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カウントダウン
作:yoshina



7


「ホンマの目的は情報収集やったけど、組織側に伝えた表向きの理由は昨夜言った通りや。
爺ちゃんの政敵を潰してもらう代わりに親父から警察の組織捜査に関する情報を横流しすることが、俺ら一族と組織の同盟の契約になっとった。それの連絡役として俺を推薦してもうたんや」


今まで平次の祖父と厚司の間に立つ仲介役は組織の人間がやっていた。
祖父側から仲介人を出すことは向こうから警戒心を引き出すことになりかねないので、それまで出来なかったのだが、孫を推薦すれば話は変わってくる。
警察の人間でもなく、ましてや孫である未成年の平次を出すことは相手への信頼感を示すことになる。
江戸時代以前にあった人質と同じような効果があるといっていい。

予想通り、「今度は組織側からではなく私の孫を連絡役として使ってもらいたい」という祖父の申し出は怪しまれることなくすんなりと受け入れられたのだった。
こちら側から仲介人を出すことによって今までよりも組織の情報は得やすくなった。


「厚司さんに初めて会うた時、ホンマびっくりしたわ。青白い死にかけの顔をしながら生きてるんやもんな。あの時はランダムな体調の内、比較的良好なほうやったしパソコン使わず自分でこっちと話したけどな」



――君が池波殿のお孫さんかい?

――……そうです。これからよろしゅう頼みます

――どうして君が仲介人になったのかな?君は私達の不手際のせいで
  悲惨な目に遭っただろうに。私が憎くないのかね?

――……あんたのせいでえらい目に遭うたけど、右目が治ったんもあんたのおかげや。
  やから、あんたが作る組織がどんなもんか興味が出てきたんです。

――なるほど。そうだ、君にも何か別の名前を考えないといけないね。
  希望はあるかい?

――別に俺はただの仲介人なんやさかい、いらんのとちゃいますか?
  コードネーム貰うほど偉くもないと思うんやけど



コードネームは組織の中でも上層部員にしか付けられていないと祖父から聞いていた。
祖父や父は、息子を組織にそこまで深入りさせるつもりは全く無かったし、ボスも未成年とはいえ警察官僚を父に持つ彼を完全に信頼するとは思っていなかった。
ただの連絡係だからこそ両親は平次の介入を許したのだ。

しかしそれは厚司の予想外の言葉によって大きく覆されてしまう。




――私は君を結構気に入ったのだがね。大黒殿のお孫さんにもラムという名が
  付いてるんだよ。それにアポトキシンを飲んで右目を復活させた人間という
  のは非常に妙味深い。……ただの連絡役にするには惜しい素材だ

――え?

――スピリタス。それが君のここでの名前だ。仲介役もしてもらうが、
  ついでに私の話し相手もしてくれないかい?





厚司が平次に世界最強の酒を名づけ、「お気に入り」とした時点で予定は狂ってしまった。
ここから彼はどんどん組織の中枢に埋め込まれていくのである。
より情報を得るため、抵抗もせずむしろ自分から進んで深みへとはまっていった感もあるが。


平次は厚司に会って、彼が本当の意味での悪の根源ではないと気付いた。
薬の開発だけを願っていたのに、ブレインという恐ろしい計画のせいで組織は犯罪に手を染めていったということは、祖父から前もって聞いている。
しかしそれを止められない厚司も大概悪いのだと思っていた。

それが会ってみて、彼に対する印象ががらりと変わった。

どんな状況に追い込まれていても、人間を救うアポトキシン開発という夢を追い続ける厚司を見て共感してしまったのだ。
組織を潰しても、彼の夢だけは何とか実現させたいと願うようにすら。
そんなことを考えているうちにいつの間にか側近にまで行き着いていた。


「こういうのを、情に絆されてしまったっていうんかなあ」


探偵失格やなと平次は苦笑する。


「実は、俺が側近やということは親は知らんねん。かなり中枢に入ってもうたことは知ってるけど、俺が厚司さんの考えに同調したのには気付いてへんやろな。面白い素材として捉えられてるとしか知らんのとちゃうやろか?」

「じゃあ俺を探しに東京に出てきたのはどう説明したんだ? ただの連絡係がボスの指示で工藤新一を探しに行くなんてごまかしきかないだろ?」

「親には、組織に殺されたかもしれん探偵を探しに行くと伝えてといたわ。もし生き延びていたら後々大事な証拠になるかもしれんってなあ」

「証拠?」

「和葉の親父さんが言ってたやろ? ”工藤新一・宮野明美殺害容疑で逮捕する”って」


SATが突入して遠山がジンに対して言い放った時、一瞬視線がこちらに向いたことを思い出した。
あれはどう見てもコナンが工藤新一だと知っている顔だった。
つまりジンが工藤に薬を飲ませたという事実をこの少年が証明できるということを意味していた。


「警察は反ボス派のジンをいつでも捕まえられるために、犯罪の証拠が欲しかったっていうことか」

「まあそのためにお前さんは適任やったんやな。親父さんには工藤を殺害されたことにしてもらうよう俺が頼んでおいたんや。裏切った厚司さんの娘が工藤の死亡記録を改ざんしたとやつらが気付いたら、お前がまだ生きてるかもしれんと思われるし。でもあそこで殺害と言ったらジンも工藤がホンマに死んでいて、他に生き証人がいると思い込むやろ?」


なるほどとコナンは頷く。
「江戸川コナン」はジンによって工藤新一が殺されかけ、宮野明美が殺されたことを証明することが出来る唯一の人間でなのだ。
いつでも準備が整い次第、警察が組織を潰そうとするのには証拠を前もって掴んでおく必要がある。
そのためにFBIは強行突破で組織のブレイン等の資料の奪取を狙ったのだが、警察はすでに江戸川コナンという証人をキープしていたということだ。



――そいつは絶対死なせたらあかん!! 何が何でも死なせたらあかんのや!!!



コナンを助けた平次が叫んだ台詞はこういうことだったのだ。
この少年は組織を潰すのに必要不可欠な証人であると。
だから遠山も敢えて「殺害」という言葉を使い、ジンに工藤=コナンの方程式を思いつかせないようにした。


「俺は江戸川コナンという証人を発見し、親父に伝えた。これで後は頃合を見計らって反ボス派を外側からじわじわと追い詰めることが出来たら潰すことができると」


そしてその時が来るまで彼はコナンを守り、組織に敵対する集団の監視を
続けようとしていたのである。
中途半端に組織を攻撃しては薬の流出が危ぶまれるし、かといって野放しにしておけば暗殺などで多数の犠牲者が出てしまう。

どっちに転んでも危険な事態を防ぐためにギリギリのラインで平次は役目を務めてきたのだ。

難題をやってのけた彼の功績は計り知れない。


「……いつも苦しい立場で辛かっただろ」

「そんなん考えたこと無いわ。俺は自分の目的のためにやったんやから」


でもコナンはそんな平次の努力に全く気付かなかったわけで、すまなさや情けなさで自分が恥かしくなる。
自分だけが窮地に立たされていると思い、彼がどんな心境なのかを知ろうともしなかった。

いつも彼は太陽みたいに笑っているからついその笑顔に甘えてきてしまったのだ。


それこそが罪。



「お前がそんなにがんばってきたなんて知らなかった。……気付くことができなくて本当に悪かった」


そう言って頭を下げた。
首が動かないので、視線だけを頭を下げたままのコナンに向けて、平次は困ったような顔を見せる。


「謝るのはこっちのほうやろ。組織を捕まえるためとはいえずっとお前をだましてきた。お前が必死になってジン達を追っているのを知っていながら何の情報も言ってやれんかった」



そして苦しそうな表情で、



「お前に許してもらおうなんて甘い考えは持ってへん。組織の情報はいくらでも流す。やけど、今までのような関係は無理して作ってもらわんでもええで」


はっとしてコナンが顔を上げた。













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