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カウントダウン
作:yoshina



6


「……ちょっと待て、まさかお前の親父さんはパンドラの存在を知っていたのか?」


しかし、そのような選択よりもコナンはそこにいたるまでの経緯の中のある事実に気付く。
静華の父、池波氏が組織と本当に繋がっていたということは平蔵もパンドラを知っていたことになる。
それにも関わらず今まで警察が動いた様子が無いところからすると、組織の犯罪を完全に黙認状態ではなかったのか。


「親父も知ってたし、俺も知っていたんや」

「!!」


警察官僚が黙認していたという事実が理解できないコナンに、彼は更に追い討ちをかけるように信じられない言葉を発する。


「お前、和葉の素性は聞いたか?」

「あ、ああ……ここに来る途中遠山刑事部長から聞かされたけど」

「なら和葉が初代の孫やということは知ってるわけやな。俺らが十歳の時和葉のオカン、まあ実際には育ての母親っていうんかな。そのおばちゃんが病気で亡くなったんや。その時和葉の出生について俺らにも話された。すると当然和葉の本当の両親が所属していた組織のことも言わなあかんやろ?」


なんと十歳の頃から平次と和葉はパンドラという犯罪組織を認識していたのだ。
とは言っても「とても大きな、警察でも適わんかもしれんほど危険な組織」としか教えられなかったが。
和葉の両親と平次の両親は子供が組織を知ろうとすることを禁止させる代わりに、最低限のことを教えたのだ。
この聡明な子供達はいつか組織の存在を知るかもしれない。
ならば、そうなる前に許容範囲で組織のことを知らせ警告させといたほうが安全だろうと。

そうして自分達の出る幕は無いと教えられてきた平次達は、そのまま何事も無く成長していったのである。


「親父らがパンドラを黙認状態にせなあかんかったのは、変に組織を突いて刺激せんように
するためや。構成員を数人捕まえたところで組織にはほとんど痛手はないし、かと言ってボスを捕まえたら内部に居る反ボス派の集団が暴走しかねん」

「組織は内部で分れていたのか?」

「ああ。ボスに従うグループと、ボスの考えに不満を持つグループに分れておったんや。ちなみにボス派は純粋にアポトキシンの開発を願う集団。そしてもう一方が”ブレイン”を開発しようとしていた集団や」

「ブレイン?」


――死んでも薬と”ブレイン”のデータだけは渡せられねえな


SATが突入してきた際ジンが呟いた言葉が蘇る。
確かにジンはアポトキシンとブレインという名のデータを死守しようとしていた。
アポトキシンはわかるがブレインの名は初耳だ。
前者と同じくらい重要だということは判断できるが。


「お前知ってるやろ? 組織がコンピュータープログラマーを集めてたんを。あれはアポトキシンのためではなくブレインの開発をするためやったんや」

「……俺はアポトキシンとプログラマーを何らかの形で合わせて組織が何かを仕出かそうとしていると思っていたけど、違ってたようだな」


コナンは想定外の事実にため息をつくしかない。
以前読んだプログラマー、板倉の日記には「我々は神であり悪魔でもある。なぜなら時の流れに逆らって死者を蘇らそうとしているのだから」と書いてあった。
この日記によって人間の体の時間軸を操作するアポトキシンがシステムソフトと関係があると踏んだのだ。
しかし薬とシステムソフトがどうやって繋がるのかと疑問に思わなかったことは無い。

今まで薬とプログラマーは同じ目的のために使われてきたのだと思い込んでいたが、平次の言葉を聞く限り別々の用で利用されたようだ。

これで二つのデータの関連性についての疑問も解決できる。


「反ボス派はアポトキシンの作用で起こる細胞破壊を脳内でのみ発生させ、人間をある意味植物人間にすることが目的やった。そしてその植物人間にブレインと呼ばれるチップを埋め込み好きなようにコントロールさせようとしたんや」

「そんなことが……!?」

「出来るしやろうとしているんや、ジン達は。あいつは周囲に表向き忠誠を誓っているように
見えさせてるが、ホンマは反ボス派の中心人物や。アポトキシンを人間の最善化のためではなく利用させるために使おうと思とる」


哀に宛てた手紙を読む限り、厚司が進めていたアポトキシンの開発は犯罪ではない。
ではなぜ警察やFBIはパンドラを犯罪組織と見なしているのか。


それはジン達が計画しているアポトキシンを利用したブレインの開発こそが犯罪だったからだ。


「厚司さんは人間を操るブレインというチップの開発を当然良しとはしなかった。でも、数年前あの人が薬の副作用で一時危篤状態になった隙に、反対勢力がチップを使う上で必要となるアポトキシンの現段階での効果を試すため裏社会に流出させたんや」

「本物のクリスが死んだのはそのせいか」

「事実はそうやな。つまり、ボスが居なくなれば開発途中の危険な薬が世界にばら撒かれてしまう可能性があるっちゅうわけや」

「だから警察は下っ端を捕まえることも、正体を知っているボスを逮捕することも
できないということか……」


反対勢力を潰さない限りパンドラは捕まえられないのだ。
しかしその反ボス派こそがジンを始め、危険人物が大勢居るわけであり。
下手にそちらを捕まえることも出来なかった。


「親父らは仕方がなかったんや。せめて組織の動きだけは把握しておこうと、爺ちゃんに頼んでパトロンを続けてもらってな、情報だけはかろうじて流れてきてたわ。……でもそれだけではあの人の殺害は止められんかった」





そうやって手をこまねいている内に片品は殺されてしまったのだ。




「もし片品さんが俺に組織のことを言うてたら助かったかもしれん。俺があの人にそれ以上関わったらあかんて警告できたんや。言ってくれなかったとしても、組織の情報をもっと持っていたら事件を未然に防げたかもしれんのや」


全ては何も知らなかった自分達のせい。

コナンは彼が少し自分を責めすぎだとは思ったが、それを否定することはできなかった。
平次が側にいた時点で片品の殺害を防ぐ可能性は確かにあったのだ。
例えそれが彼のせいではなかったとしても。



「病院で目が覚めて、そのことを知った俺は発狂したわ。あの人が死んだのは俺や警察の責任もあると思ったら、居ても立ってもおれんようになった。抑えるオカンを無視して部屋の物全部投げ壊して暴れまくった。泣いて泣いて親父らを罵倒しまくった」



――平次、もう止めて! これ以上暴れたらあんたの体が……!

――うるさいわ!! 片品さんを殺したんは俺や!!知っていたのに止められんかった
  俺らのせいや!!

――平次、少し落ち着けや! 彼の死はお前のせいやない!!

――黙れ!! 俺のために薬をもらえるぐらい組織と繋がりあったのに何も出来んかった
  あんたに言われたないわ!!




あそこまで親に対して感情を露にしたのは初めてだった。
皮肉にも、片品が死んだおかげで彼は親に自分の思いをぶちまけることになったのだ。



息子の叫びに何も反論できない平蔵と静華は、ただ黙って彼を抑えることしか選択の余地は無かった。
仕方が無いこととはいえ、組織を黙認してきた自分達のせいで片品は死んだのだから。



「だから俺はもっと組織の動きを把握するため爺ちゃんに頼んだんや。俺を爺ちゃんとボスの連絡を取り持つ仲介役に推薦してくれってなあ」



これ以上片品のような未然に防げる事件を見つけ出すため、平次は組織の構成員という道を選んだ。
非常に危険な選択とはいえ、生きる目的をそこに見出した彼をを止めれば再び狂ってしまうと予想した親はそれを止めることができなかった。

もちろん和葉も。






こんな悲しみを誰ももう味わいたくなかったから。





だからこそ平次は黒の中へと進んでいった。










コミックス37巻参照











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