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ただいま開店準備中 2

町に到着そうそう掃除に追われる羽目になった私は、さすがに耐えかねてギルドにねじ込んだ。


それで向こうに頭を下げさせて溜飲は下がったが、自分一人では片付くはずもないので、人手を借りるつもりでいました。もちろんタダで。


「家の状態を正確に知るため、職員を見に行かせよう」


おや、見に来るだけ?私の話を聞いていたのに?


「ついでに手伝いの人を貸して下さい。調べてから人手を借りるなんて、時間の無駄ですから。今夜寝る場所もないんですよ」


当たり前だが寝室もホコリと蜘蛛の巣まみれだ。下手をすれば店舗の作業台に、さっき届いた布団を敷くしかない。


誰のせいだという含みを持たせて、支部長さんににっこりと笑いかけた。容姿は母親にそっくりと言われるけれど、中身はおっとりした母よりもキツイ祖母似だと言われます。


「…いい奴がいる。力仕事は押し付けてやってくれ。ああ、お代はいただかないよ」


は? そちらの手落ちなんだから当たり前でしょう。請求されたって絶対に払いませんよ。


「ありがとうございます。片付くまでお借りしても構わないんですよね」


代わりの宿を用意しろとまでは言わない。布団も届いたことだし、寝室は最優先で今から掃除します。でもそちらの不手際で色々と迷惑を被っているんだから、それくらい当たり前ですよね。


支部長さんは苦笑いして、本当にカテジナに似ているなとつぶやかれてしまった。ええ、そうでしょうとも。がっちりした性格がとくに似ていると言われます。…でもしみじみ言われると複雑な気持ちだ。


年長者にこんな無礼な態度をとったりして図太い小娘だと思われているのだろうが、こっちは未成年とはいえ商売人。ちゃんと納税の義務も果たしている。子供扱いされて、見くびられるのは我慢出来ない。


納税もだが、ちゃんとギルド員登録して組合費も納めてるし、仮にも商業許可証明を発行した相手を成人前とはいえ子供扱いはないだろう。


最低でも二年間という商業実績を証明した書類を添付した帳簿を確認したうえで、ギルドは商業許可証明を発行したはずだろうしね。


きちんと納税証明書だって付けて提出したし、未成年ということで父親が保証人となってもいる。まさか父の名前を知らないとは言わないだろう。商人としては割と知られているから。


可愛げのない小娘だと思われようと、こっちはこれから一人でやって行かないとならないんだ。財布も気持ちも引き締めてかからないと死活問題だ。ナメられてたまるか! 保障だってきっちりとしてもらうんだからね。


という敵意丸出しの私をなだめるために紹介してもらったのが、気の毒なイルクさんだ。


イルクさんには補償手続きの申請書類作成のための調査のかたわら、遠慮なく掃除や草むしりや大工仕事や買い物を手伝ってもらい、今は買い物がてら町の案内に付き合ってもらっている。


さすがに自分が図々しいという自覚は重々あります。はい。傍らの大きな体を見上げると、いくら図太い私でも申し訳ない気持ちになる。


今日は休日だというイルクさん。せっかくのお休みにごめんなさい。


「今日は買い物ついでに町を案内しよう。まだ町に来たばかりで、よくわからないだろう。前に来たときは大まかにしか教えなかったし」


「どうもありがとう。助かります」


重ね重ねありがとうございます。本当に助かります。行きたい場所や、避けた方がいい危険な場所などは、大まかにでも知りたかったのだ。いくらこんなピンク頭をしてても、揉め事に巻き込まれないとは限らないから。


現に今も私の髪を見て不思議そうに振り返る人や、じっと見ている人がいる。さすがに視線が痛い。


「ねえ、あれって…」


「え?まさか」


はい正解。そのまさかです。ピンクブロンドなんて見たら気になるのは分かるけど、指は指さないでください。失礼でしょう、あなた。なんなら水晶使ってみますか?ちゃんと本物ですよー。


地元だったら近隣の人はこの頭を見慣れてるから気にしないんだけど、初めて私の頭を見る普通の人の反応はこういうものだ。この町に着くまでに出会った人たちもそうだった。


お年寄りに拝まれたときは、どうにも居たたまれなかった。私を拝むより神殿に行ったほうがいいと思います。



懲りもせずショールを忘れて出て来てしまった私は相当うっかりだと思うが、今さら取りにも戻れない。いっそ店の宣伝も兼ねるか。


だんだん思考が陰々としてきて、それがに顔つきに出ていたのか、イルクさんが心配そうに声をかけてきた。


「サララ。どこか店に入ろうか」


気配りの出来る男性は貴重だが、そのせいで支部長さんに役目を押し付けられたのかと思うと、善し悪しだと思う。しかし今はありがたい。


「じゃあ、そこの小間物屋さんに行きたいです」


うっかりいつもの調子で髪をひとつにまとめて編んだだけだから、人目につくのは当たり前だ。あそこでショールでも買って頭から被ることにした。


イルクさんは頷いて、私の肩に手を添えて誘導してくれた。ご親切にありがとうございます。


内気な人だと思っていたのだけど、さりげなくエスコートしてくれるあたり、違うのかしらね?


いや、このくらいの年齢の男の人からみたら、私なんて童女か。背も低いし。


そんなどうでもいいことを考えながら、二人で手近な小間物屋の店先をくぐった。



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