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その後、和葉と平次は階段付近で歩いているところを遠山に発見された。
彼は「ここで平次君を死なせたら平蔵に合わせる顔が無い」と言って、命がけで探していたようだが、見つけた時自分の娘も一緒にいて非常に驚いたようだった。
当然のことではあるのだが。
そして事態が事態だったので聞きたいことは後回しにして、他のSATのメンバーと急いで二人を担ぎ外に出ることになんとか成功した。
出た途端建物が全壊したのを見て、そこにいた全員が「誰かがこの子達を生かしたんだ」と
思ったらしい。
一方二人はそのまま弱めの一酸化炭素中毒と平次は怪我も伴って、気を失い救急車で運ばれていった。
もちろんコナンも平次に付きっ切りで。
コナンは中から担ぎ出された彼を見て腰が抜けそうになるほど安心したそうだ。
博士も親友の頼みを間接的にではあるが、どうにか叶えられて安堵の表情を浮かべていた。
コナンと共に脱出した哀の方はというと、赤井の側にいたらしい。
子供二人を抱えて火の海を渡った赤井も外に出てすぐ崩れるように倒れたのだ。
その後すぐに立ち上がったが、一酸化炭素の摂取と肋骨の骨折がかなりきついようで、近くの木の下で座っている。
救急隊員が彼に応急処置をしようとしたのだが、「後でいい」という彼の拒否でそれは行われていない。
全てを見届けてから自分のことをしたいらしい。
そんな赤井の側で哀はなぜか心配そうに見つめていた。
平次がコナンを放り投げた際言い放った「あんたの望みは恋人の敵討ちか、それで恋人の妹が死んでもいいのか」という言葉に思い当たる節があったのだろう。
しかし赤井と哀は何も話そうとはしなかった。
ただ黙って二人で木の下にいるだけ。
それだけで二人は十分だったのかもしれない。
研究所があった場所は既にその原形を留めていなかった。
建物に先ほどまでいた人間達は、その地へ戻ってくることはもう無いだろう。
救急車のサイレンが辺りに響き渡っていた。
闇夜に浮かぶひとつの大きな火の終焉とは少し離れた小高い丘から眺める人物が数人。
静けさが辺りを覆っている。
業火の狂宴と同じ世界だとは思えないほどに。
黒服で夜の空気に完全に溶け込みそうだ。
双眼鏡を顔からおろして男が後ろにいる長身の金髪に向かって言った。
「……兄貴、どうやら建物は今全壊したようですぜ。あれでデータは奪取できなかったでしょう」
男は何も答えず朱色の風景を見つめている。
暗くてその表情はうかがうことは出来ない。
そんな彼の態度に背後にコルンと共にいたキャンティが、やれやれといった感じでため息をついた。
そして。
「……言っとくけど、”ソレ”はSATで足止め食らったアタイ達のせいじゃなくて、しぶとく地下に居続けたあんたのせいだからね」
その言葉にジンは見下ろしていた視線を元に戻し鼻で笑った。
「フン、別に一本や二本どうってことないさ。利き腕でも無えしな。これはスピリタスへの借りにしておいたらいい話だ」
何がおかしいのか、彼はそのまま笑い続けた。
右から血をほとばしり続けながら。
彼の右腕は肘から下がばっさり切り落とされていたからだ。
平次の首を掻き切ろうとした時、彼が側に落としていた銃剣を握ってナイフを持ったジンの右腕を切断したのである。
流石にうめき声を上げ左手で右を押さえた瞬間、平次は走って逃げてしまっている。
ジンはその後来たウォッカに切られた右腕を拾ってもらい、隠し通路から脱出した。
彼の今の笑いはそんな自分の油断に対する滑稽さからだったのか、それともまた別の何かがあったのか。
どうでもいいとばかりにキャンティはウォッカに問いかけた。
「で、これからどこに行ったらいいわけ? ボスのところかい?」
こうなった以上もう日本には居られないだろう。
「ああ。たった今ボスはチャーター機を乗り継いで海外へ脱出したそうだ。まとめて同じところに行くのはまずいから落ち着くまで中国辺りにでも行った方がいいかもしれねえな。……そうですよね? 兄貴」
右腕を大事に布で包んで抱えているウォッカは恐る恐る彼に聞いた。
すると今度はちゃんと答えが返ってくる。
「とりあえずはそこでいいだろう。……ブレインの開発を遅らせたSATやFBIは絶対に許さねえ。中国から後方指示を出し日本での後始末が終わり次第、イギリスに行って体勢を整えることにするさ」
「へえーイギリスねえ。ボスの妻の故郷じゃないか」
面白そうに彼女が言った。
自分達のボス、宮野厚司が愛したエレーナの生まれ故郷だ。
「じゃあボスはもうそっちに向かったってことかい?」
「そういうことだ。ロンドンには我々パンドラの支部もある。医療施設も整えてあるから身を隠すには好都合だ。それに……」
彼が一旦言葉を切る。
「それに、何ですかい?」
「いや、なんでもねえ」
――まだあの方に死んでもらうわけにはいかないからな
声には出さず、心の中でそう呟くとジンははるか彼方の異国の地を眺めるかのように紅蓮の炎を今ひとたび見た。
今まで自分が死ぬ思いで築き上げてきた何かがそこで、全て崩れ去ってしまったような感覚だった。
彼の見つめる朱色は夜明けへの知らせだったのかもしれない。
後編/完
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