7
話は少し遡る。
コナンが電話を受け取る1時間ほど前。
優作は病室でジョディから気になることをいくつか聞いていた。
「では最後の質問。あの子はそのやりとりに気付いていたのかい?」
「いいえ、多分気付いていないと思うわ。刑事と話してたみたいだし」
「……そうかありがとう。これで色んな疑問が解決したよ」
彼は礼を述べたが、その顔からは何を考えているのかわからなかった。
ジョディは何か引っかかるものを感じて口を開こうとしたが、
「失礼。ジョディ、少しいいかね?」
ノックと共に上司のジェームズが入ってきた。
その神妙な顔つきに二人とも嫌な予感がする。
「私はお暇したほうがいいですか?」
「……いや、あなたの助言が必要かもしれないのでそのまま居てもらえませんか」
工藤優作の助言が必要なことといえば事件しかない。
やはり何かあったのだ。
「で? どうしたのですか?」
「うむ。その前にジョディ、水無怜奈を探す組織の手が緩められてたのに気付いていたかね?」
「……ええ。確証はありませんけど、そんな感じはしてました。諦めたと考えるには不自然ですね」
「私もそこが気にかかり、彼らが他に大きなことをしでかすのではないかと予測したのだ。また暗殺関係かもしれないと踏み、組織の動きを探っていたのだが驚くべきことがわかった」
「ターゲットがわかったということですね」
優作の言葉にジェームズはうなずく。
彼は冷や汗を一筋流した。
「彼らは今の日本の外務大臣の息子を数日前から監視していたのだよ。そして今日、その監視の人数が倍増した」
「なんですって!?」
現職の外務大臣の息子といえば若手の国会議員である。
その立場やカリスマを感じさせる演説で未来の首相とも目されている人物であった。
「詳しく調べると、どうやら彼は今日群馬県警本部長の娘と会う予定らしい。これはまだオフレコだがね」
「なるほど。確かターゲットの人物は既婚者。そしてその本部長のご息女も昨年結婚したばかりのはず。マスコミが飛びつきそうなスキャンダルですね」
「うむ。なぜそのような日に監視が増えたのかがよくわからないのだが……」
現場の写真を押さえて、それをネタに強請るくらいなら監視は増えないはず。
殺すにしても一人のときを狙ったほうがやりやすいはずだ。
それを何故、不倫現場で襲撃を計画するのかが不可解であった。
「恐らく、不倫現場で襲撃を実行し二人の関係を表に出させる狙いもあるのでしょう。普通、息子を襲撃された大臣というのは民衆の同情を集める。しかしその息子が不倫していたとしたら。今後の政治活動に支障が出ることは間違いないでしょう。将来の首相候補と現職の外務大臣の失墜。この二つが同時にできるというわけです」
「な、なるほど」
一を聞いて十を知る優作にジェームズは、さすがあのクールキッドの父親だと舌を巻く。
「なぜこの二人の権力者を狙わなければならないかはわかりませんが、今日がそのXデーだという可能性は非常に高い」
「では急いで仲間に連絡してその現場に向かわないと……!」
「場所はわかっている。夕方に六本木で会うようだ」
皆を呼び寄せて計画阻止のシナリオを作るべく、ジェームズは踵を返した。
そして思い出したようにこちらを振り返る。
「ミスター・工藤。助言感謝します。これからあなたはどうしますか? 私達はあなたを危険なところへ誘う権利は無い」
「いや、ここまで聞いたらご一緒させてもらいますよ。息子にも教えていいですか?」
「父親のあなたがそう言うのならいいでしょう。あの子には私達も色々助けられている。……いい息子さんですね」
「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟ですよ」
――もっと強くなってもらわないと。
優作は心の中でそう付け足した。
ジェームズと優作たちが現場へ向かうべく、地下の駐車場に行くと入り口からバイクのエンジン音がこちらに近づいてきた。
一人の青年の後ろには小さな子供が乗っている。
そのバイクは目の前に急ブレーキで止まった。
「父さん!」
「早かったな新一。そのバイクの子はもしかして……」
「あ、はじめまして。服部平次といいます」
ヘルメットを取り外して平次がおじぎをする。
「うちの子からよく話は聞いているよ。こんな愚息によくしてくれて本当にありがとう」
「いやこちらこそ……」
世界的推理小説家に礼をされて平次はあわてて恐縮する。
うわー本物の工藤優作やー、とか考えていそうな興奮気味の表情だ。
「こいつのは親切じゃなくて、おせっかいっていうんだよ」
ミーハーな平次に、何しにここ来たと思ってんだお前とツッコミを入れつつ父の言葉を訂正する。
平次に色々面倒を見てもらっていると思われるのが嫌らしい。
「なんやてお前? 今までこの平次兄ちゃんがどんだけお前に世話焼いてやったと思てんねん! 今かてこうやってわざわざバイクをご近所から借りてきてやなあ……」
「頼んでないし鬱陶しいし」
「あっ言いよったなお前!? そんな恩知らずにはこうじゃー!」
「うわっ何すんだよ!!」
脇の下をくすぐる平次とそれに怒るコナン。
今の状況には不似合いだったが、彼らの年齢だと似合っていた。
一方優作はそんな二人を珍しそうに見つめる。
息子がこうやって同年代の子と戯れるところを見たことが無かったからだ。
頃合を見図って、以前就いていた教師のようにジョディがパンパンと手を叩く。
「さあ、行くわよ二人とも。ここから少し遠いから今から行ってギリギリだわ」
「おお、そうやった。にしても久しぶりやな、ジョディ先生」
「ええ。あなたと共同線を張る日が来るとは思わなかったわ」
そのままFBIの面々は車にそれぞれ乗り、コナンは平次と、優作は一人でバイクに乗り目的地へと急行した。
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