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平次や和葉達が病院に運ばれてから数時間後。
平次が緊急手術を受けている間に優作がやってきた。
コナンは父親の突然の訪れに驚いたが、今まで何をしていたかを聞いて更に驚く。
まさか大阪に行って平次の父親に会っていたとは。
しかも自分よりも早く彼が組織の人間だと気づいた上で。
父親たちが何を話し合ったのかはわからなかったが、平蔵や静華ももうすぐ来るということだけは教えられた。
一緒に東京までヘリで来て、優作は直行で病院へ。
服部夫妻は一旦警察に寄ってからここに来るらしい。
すぐにでも息子に会いたかっただろうに。
しかしそれは立場上できないことだった。
「ところで平次君の容態は?」
「まだわからねえ。輸血の最中だっていうのは聞いたけど、一酸化炭素も結構吸い込んでた
らしい。助かるかどうかわからないほど重体だってことだけは確かだよ」
コナンは苦しそうに俯く。
崩壊する研究所の外で皆に体を抑えられながら彼を叫び続けてたら、遠山達が彼と和葉を担いで出てきたのを思い出す。
二人とも意識はもう無くぐったりしていて、急いで病院に運ばれた。
「和葉君もかい?」
「ああ。でも彼女は少し一酸化炭素を吸っただけだから、すぐに意識を取り戻すだろうって医者は言ってたよ。今は病室で寝ている」
「そうか……。で、お前はどうなんだ?」
「俺?」
予期せぬ質問に何のことかと問い返す。
そんな息子に優作は厳しい顔つきを変えぬまま再び問い直した。
「平次君がよしんば回復したとして、話す機会が来たらお前はちゃんと接することができるか?」
平次が怪しいと気付いた時、真っ先に思い浮かんだのは息子だった。
あまり人と親しくならない息子が珍しく心を許した人物。
会ったことはなかったが、幽霊船事件で一足早く対面した妻、有希子は彼のことを「とても友達思いで良い子」と評していた。
そんな彼が本当に息子を裏切っていたとしたら。
今まで人と関わりを持つことを無意識なのか意図的なのか、とにかく避けてきたからこそ、そんな事態になれば息子は酷く傷つくだろうと父は心配したのである。
一昨日の議員暗殺事件で息子を呼ぼうと決めた時、もっとあの子には強くなってもらわないと、と願った裏にはそういう思いがあったわけだ。
「お前も混乱しているかもしれないが、恐らく平次君も心が不安定なはずだ。お前が彼が黒だと知ったときのような悲しみが彼にも以前あった。組織の本部が崩壊した今、彼がまた同じような感情を呼び起こさないとは限らない」
「……! 父さん、あいつの過去を知っているのか!?」
彼のことをよく知っているような口ぶりにコナンは驚く。
「少しだけ平蔵氏に教えてもらっただけだよ。だから、お前も取り乱していたら彼も立ち直れないだろう? お前がしっかりと心を強くし、接することが出来たらあの子も安心すると私は思うよ」
そこで優作は初めて笑みを見せた。
息子にもっとリラックスしてもらおうとでも言うように。
父親の笑顔はコナンを励ましたが、当の本人は自分以上に平次のことを知っていた目の前の男に少しだけショックを受けた。
平次に初めて会った父親がすぐに正体を見破り、彼の本質を問うたのに対して、自分は長い付き合いの中で一度も彼を本当の意味で見ようとはしなかったのだ。
銃を突きつけられて吐き捨てるように言われた言葉が再び蘇る。
「お前が何も聞かなかったからだ」と。
あの言葉にはもしかしたら、「初見の父親がわかってなんでいつも会ってる息子のお前がわからへんのや」という平次のやるせなさみたいなものがあったかもしれない。
彼の今までの幾多の好意に甘えて自分からは何もしようとしなかったことに、情けなさと怒りを覚える。
しかしそれに対しては研究所で隠れた際哀にも聞かせたある決意で、償おうと思っていた。
そのある決意とは、
――平次のことをもっと知る。
本当の彼を知って、出来る限り彼を理解したかった。
それが何も知ろうとしなかった自分に出来る唯一の償い。
そこまで考えてからコナンはいつものような強い光を目に宿し父親を見上げた。
「俺はいつでもあいつを受け入れるつもりだぜ。俺はあいつを憎んでなんかいない。あいつが何を言っても絶対に逃げたりしない」
彼の決意は優作にどう映ったのであろうか。
ただ、優作はそんな強い意志に少しだけ目を開いた後目元を緩めた。
――思っていたよりも新一は強くなっていたようだ
自分が心配するほどヤワではないらしい。
そう思いふっと笑ったとき、視線が何となく右を捉えあることに気付いた。
「ならいい。あとは本人に聞いてみても大丈夫だろう。……手術は終わったみたいだからね」
優作の視線の先をコナンも思わず見る。
「手術中」と書かれたランプがいつのまにか消えていた。
彼がそれに気付いたと同時にドアが開かれ、マスクを取り外す医師が中から汗だくで出てくる。
「先生! 服部はどうだったんだ!?」
慌ててコナンは駆け寄る。
子供の必死の質問に医師は少し驚いた様子だったが、次に腰を屈め視線を同じにするとにっこりと笑いかけた。
「もう大丈夫だよ。首の怪我も幸い頚動脈まではぎりぎり達していなかったから、命は取り留めた。輸血をしたから後は病室で休ませて回復するのを待つといい」
「……そうですか……」
明らかにほっとした表情を見せる子供の頭をぽんぽんと叩いて、医師はその場を去っていった。
暫くして平次も運ばれながら出てきてそのまま和葉と同じ病室に入ることになる。
これは遠山たっての希望であった。
色々な報告や事後処理でバタバタしていた彼だったが、娘達を研究所で発見してそれぞれを担ぎ出そうとした時、彼女が意識が霞む中言ったのを思い出したのだ。
――平次を一人にさせんといて
どうやっても彼から離れようとしない娘を遠山は「大丈夫やから。安心せえ」と優しく説得し、なんとか二人を引き剥がして運び出したのである。
だからせめて眠る部屋だけでも一緒に、というのが父親としてできるせめてもの
ことだった。
二人が眠る部屋になんとなく入ることを遠慮したコナンは外でずっと平次が目を覚ますのを待った。
そして約一時間後。
看護師から彼が意識を戻したとの報告が入ってきた。
麻酔を打っていたにも関わらず、この目覚めの早さ。
ずっと前、初めて平次がコナンに「お前工藤やろ」と聞いたのも、そういえば麻酔が切れたのが原因だった。
もしかしたら彼はアポトキシンの副作用か何かで麻酔に耐性があるのかもしれない。
一方優作のほうを向いて平次の意識回復を教えてくれた看護師は、そのまま小さな少年のほうに視線を変えてこう伝えた。
「彼がボウヤを呼んでるみたいよ。まだ意識を取り戻したばかりだから、少ししか話す時間は作れないけど、会う?」
コナンの心臓が思わず心拍を早くさせる。
裏切りと助けという矛盾した行動を取った彼と初めて会うのだ。
コナンは神妙な面持ちで頷くと、看護師は「隣で寝ている女の子はまだ寝ているから静かに入ってね」と言い少年を病室のドアに促した。
椅子から立ち上がって目の前の扉を見上げる。
ごくりと唾を飲み込むと、側から優作に肩を叩かれた。
はっとして見上げた先で優作は「がんばってこい」と激励する。
その言葉に頷くと、コナンはゆっくりとドアノブを回して消毒液の匂いが充満した部屋へと入っていった。
気分は何となく、RPGでラスボスに会うような感じだった。
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