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カウントダウン
作:yoshina



3


無人の宮野家が全焼して明くる日、焼け跡から1人の若い男の焼死体が見つかった。

死因は「自殺」。


家の側から箱に入った遺書が発見されたのだ。
その遺書には「生きることに疲れた。ゆっくりと時間の流れる、この家が気に入ったので
共に逝きたいと思います」と書いてあった。
筆跡は死んだ男のものだったし、最近ずっと引きこもりがちで重度の鬱病だったのも
確認されていたので自殺で間違いないと警察は言っていた。


ではなぜこの家でないといけなかったのだろうか。


男が所有していたパソコンから、運営していた彼のブログをたどったところ
一昨日付けで自殺するにふさわしい場所を探しているという内容の日記が見つかっている。
そしてそこに1通の返信があったことも。


「あなたの住んでいる家の近くにとても雰囲気のある古びた無人の一軒家があります。
そこは田舎ならではの穏やかな時間が流れており、疲れた心を癒すには最適です。
さあ、ゆっくり休んでいきなさいな」


一見自殺を止めるかのようなコメントである。
しかし、本当に自殺願望のある人間が見たらどうであろうか。
警察から発見時の様子を事情聴取されているコナンは人知れず歯軋りをした。


恐らく、この男のブログに返信したのは黒ずくめの奴らの仲間だと
考えていいだろう。
自殺する前、男は自宅から火の気のあるものを持ち出していなかった。
そして宮野家へ行く途中でライターなどを買う目撃証言もなかった。
つまり、無人の宮野家に火の気になるようなものが置いてあった可能性もあるのだ。


自殺したがっていた男が誰もいない寂れた日本家屋に入り、目の前にライターが置いてあったとしたら……

心を癒す前にその命を消すほうが先なのは、それこそ火を見るより明らかだ。




家が全焼したおかげで何の手がかりもないままこの鳥取行きは終わった。
強いて成果をあげるとすれば、哀が持っている宮野厚司の作文くらいか。
どうやら彼女の父親は昔から薬品関係の仕事につきたかったのはその文章から見て取れた。


「どうやって私達の行動を先読みしたかはわからないけど、これでまた振出しに戻るわね」

「ああ……本当にいつもいつも、あと一歩のところで手がかりが消えるんだな」


二人の正体を知っているのなら、行動を先読みすることも可能だろう。
しかしそれならとっくの前に自分達は殺されているはずだ。

もっと他に、自分達が気付かない何か別の方法があるのか。


コナンは様々な考えをめぐらせていた。







三人が東京に帰ってきた頃にはすでにあたりは暗くなっていた。
ほとんど手がかりがなかったため、コナンと哀はいつも以上に無口で
博士は必死に場を盛り上げようと一人でしゃべりまくっている。


「そうじゃ、今日は新一君もワシの家に来るじゃろ?
何か出前でも取るかのう! 哀くんはどうじゃ?」

「……ええ,別にいいわよ。今日はもうどうせ寝るだけにしようと思ってたし
二人でどうぞ」

「あ、いや、そうじゃなくて哀くんもだね……」


二人が意思疎通のままらなぬ会話をしている側でコナンはずっと先ほどの
疑問を考えていた。
正体がばれないのに、行動がばれる理由とは一体何なのか。
考えれば考えるほど頭が雁字搦めになりそうで、ぐしゃぐしゃと後頭部を掻く。
この疑問はあまり深く考えるべきではないと自分の中の何かが言っているような
気がするのだ。
考えるべきことは他にもたくさんあるはずだとも。
家に戻ったら、もう一回今までのことをまとめようと思い直した。


「おや? 君の家の前に誰かいるようだぞ」


哀との会話にあたふたしていた博士が工藤家の表札近くに佇む人影を見つける。
街灯でうっすらとしかわからないがそれは……


「父さん!?」


思いもかけない人物を見つけ、コナンが声を上げた。


「やあ、久しぶりだな新一。少しこっちで調べたいことがあるからかえって来たよ」


立っていたのは彼の父、工藤優作だった。
彼は推理小説家として世界を飛び回っていたが、
大きなスーツケースがその長い海外生活を示しているようである。


「調べたいものって? 仕事か?」

「まあ、そんなところだな」


いやー久しぶりの日本はやっぱりいいねえ! と優作は爽やかに笑う。
爽やかすぎて却って怪しいと息子は思っていたが。
旧友の博士が前に歩み出る。


「優作君、久しぶりじゃのう」

「これはこれは阿笠博士。お久しぶりです。おや、この子はもしかして例の
「哀ちゃん」かい?」


博士の隣にいる少女に気をとめる。


「おおそうじゃった。紹介するのを忘れてたわい。この子が今うちで預かっている
灰原哀くんじゃ」


優作は腰をかがめ目線を哀と同じにする。
そしてにっこり笑って「はじめましてお嬢さん、新一の父で工藤優作と申します」
と手を差し出した。
そのキザっぽくて、でも違和感の無い仕草に、
ああやっぱり工藤君はお母さんよりこの人に似てるんだわと彼女は心の中で感じる。


「……はじめまして」


珍しく何のためらいもなく自然に握手した手は、予想通り暖かかった。
大きくて暖かい、ほっとするような温度。
自分のお父さんもこんな手をしていたのだろうかと哀はふと思った。



さあ、ついにあの男がやって来ました。











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