落としてはいなかった。


「……お前等には寮があるだろう。学生なんだからあそこに住め」

「あんな雑多でみすぼらしい所になんて住めるはずないですわ!!」

「ロベルトから受け取ったこの書類に書いてあるが、豚の家とドリルの家は家賃が滞っていて大家が困っていたらしいぞ。この学園都市に来てたった1ヶ月で家賃滞納とは………滞納額も素晴らしい事になりそうだな。成る程、お前等の滞納分は先程売った金で返済すると明記されている。流石はロベルトだ、事細やかに不動産屋と大家の証言や話し合いの内容と返済スケジュールもこの短時間にびっちり書かれている。あの手紙には最低限の事しか認めなかったんだが…頼んで正解だな。先輩とやらにも後程お礼を言っておかないと…」


ロベルトから受け取った数枚のメモを読みながら感心しているジジに、2人は声をさらに張り上げる。


「そんな!!あれはあたくしのお金ですわよ!!それにあんな所に住むくらいなら国に帰りますわ!!!」

「そうだそうだ!何で貴族の俺様が個室ではないんだ!!しかも趣味が悪い質素な部屋だぞ!!!」

「お前らの言うそのみすぼらしくて趣味の悪い部屋に俺は住んでいるんだがな」

「「………でも」」

「そうか、では奴隷にでもなれ。この国では他国人は住む所を知らせ申請しなければならない決まりがあるのは知っているな?聖帝国籍の者が他国人の身の保障をするか、その他国人が聖帝国にとって貢献していると証明されない限り奴隷としてでしかいる事は出来ない決まりだ。その例外的な例が俺達のような留学生なんだよ。お前等の戦闘力で冒険者として貢献できるか?お前等の頭で商会を興し稼ぐことが出来るか?出来ないだろう、なら奴隷にしかなるしかないな」


聖帝国は他国人を殆ど受け入れない。

サンティアスは例外の一つであるが、サンティアスの子供達は自分達を聖帝国人と認識しているし国籍も聖帝国籍なので全く問題ない。

しかし、それ以外の者は複雑な手続きをしなければ国内で暮らすことは出来ない。

冒険者も聖帝国人に知り合いがいてコネがあるかコネが無くてもある一定の実力がないと住む事が出来ないし、留学生も高い金を出させ篩いにかけてから選別しているのである。

選別していても所詮は金の力で入ってくるので問題を起こす生徒も多々いるが、そこは入学前の契約書に明記されてある条項があり破れば強制的に退学になり、冒険者として入国してくる者にも契約書があり、それを書かなければ暮らすこと以前に入国する事すら出来ないのである。


「それならさっきも言っていたように国に帰るまでだ!!」

「そうですわ!国に帰って優雅に暮らすまでよ!!」

「………お前等つい最近自分達に届いたお前らの親からの手紙の内容を忘れたのか?」

「「え…?…………っあ!!!」」


2人は見る見るうちに顔が青ざめていき、目には涙を溜め体を震え始めた。


何故ここまで青ざめているかというと、2人の親からの手紙には『卒業するまで戻ってこなくて良い。もし卒業することなく戻ってくるのなら勘当だ』と記されていたのだ。

つまりトリノ王国の貴族籍から外れる事になり、家や親の権力や金を受けて威張る事や豪遊する事が出来ず、平民として虐げられる事が決定しているからである。

自分達が今まで自国の平民にしてきた事が頭によぎったのであろう、2人は体の震えが止まらなくなっていた。


「もし今トリノ王国に帰るのであれば先程売ったお前等の金を、お前等が迷惑をかけた大家さんと学生達に心付けとして配るまでだ」

「駄目ですわ!!」

「俺様の金!!!」

「………分かったか?お前等には選択肢は無いんだ。学園の寮に住んでアルバイトでもしながら慎ましやかに学生生活を過ごせ。それかその残った金で装備を整えて弱い冒険者として小金でもを稼いでいろ。来年度からのお前等の学費や生活費はお前等自身が稼がなくてはいけないのだからな」

「「え!!?」」

「………まさか忘れていたとは言わないよな」

「…勿論忘れてなんていませんわ!!」

「…そうです!覚えているに決まっている!!!」


完全に忘れていた様子である。

2人の顔を見なくてもその事を分かっていたジジはため息さえつかなかった。

ジジが今考えていたのは、どうやって自分と周りに迷惑をかけずにこの馬鹿達を更生させるかであった。

まだ更生させると言う選択肢があるだけジジは寛大である。


「滞納分の金を差し引くと残りが心もとないな。金は有利子で貸してやる。それで装備を揃えて試しの迷宮へ潜れ。一流品なんて買うような事はするなよ、そんな事をしたら武器だけで全ての金がなくなるぞ。自分達の財布と相談して装備を揃えろ。良いな?」

「「……………………」」

「……い・い・な?」

「「………ハィ」」


その後、生活するために必要最低限の荷物を2人に持たせてジジは自分の寮の部屋へと戻った。

部屋へ戻ると心配そうな目でジジを見つめる2人のルームメイトと何故か目をきらめかせているルームメイトが出迎えてくれた。

1人のルームメイトがお茶を出してくれ、飲み寛ぎながらジジはルームメイトに笑顔で話しかけた。


「迷惑かけてごっめんね~。もう大丈夫だから心配しないで」

「う、うん。さっきのジジは色々凄かったよ…」

「凄く素敵だったぞ、あの縛り技を俺に試して欲しいくらいだった」

「元に戻ったみたいで良かったよ。やっぱりジジはその飄々とした感じが似合ってる」

「2人ともありがと~」

「え?俺は?」

「そろそろご飯の時間だから一緒に行こうか?2人とも」

「うん、そうだね」

「ああ、行こう」

「待って!無視しないで!」

「やっぱり持つべきは恵まれたルームメイトだ~。ね、2人とも」

「「おうともさ」」

「俺もルームメイトだぞ!!待ってくれ!!!」

「「「ハハハハハハハハ!」」」


こうしてジジは1人信頼できる友達が減り、そして食事の時に馬鹿2人に襲撃された自分の行動を聞かされて暫く立ち直れなくなった。

3日ほど寝込みグロッキー状態から立ち直ったジジに更なる悲劇が降りかかり、ストレスでまた寝込む事になるとはこの時誰も想像すらしていないのであった。

まだ続く

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