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大きな狐と女の子

作者:日下部良介
今でもあの場所に居るのかな…。

 あれは僕がまだ小さかった頃。
 僕は地方の山間部にある小さな町で生まれました。両親は代々続く畑を守って生活をしていました。周りに他の家はなく、小さかった僕はいつも両親が働いている畑のそばで一人で遊んでいました。
 あの日も今日みたいに寒い日でした。

両親は畑で冬野菜の収穫をしていました。いつもの様に僕は畑のそばで一人で遊んでいました。お昼になったので両親は畑から上がって来て三人で真っ白いおにぎりを食べました。おにぎりを食べていると、空から雪の粉が舞い降りてきました。
「おお、初雪かあ…。どおりで寒いわけだ。今日は早く仕舞うとするか」
 お父さんはそう言って立ち上がると、畑の方に歩いて行きました。
「けん坊、もうすぐ帰るから遠くに行っちゃダメだよ」
 お母さんもそう言うと、お父さんの後を追って行きました。僕は頷いて食べかけのおにぎりを頬張りました。その時です。僕はそばに誰かいるような気がして振り向きました。すると、僕の後ろに女の子が立っていました。僕と同じくらいの女の子でした。この近くに他の家はないので迷子にでもなったのかと思い、僕はその子に話し掛けました。
「どこから来たの?」
 けれど、女の子は何も答えてくれません。ただ、僕が食べているおにぎりをじっと見ているのです。そうか!お腹が減っているんだ。僕はそう思い、余っているおにぎりを差し出しました。すると、女の子は嬉しそうな笑みを浮かべて僕のそばに近付いてきました。おにぎりを受け取ると、頭を下げて駆けて行きます。僕はきっと、そっちの方にお父さんかお母さんが居るのだろうと思いました。
 女の子は林の方へ駆けていきます。僕は女の子の後姿をずっと見ていました。すると、林の手前で女の子は立ち止まり、振り向きました。そして、手招きをしているのです。僕は辺りを見回しました。畑仕事をしている両親の他には誰も居ません。女の子は僕を呼んでいるみたいです。お母さんに遠くへ行っちゃダメだと言われていたので僕は戸惑ったのですが、少しくらいなら大丈夫だろうと女の子の後について行きました。

 女の子に手を引かれてボクは林の中に入って行きました。いつも遊んでいる林です。迷子になるとか怖いとか、そういう事は全く思いませんでした。
 少し行くと周りが開けたところに出ました。そこには一本の大木が倒れています。大木には穴が開いていて、僕はいつもそこで遊んでいました。女の子はその大木の穴の中を覗き込んでいます。そして、何か言っているようです。何を言っているのかは判りませんでした。女の子が穴の入り口におにぎりを置くと、中から大きな狐が出てきました。狐は何度も見たことはありますが、こんなに大きな狐は初めて見ました。僕は自然と後ずさりをしていました。でも、女の子がボクの手を離さないのです。
「あの狐を知っているの?」
 僕は女の子に聞きました。女の子は黙って頷きました。狐は元気が無いように見えました。どうやら怪我をしているようです。女の子は狐におにぎりを食べさせてあげようとしたようです。
 大きな狐はおにぎりの臭いをクンクンかいでいます。そして僕の方を見ました。とても優しい目をしていました。もしかしたら、僕にお礼を言っているのかもしれません。大きな狐はおにぎりを一口食べました。すると、急に元気になったみたいで女の子を背中に乗せると林の奥の方へ歩いて行きました。
 僕は女の子のことが気になってそっと大きな狐の後を追っていました。大きな狐は林の奥の洞穴の前まで来ると、辺りを確認するようにキョロキョロした後、洞穴の中へ入って行きました。僕は中を覗いてみたい気持ちに駆られましたが、お母さんの言葉を思い出して引き返すことにしました。
 林を抜けると雪はさっきよりたくさん降っていました。畑に戻ると、お父さんとお母さんが丁度仕事を終えて上がってくるところでした。
「さあ、帰るとするか」
 お父さんは収穫した野菜を入れた籠を担ぎました。僕はお母さんと手を繋いでお父さんの後をついて行きます。

 雪は一晩中降り続き、朝には一面雪化粧をしていました。
「しばらく畑は休みだな」
 外を眺めてお父さんが言いました。
「そうですね。昨日収穫しておいてよかったですね」
 お母さんはかまどでご飯を炊いています。その間に昨日収穫した白菜を使って味噌汁を作り、ぬか床からカブの漬物を取り出しました。それから魚の干物を焼いて朝ごはんの出来上がりです。僕はこっそり魚の干物を手拭いに包んで懐に隠しました。
 朝ごはんを食べ終わるとお父さんは納屋で草履を作り始めました。お母さんは縫物の仕事をしています。
「遊びに行って来る」
 僕はそう言って家を出ました。
「けん坊、雪が積もってるから川の方へは行くんじゃねえぞ」
「わかった」
 川の方は凍った水面と岸の境目が分かりにくい。誤って川に落ちたらひとたまりもない。けれど。僕ははじめから川になんか行くつもりはありませんでした。僕は昨日、女の子と大きな狐が入って行った林の中の洞穴に行くつもりでした。

 畑は雪に覆われて真っ白でした。かすかに見える大根の葉っぱを見つけると一本だけ引き抜いて持って行きました。
 林の中に入ると、すぐに大木のところまでやって来ました。そこは開けているためか大木が半分雪で埋まるほどでした。念のために大木の穴を覗いてみましたが大きな狐の姿も女の子の姿もありませんでした。
 先に進もうとした僕は足を止めて周りを見回しました。雪化粧のせいで昨日と様子が違って見えたからです。それでも、大体の見当を付けて奥に入って行きました。迷ったら来たところを戻れば大木のところまで戻れると思っていたからです。ところが、いくら進んでも洞穴の場所にたどり着かないのです。いつの間にかまた雪が降ってきました。僕は仕方なく引き返すことにしました。幸い、しっかり足跡が残っていたのでそれを辿って引き返しました。けれど、降り出した雪に足跡は次第に消えて無くなってしまっていました。でも、それほど心配はしませんでした。真っ直ぐ戻ればいいだけのことです。
 次第に雪が激しくなってきました。そして、どんなに歩いても大木のとこれへたどり着くことが出来ません。僕は迷ってしまったことに気が付きました。雪のせいでどっちを向いても同じ景色です。いつも遊んでいる林とは全く違う景色に見えました。そして、寒さでだんだん体が動かなくなってきました。
「お母さーん」
 僕は何度も叫びました。けれど、小さな僕はいつの間にか雪に埋まってしまいました。

 気が付くと、そこは洞穴の中でした。目の前には大きな狐が体を丸くして眠っていました。まるで冷たくなった僕の体を温めてくれているように。僕は大きな狐に助けられたのだと思いました。そう思うと急に安心してまた目を閉じました。
 次に目を覚ました時にはあの女の子が居ました。僕が目を覚ましたのを見ると、にっこり笑ってボクの顔をなめてくれました。
「くすぐったいよ」
 僕が言うと、女の子は洞穴の入り口の方を指しました。外はもう、暗くなり始めています。
「大変だ!帰らなきゃ」
 僕は懐から干物と大根を取り出すと女の子に渡しました。女の子は嬉しそうに頭を何度も下げました。それから僕の手を取って洞穴の外まで連れてきました。外には大きな狐が待っていました。女の子は大きな狐の背中に乗ると、僕にも乗れという風に合図をしています。どうやら僕を送ってくれると言っているみたいです。僕は大きな狐の背中の乗せてもらいました。大きな狐は林の中を飛ぶように駆け抜けて行きます。あっという間に大木のところまで来ても更に駆けていきます。一気に林を抜けて、僕の家の明かりが見えるところまで連れて来てくれました。
 僕と女の子は大きな狐の背中から降りました。
「ありがとう」
 僕は女の子と大きな狐にお礼を言うと、家の方に駆けだしました。途中で振り返ると、女の子と大きな狐は僕を見守ってくれているようでした。僕はもう一度お礼を言いました。
「ありがとう」
 その声が聞こえたかどうかはわかりませんが女の子と大きな狐は林の方へ戻って行きました。
 僕はその時、見たんです。月に照らされた女の子と大きな狐の影を。それは間違いなく、大きな狐と小さな狐の影でした。

 今でもあの場所に居るのかな…。






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