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カウントダウン
作:yoshina



20


「そういえば、戦うのが目的やないって言うとったな……」


自分以外誰も居ない廃墟と化した部屋で平次はポリポリと頬を掻いた。
しまった、というような仕草だ。

つい熱くなりすぎて、彼が逃走という手段を選ぶとは思いつかなかったのだ。

追いかける気は無いのか、ため息を一つついた。
そして赤井とやり合う前も辺りを見回す振りをして確かめた時計を再び見る。
銃撃戦で台の上にあった時計は床に落ち、針がとまっていた。
仕方なく自分のポケットから携帯を取り出す。


19時20分。



「まだそんだけしか経ってへんのかいな……」


脱力したかのように壁に背中をもたれかけ、そのままずるずると床に腰を降ろした。
右肩の血が壁に跡をつける。
しかし銃剣だけは手離さない。
携帯を右手でズボンのポケットに突っこんだ。
ストラップ代わりにつけていた幼馴染からのお守りが入りきらずにぶらりと垂れた。


厚司はもうこの周辺からは脱出しているだろう。
今日は体調が悪いほうだったのでその辺が気がかりだったが、
ベルモットが一緒にいるから最悪の事態は免れると信じている。


ぼうっとしながら、時計ではなく今度は本当に辺りを見回した。
弾丸で穴を空けたベッドの羽毛から出た白い羽が床に散らばっている。

何気なくその一枚を血まみれの右手で取った。


純白が紅色に染まる。




左手には銃を、右手には鮮血の羽を。




「……まあ、ええか」



その羽から白を完全に無くすように強く握り締めた。














三人は必死に地下を走っていた。
閃光弾を使うや否や、赤井は二人の首根っこを掴んで部屋を脱出したのである。
彼も負傷しているため、今はコナンも哀も自力で走っているのだが。

どこからか銃声が聞こえてくるが、こちらの廊下にはだれもいない。
ボスの部屋にいたときは外でFBIと構成員がやりあっていた。
しかし脱出する際は廊下まで光った閃光弾のおかげで全員の動きが止まった。
その隙に構成員達の間を通り抜けて逃げたのだ。


「なあ、服部をあのまま放っておいていいのかよ!」


息継ぎをしながらコナンが前を走る赤井に問いかける。


「俺達の目的は戦うことじゃないと言っただろう。資料の奪取は仲間に任せて、お前達を外に出さなくてはならないしな」


暗にここへ哀と来たことを批難しているようだ。
まあ、こちらが悪かったのは重々承知しているが。

哀はポケットに父からの手紙を入れて落とさないよう気をつけながら走っていた。
自分の感覚がにぶったせいなのか、以前感じたような組織の匂いは今は無い。

しかしなぜこの男から組織特有の空気を感じたのだろうかと疑問に思う。
反対に、平次からは鈍る前から匂いを感じ取れなかったのかも謎だ。


そんな彼女の考えを知らない赤井は更に言葉を続けた。


「それにあの少年は人を殺したことがあるようだ」

「――!?ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」


思いもよらない発言にコナンは怒鳴りつける。
あの平次が人を殺したことがあるとはどうしても思えないし、思いたくない。


「普通、一般人が銃を撃つときは躊躇うものだ。人を殺すという恐怖が己を襲う。だがあの少年は一切迷いが無かった。俺もそうだが、引き金を引く行為に恐れが無い証拠だ」

「そんなのあんたの想像だろ!」

「じゃあお前は人を殺すかもしれない引き金を躊躇せず引くことが出来るか?」

「!」



思わず言葉が詰まる。
誰かを守るために銃を撃つことに躊躇いは無いが、殺すとなれば話は別だ。
守るためであれ殺人は絶対にできない。

しかし先ほどの平次はどうだっただろう?


後ろを見ないがコナンの様子を背中で感じ取った彼はそのまま言った。


「だから閃光弾で隙をついて逃走した。本当はあの部屋のパソコンのデータが欲しかったが
殺しの経験のある少年を前にして、相打ちを覚悟しないかぎりそれはできないと判断したのさ」


あの年で人を殺すというのは一体どういう経緯なんだと赤井は不可解さを感じた。


世界最強の酒・スピリタスの名を貰い受けひたすら戦い続けた少年。

自分の後ろで走る少年のことも考えると、それは少し哀れに思えた。



「赤井さん! 前!!」


その時哀が叫んだ。
はっとして現実に戻ると、遠くから構成員がやってくるのが見えた。
一旦立ち止まって後ろを振り返ると横に別の廊下がある。


「お前等はあの廊下から行け!!」

「赤井さんは!?」

「俺はあいつらを引き止めておく! お前等を組織の奴等に見せるわけには行かない」

「わかった!」


うなずいてコナンは哀の手を掴んで来た道を逆走し始めた。
曲がり角から左の廊下に入ると、幸い誰もいなかった。
頭に叩き込んでおいたこの地下の見取りを思い出す。
そして、この廊下がその見取りに含まれていなかったことに気付いた。


「このままどこへ行くの!?」


彼女もそれを気付いたようで、引っ張られながら慌てて言う。


「知るか! でも組織に俺達の顔を見られるわけにはいかねーだろ!」


とにかく誰もいない場所まで行かないと、と空き部屋を走りながら探す。
前方を見ると扉を一つ見つけた。


――誰もいないか確かめてあそこに入るか


そう決めて、その扉の前で急ブレーキをかける。
二人とも息は上がっていた。


「ここに入るの?」

「確認してからな」


開けるのに一瞬躊躇ったが、ここで立ち止まるわけには行かない。
いつ構成員が来るかわからないのだ。

覚悟を決めてゆっくりとドアノブをまわす。
部屋の中は蛍光灯が一つあるが、電源が入っていないようで薄暗い。
人が立っているようには見えなかった。


「誰もいないのか……?」


ほっとしながら二人で恐る恐る中に入る。
暗くてよくわからなかったが、何やら薬品の匂いが鼻をついた。
ふと見上げると薬品の入った棚がいくつか置いてある。


どうやらここは医療室らしい。


「っ!?」


哀が何気なくそばにあったカーテンを引いて、危うく悲鳴を上げかけた。


人が寝ていたのだ。



「大丈夫、意識はないようだ」


焦ってコナンが確認すると、ベッドに眠る男は酸素マスクをつけて眠っていた。
側の機器には電源が入っているらしい。
機器の緑色の光がうっすらと男の顔を映し出している。


「こいつは……!」


コナンはこの男の顔に見覚えがあった。
昨日の国会議員襲撃事件で逃走した構成員の一人だ。
それも、赤井が発砲し腹部を撃たれた相手である。

この男に発砲した弾に発信機がついてあったからFBIは組織のアジトがわかったのだ。

昨日の撃たれ方からすると、目の前の男は重症だろう。
しかしいつ目が覚めるともわからない人間のいる部屋に留まるのは危険だ。


「他を当たってみよう」

「そうね」


ここは諦めて再びドアノブに手をかけようとした瞬間、外で何かが大きく崩れる音がする。
床が縦方向に数回揺れた。


「何だ!?」


急いで扉を開けると、進もうとしてた道に大きな瓦礫の壁ができていた。
完全に廊下をふさいでいる。


彼の背後から彼女も覗き込んでその様子を見た。


「どうして……」

「多分、上で爆発がもう一回あったんだ。ジョディ先生達が仲間が地下にいるのに、また爆弾を仕掛けることはないだろうから、組織の奴等がやったんだろうな」


前方をふさいだ瓦礫の山を目にしてそのまま立ちすくんだが、後方からいつ敵がやってくるかわからない。
逆走なんてもってのほかだ。
赤井と戦っている構成員がいる。



仕方なく二人は負傷した構成員が眠る医療室に潜むことになった。







余談ですが、銃剣とはこういうものです。↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%83%E5%89%A3
平次にぴったりだと思ってこれにしました。











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