31
「平次!! 平次!!!」
「かずは……!?」
奈落の底から引っ張り上げられるように意識を取り戻した平次は、必死で自分の名を呼ぶ和葉を見て驚く。
朦朧とする意識の中、今の状況に理解が出来ない。
こんなところに彼女がいるはずがないと。
「……よかった、また会えて」
涙を浮かべて安堵の表情を見せる彼女を呆然と見つめる。
一瞬ここがどこなのか忘れてしまいそうになるくらい驚いたのだ。
そしてだんだんクリアになる頭を回転し始めると、彼女の至る所に火傷や擦り傷があるのに気付いて思わず叫んだ。
「アホか!! なんで来たんや!!!」
声を上げた瞬間首の深い傷が痛みを走らせたが、そんなことは関係ない。
一方、壁にもたれて座っている自分の側で膝をつき彼女は怯むことなく言い返す。
「平次がこんなところにいるからやろ!! お守りまで落としてるし……私がこれ見つけんかったら平次見つけられんかったんやで!?」
そう言って彼の黒い携帯、もといそれについたお守りを目の前で見せ付けた。
これを厚司の部屋に通じる廊下で発見したから彼女は来れたのだ。
しかしそれで彼が納得するはずも無く。
「それでお前も死んだら元も子も無いやろ!! はよ逃げろや!!」
周りは既に火の海だ。
しかも部屋自体も既に半壊の域に来ている。
状況を把握してきた彼は焦って怒鳴りつけた。
このままでは彼女も自分と一緒に死んでしまうではないか。
「平次と一緒やなかったら嫌や! あんた連れて上まで行く!」
「我侭言うな! 俺血出過ぎてもう足に感覚無いんやで!? 行けるはずないわ!」
頭に血が上って傷の痛みは半ば麻痺していたが、大出血による体の限界はすぐそこまで来ていた。
いくら介助してもらっても、二人でこの崩壊する建物から脱出できるとは到底思えない。
いつもならこんな状況でも諦めない彼がもう生きる意志が無いことに彼女は驚き、意識を確かに持つよう発破をかける。
「あかんて決め付けるなんて平次らしくないで! ほら、肩貸すしはよ立ちーな!」
あくまでも彼と一緒ではないとここを出るつもりは無いようだ。
血だらけの肩に腕を回し立ち上がらせようとする。
今まで父親や自分が「しないでほしい」と言ったことには必ず頷いてきた彼女が、ここにきて始めて無理やり医意思を貫こうとしてきた。
そんな思わぬ行動に彼は戸惑いを覚える。
そして次に、なぜかだんだん苛立ち始めた。
もうここで全てが終わっていいと思ったのに。
さっき聞こえたあのわらべ唄だけでもう十分だと思ったのに。
なんであの唄を歌った彼女がここで一緒に、自分と業火に包まれなければならないのか。
彼女はここにいるべき女性ではない。
彼女はもっと光のある場所にいるべきだ。
自分を闇から引き上げてくれたように、ずっとあの場所にいてほしかったのに。
どうして。
どうして。
どれだけ引っ張っても中々立ち上がろうとせず俯いたままの平次に、和葉は叱咤するように呼びかけようとした。
しかしそれは彼の震えるような声で制止される。
「なんで……なんでお前は……っ」
「え?」
そしてがばっと顔を上げて彼女に向かって怒鳴りつけた。
「お前は俺と一緒に過去にいるべき奴やないやろ!? お前は親の夢を継いで未来に生きなあかん奴やろ!!」
今まで聞いたことの無いような悲痛な声で彼は叫ぶ。
涙は無いが、泣いているような声だった。
恐らく、これが彼の本心。
過去に執着する自分と、親の研究していた薬を完成させたいと願った彼女では
望むものがあまりにも反対すぎると思ったのだ。
しかし、そんな彼の本当の思いに彼女は詰まることは無かった。
紅い業火が二人を追い詰めていく。
「……そら私は本当のお母さんとお父さんの夢を叶えたいよ。でも、でもな、」
――そんなことよりも……
その代わり彼女も自分の本当の心の内を彼にぶつけた。
「私はずっと平次とこれからを生きたいの!!!」
|