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コナン達が去った医療室では、遠山達が構成員をやむなく仕留めていた。
自分達の目的の一つは倒すことではなく、”アポトキシン”と”ブレイン”のデータの押収。
しかし、それもジンの最後の抵抗により達成されない可能性が出てきている。
ではもう一つの目的のほうはどうなのか。
遠山は激戦の最中その目的を非常に気にしていたが、イヤホンに別行動の隊員からそれに関した報告が入る。
「隊長!平次君が部屋にいません!!」
「外には出てへんのか!?」
予定外の事態に思わず声が裏返りそうになった。
「そのような連絡は来ておりません! 恐らくまだ地下にはいるかと……!」
連絡を受けた時あれほどその場から動くなと言ったはずなのに。
このままでは地下の崩壊に巻き込まれてしまうではないか。
「とりあえず3班は何としてでも平次君を探し出せ! あの子はこの国に必要な子や!!」
「はっ!」
命令を出して引き続き構成員との銃撃戦に戻る。
しかし彼の思考はここではなく少年に向かっていた。
これまで異見を唱えなかった彼が、この場に来て初めて自分達の指示とは違う行動を取ったのだ。
しかもこのような緊急事態に。
「まさかあの子……」
遠山の頭に何かとてつもなく嫌な予感がよぎった。
頭上から塊のコンクリートが降るのを何とか寸でで避けながら、コナン達は走り続ける。
先頭を行く赤井は走るたびに痛みが襲う肋骨の骨折に若干顔を歪めていた。
そんな彼に後ろの二人は小さな足を最大限に使って食らいつく。
「大丈夫か、赤井さん」
「俺のことより自分のことを気にしろ! 一瞬でも気を抜けば瓦礫の下敷きになるぞ」
三人が頭上に神経を集中させて十字路を右に曲がった時、背後から声が飛び込んできた。
「いたぞ! 撃ち殺せ!!」
残党の構成員が彼らを見つけ後方から迫ってきたのだ。
「しつこいやつらだ……! 気にせず走れ!!」
いちいち相手をしていれば、こちらが地下の崩落に巻き込まれてしまう。
少しくらい撃たれるの承知で出口へ向かったほうが安全なのは確実だ。
赤井の呼びかけに応じて、立ち止まりかけたコナンと哀もそのままの全速力で走り続けた。
一方追いかける構成員数名は、発見した時点の距離が割かし離れていたことと、瓦礫の落下を避けながらの追跡のため中々近づくことが出来ない。
そんな状況で追跡者の一人が仲間に命令する。
「残党を見つけたとジン様に連絡しろ!」
「了解!」
背後でそのようなやりとりがされてるとは気がつかず三人はひたすら走った。
立ち止まったが最後、命は無い。
落下する天井の破片であちこちにかすり傷をつけながらコナンは考える。
SATの突入、工藤新一・宮野明美の殺害容疑、パンドラという組織の名称、ジンの言った”ブレイン”、宮野姉妹と銀の弾丸――
これまでの経緯で自分の知らない事実がいくつも出てきた。
ここを出れば遠山は話してくれるようだが、平次のことも教えてくれるのだろうか。
SATがここに襲撃するには誰かからの連絡があったとしか思えない。
部隊の隊長が遠山だったことからすると推測できる人物は一人だけ。
――とにかくあいつに確かめねえとな……!
「もうすぐ階段だ!急げ!!」
地上への希望を叫んだ赤井の言葉に、コナンの思考はそこでストップした。
その一瞬だけ、気が緩んだのがいけなかった。
「!?」
今まで避けてきたコンクリートの塊がついに彼の目の前に落ちてきたのだ。
「くそっ!」
「工藤君!!」
油断したコナンはそれを避けて走ることができず、止まってしまう。
哀が叫んだがそれも間に合わず、そのままどんどんコナンと二人の間に瓦礫が降ってくる。
天井の板が全て落ちた時点でそこの落下は収まったが、瓦礫の山はコナンのいる地下の廊下と赤井達が足を踏み入れた階段の狭間で高く積まれた。
砂埃が辺りを覆う。
「階段寸前でか……おい! そこからよじ登れるか!?」
可能性は薄いと思いつつ赤井は数段階段を登ったところから見下ろして、かろうじて見えるコナンに向かって叫ぶ。
早くしないと追っ手が来てしまう。
危機的状況でコナンは目の前に出来た壁を見上げて眉をしかめた。
だがここで「登れない」と言えば、赤井はともかく哀は立ち止まったままで彼を待つだろう。
「すぐは無理だが何とかする! あんたは早く灰原を連れて脱出してくれ!!」
「何言ってるのよ工藤君!! 後ろには追っ手が来ているのよ!? 登っているうちに背中から撃たれるわよ!!!」
彼の提示した行動は自殺行為に等しい。
悲鳴にも近い叫び声を哀が出す。
最も望ましくない結果がその後に控えているからだ。
「そんなところにいたらお前も死んじまうだろーが! それに俺は……」
そんな彼女に向かって、彼は心にも無い「大丈夫」を言おうとしたその時だった。
いきなり自分の首根っこが強い力でつかまれる。
後ろを振り返る余裕が無いほど首が一瞬つまる。
だがすぐに体が宙を舞い、視界が180度回転した。
「うぉわっ!?」
いきなり上方に投げ飛ばされたコナンは赤井によって受け止められた。
「何ぼさっとしとんねん!! はよ行けや!!!」
声の先には、なんと平次がいた。
コナンがたった今までいた廊下から彼らを見上げ叫ぶ。
右肩の傷は止血がしてあるが、滲み出る赤が痛々しい。
「服部!?」
話したいと願っていた相手が目の前に現われて彼は驚愕する。
しかも殺そうとした自分を今助けたのだ。
赤井も突然の彼の矛盾した行動に戸惑いを隠せない。
「お前、一体どういうつもりで……」
一向に進まない彼らに苛立って彼は更に叫ぶ。
「はよ行け言うてんねん!! そいつは絶対死なせたらあかん!! 何が何でも死なせたらあかんのや!!!」
その言葉は先ほどの対峙からは信じられないものだったが、嘘のようには到底思えなかった。
「お前もこっちに来い! お前ならすぐに登れるだろ!!」
赤井も彼の本当の心を確信して呼びかける。
――この少年は決して悪ではない
なぜならコナンの生を望んでいるから。
だが平次はその正義への誘いに応じることは無く、
「もうすぐジンがここへ来る! その二人をあの男に見せるわけにはいかへんやろ!」
「なら俺も応戦する!」
「あんたの望みは恋人の敵討ちか!? それで恋人の妹が死んでもええんか!?」
自分が応戦するならコナンも去りはしないだろう。
それに連なるようにして哀も逃げないのは明白だ。
そんな彼の指摘に、赤井は反論できず詰まってしまった。
「俺が今から戻って足止めするし、あんたは二人の存在を組織にばれんよう連れていけ!!」
「なっ!」
その言葉にコナンの血の気がさっと一気に引く。
いつ崩壊すると知れぬ地下でジンと対峙する、それはつまり……
「ふざけんじゃねえぞ服部!! お前このまま死ぬ気かよ!?」
平次はコナンの問いかけに答えることなく踵を返して来た道を戻ろうとした。
コナンの叫びは絶叫に近い形で続いていく。
「言うだけ言って逃げるのかよ!! 俺はまだ全然言い足りてねーんだ!!」
彼の後を追って戻らぬよう体を赤井の腕で捕まえられながらもがきまくる。
「何も聞いてないから、これからもっとお前と話がしたかったんだ!! 俺を殺そうとしたり生かそうとしたりするお前をもっと知りたかったんだ!!」
悲痛な願いが届いたのだろうか。
何も聞いていない、という言葉に去ろうとした平次の体がぴたりと止まった。
それを見て三人は一瞬ほっとしたが、すぐにそれは消し去られることになる。
彼はこちらを振り向いた。
とてもとても穏やかな顔で。
しかしその顔は、何を言ってもそちらへは行かない、とでも告げるかのようにも見えて。
「……お前は姉ちゃんが待っとるやろ。生きて元の体に戻って会いにいったれや。それと……」
――堪忍、な
その言葉にコナンの頭が沸騰したかのように熱くなった。
重傷を負いながら彼を捕まえ続ける赤井のことなど気にせず、手足を思い切りばたつかせる。
「離せ! 俺はあいつのところに行かなくちゃならねえんだ!!」
「あいつの思いを無駄にするな!」
既に彼の覚悟を汲み取った赤井はコナンを宥めかす。
そんな彼らを見届けて平次は再び背中を見せると、そのまま走り去ってしまった。
もう、彼は振り向かない。
どんな声も届かないことに目頭が熱くなるのを彼は感じる。
普段は言うはずの無い、自分の本心が自然と口に出た。
「……俺は……っ俺はなあ!!!!
蘭とお前が待ってなかったら元に戻る意味無えんだよ!!!!」
初めて言った思いと共に、新一の目から涙が零れ落ちた。
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