13
哀がいつの間にかいなくなっていることに気付いたコナンは、急いで運転席のジェイムズに伝える。
彼もその想定外の出来事に愕然とした。
なぜ、そしてどこに、というのは言葉にしなくても咄嗟に二人の頭の中に浮かぶ。
「……この場で消えたとしたら、向かう先は一つと考えていいかね」
「ああ。どういうつもりかわからないけど、そう考えて間違いない。今からアイツを追いかけるよ」
焦った表情でコナンがドアを開けようとする。
急がなければ手遅れになる可能性もあるのだ。
しかし、ジェイムズはそんな彼を呼び止める。
「待て! あそこはとても危険だ。行くなら私が……!」
もし彼女が普通の少女であれば、FBIの上官がわざわざ行くことは無いだろう。
目的達成に支障を来すような行動は絶対取らないはずだ。
それで彼女が死んだとしても、だ。
しかし彼女は普通の少女ではなかった。
ベルモットがこれまで行ってきた犯罪を証明できる唯一の証人だ。
数少ない手がかりをここで逃すわけには行かない。
自分の代わりはいても、あの少女の代わりはいないのだ。
「ダメだ! ジェイムズさんはここにいて皆に指示を出すという一番重要な役目がある。でも俺はここにいる以上に、灰原を追いかけるほうが役割としては大事だ。大丈夫、捕まえたらすぐ戻ってくるさ」
コナンのほうが正論である。
ジェイムズは苦渋の表情でうなずいた。
「……わかったよ。では気をつけて」
「ああ!」
コナンは車を飛び出し研究所へと向かった。
銃撃が鳴り響く、あの場所へ。
哀はひたすら走っていた。
あの男のいるところへ。
自分は行かなければならない。
――それが私の責任……!
生い茂る庭を通り過ぎ、正面入り口へと辿り着く。
爆破したおかげで入り口は大きく穴が開いていた。
研究所の一階には、もはや誰も居ない。
足元から銃声が響いてくるのがわかった。
構成員もFBIも、全員地下にいるのだろう。
息切れした体を再び持ち上げて中に入ろうする。
だが、その瞬間急に後ろから強い力で腕が引っ張られた。
「何やってんだ灰原!!」
「工藤君……」
彼女以上に息の切れたコナンが肩を大きく上下に揺らしている。
全力疾走したらしい。
彼はすごい剣幕で彼女を怒鳴りつける。
「お前一体何のつもりなんだ! 死ぬ気か!?」
「……違うわよ」
捕まれた腕を振り払った。
そして彼の視線と真っ向から向き合う。
「逃げてばかりじゃ勝てないからよ。私はあそこへ行かなくちゃならないの」
そう言う哀の脳裏にはあの小さな、自分とは違う本当の意味での少女が映った。
大事な大事な友人の姿が。
「……待機することは逃げじゃない。俺達がこれから先に進むために必要なことなんだ」
彼は、彼女が罪悪感からここへ来たのだろうと思っていた。
組織の犯罪に間接的とはいえ加担したことを償いたくて、居ても立ってもいられず車を飛び出したのだろうと。
だが彼女の本当の理由は違っていた。
「私はあなたと違ってあそこへ行かないと前には進めないわ。これから先に進むためにも、この行動は必要なものなのよ」
だから、お願い。
哀は頭を下げた。
今までの彼女からは考えられないことだ。
コナンはその嘆願を少し驚いた顔で見つめていた。
まだ彼女は頭を上げない。
その無言に音を上げたのは、彼だった。
「……しゃーねえな。その代わり、俺もついていくぜ」
ため息混じりに問いかけてくるコナンに哀はぱっと顔を上げた。
「何がしたいのかわからないが、死にに行くんじゃねえってことはわかった。オメー、どこに行きたいんだ。我武者羅に突っこむわけでもないんだろ」
彼女は安堵した表情を見せた。
しかし目的は言い辛いのか、すぐに俯いて迷う素振りをする。
地面を少しだけ見つめて、覚悟を決めたように顔を上げた。
「ボスのところよ」
「何だって?」
彼女は背を向けていた入り口に再び体を向けた。
「どうしても確認したいことがあるの。それが出来ない限り私の魂はここから離れられない」
そう言うと突然中へ走り出した。
「お、おい待てよ!!」
コナンも慌てて彼女の後を追いかける。
その後ろで、入り口の大きな穴を支えていた柱が乾いた音を立てて崩れていった。
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