14
哀に追いついたコナンが真っ暗な一階を見渡すと、そこには銃撃戦の跡と思われる破片や血が飛び散っていた。
さながら戦争のような光景だ。
いや、これも戦争といえるのかもしれないが。
地下から大きな音と振動が上まで伝わってきていて、激しい攻防が繰り広げられているのがわかった。
ボスのところとはいえ、丸腰の自分達が今地下に進んだら瞬殺されるのがオチだろう。
どうやって進んだものかとコナンが思案していると、哀がある壁際にしゃがんで、隅にはめてあった通気構の鉄製の格子に手をかけた。
「お前、この場所の見取り知ってるのか?」
「多分ね。この研究所の中だけは何かの機会で写真を見たことがあったの。外観は見てなかったから、入ってみないとどの場所をあの写真が示していたのかわからなかったのよ。でも、ここに来て思い出したわ。この通気構から潜り込んで進めば誰にも会うことなくボスの部屋まで直結していける」
その蓋の向こうには暗く細い空間が広がっている。
子供でないと入れない大きさだ。
確かにここを通れば誰にも見つからない。
「なるほどな。で、ボスのいる部屋もわかるのか?」
「進んでいって行き止まりの右側だと思うわ。他の部屋の中は写真に写ってたけど、そこだけは何も中が写っていなかったから……」
側に落ちていた小石で床に大体の地図を描く。
一階は正面にあるホールより向こうが入り組んでいるが、地下のほうは意外とシンプルな造りらしい。
コナンはその地図を頭に刻み込んだ。
「よし、じゃあ行くか」
「ええ」
二人は共に時計型ライトのボタンを押し、身を屈め真っ暗な穴の中に入っていく。
コナンのほうが先である。
湿気った匂いが鼻についた。
この通気構は地下の天井部分の上に配置されてるみたいで、時折自分の真下で銃声がする。
しかし彼らは止まることなくそのまま進んでいった。
FBIにはFBIの目的が、そして彼らには彼らの目的がある。
ここで違うものに気を取られてはいけないのだ。
匍匐前進の要領で進み始めて数十分後。
二人の腕の力が流石に限界に近づいてきた頃、行き止まりの壁が見えてきた。
通気構はそこから左右に分かれている。
「ここの右側だから……こっちか」
右のほうに首を向けると、部屋からの光が差し込んでいる格子があった。
ゆっくり進み中をのぞく。
誰もいないようだった。
しかしそれはコナンも予測済みである。
FBIが突入してきたのだから、ボスが真っ先に逃げた可能性が高いと踏んでいた。
ここに構成員が大勢居るはずはないし、統括者がするべきことは唯一つ。
逃げるだけだ。
FBIの目的は犯罪の証拠となる資料やデータの入手だったので、ボスが逃げることは承知の上だったのである。
そして、だからこそ哀がボスの部屋に行くことをコナンも許したのだ。
誰もいない部屋に行くなら大丈夫だろうと。
「誰もいないな。行くぞ灰原」
「ええ」
彼はキック力増幅シューズを使い、格子を部屋に向かって強く蹴り降ろした。
けたたましい音と共に格子が外れ、床に落ちる。
銃声のおかげでその音は目立たない。
首だけを出して部屋の中を確認する。
さほど床との距離が開いていなかったので、二人は思い切って飛び降りた。
足を地につけると、数十分一定の姿勢のままだったため凝り固まった体に開放感が訪れる。
そのまま部屋の中を見回すと、辺りを灯すランプは床に割れた状態で放置されていた。
外側は割れたが、中のランプは無事だったようで未だ部屋を薄暗く照らしている。
大きなベッドの両脇には椅子があり、側の台にコーヒーカップが二つ置いてあった。
「冷え切ってるけど、まだ中身が残ってるな。急いでこの部屋を出たってわけか」
カップの一つを手に取り中を確認する。
ベッドの毛布が半分裏返っていることから、
病弱なボスがここから出て行ったことを示していた。
ここには少なくとも二、三人はいたようだ。
ここでどうするつもりなのかとコナンが哀のほうを見ると、彼女はベッドの近くにあったパソコンのデスクの前で佇んでいる。
「灰原?」
彼女はデスクの上に置いてある「白い物」を凝視したまま動かなかった。
「一体何を見つけ……」
彼女に近づいて、自分もその「白い物」を見た。
そしてはっとする。
手紙だった。
横書きの真っ白な封筒がそこにあった。
表向いた封筒にはあて先人の名前が書いてある。
――『志保へ』
哀は震える手でその封筒を手に取った。
影になってわからないが、差出人の名もちゃんと記してある。
彼女はこの名を予想していたのだろうか?
この自分宛の手紙の差出人を。
この名が示すものはただ一つ。
この部屋の主、その人だ。
彼女はゆっくりと封筒を裏返した。
床に落ちたランプがその名を照らす。
――『宮野厚司』
歪んだ字で、その名前は書いてあった。
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