彼 5
ビルから出ると、外は真っ暗だった。
街のイルミネーションが、心なしか寂しげだ。
しかし、昼間からすると、人通りも多くなっていた。
カフェの横を通りすぎながら、彼女がソファーに腰かけているのが、鏡越しに見えた。
扉を開け、真っ直ぐに彼女の方へ向かった。
彼女の薄く色づいた頬を見つめながら、
―今日は、 いつもよりちょっと色っぽい…―
などと、至らぬ事を考えている。
こんなに彼女と面と向かって話した事がなかったので、何から話していいのかわからない。
とりあえず、主任達の事でも話し始めることにした。
「主任達、どこで油売っているんだろう」 などと、
当たり障りのない話から始める。
温かいコーヒーを飲んだせいか、彼女の表情も和らいで見える。
コーヒーが運ばれ、一口、口を付ける。
かなりきつい酒が喉に流れこんできた。
幾ら甘いとはいえ、このきつさは、空腹には堪える。
どうりで、瞳も潤んでいるはずだ。
「これ、かなり酒、きつくない?」
コーヒーカップを指さし 彼女に聞いてみたが、
「甘くて、 美味しいわよ」
と、何食わぬ顔をして微笑んだ。
全然気にしていない様子だ。
以前、カクテルを飲みすぎた女の子を介抱した事が一瞬、脳裏をよぎった。
―勘弁してくれよ。―
と、心の中で呟く。
酔った勢いで、どうにかなってしまったら、それこそ主任の話のネタになりかねない。
あれこれと面白、可笑しく、ある事ない事、言いふらすに決まっている。
それだけは、勘弁してほしかった。
そうこう考えているうちに、時計は7時を回っていた。
コーヒーを一息で飲み干し、携帯をポケットから取り出そうとした瞬間、
携帯が震え始めた。
「主任からだ」
待ち焦がれていた恋文を開くように、俺は徐に携帯を開いた。
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