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車内からは外の音は入ってこないが、無線越しに潜入した彼らの様子が聞こえてくる。
不意打ちは組織の裏をついたようで、今のところ死亡者は出ていないようだ。
「This is group B! Nothing is found in the first floor!!」
(こちらB!一階には何も見当たりません!!)
「Roger. Just sneak into a basement」
(了解。そのまま地下へ潜入せよ)
無線機でジェイムズは冷静に指示を出す。
コナンもこの辺の地図を見ながらその様子を聞いていた。
思ったとおり、一階には何も無いようだ。
組織の奴らは地下に潜伏しているらしい。
せめて地下の見取り図があればもっと動きが取れるのにと思ったが、仕方が無い。
手当たり次第部屋を調べていくしかないようだ。
敵の数は未だ不明。
三十人で突入しても、相手が倍以上いれば達成率は限りなく低くなる。
しかし、それに関してはあまり心配しなくても大丈夫だろうとコナンは踏んでいる。
この研究所の敷地面積や、地下にしか人がいないことを考慮すればそこまでの人数がいるとは思えない。
恐らく構成員は通常離れ離れにどこかに潜んでいて、何か話し合うときだけここに来るのではないかと予想していた。
――ここに誰かが普段から住んでいるとすれば、ボスとその身辺警護をする奴らくらいだ
絶好の条件に、彼はデータ入手の期待を膨らませていた。
「What's the matter!? All right!?」
(どうした!?大丈夫か!?)
突然ジェイムズが叫んだので、驚いて前を見る。
無線に向かって何かを早口で話していた。
「どうしたの!?」
「地下に入った途端反撃が来たらしい。やはり地下にはどうやっても進ませたくないようだ」
つまりそれは、地下に目的の物がある可能性が非常に高いということだ。
ボスももしかしたら地下にいるかもしれない。
その可能性はありえるかと哀に聞こうとして横を振り向く。
そして目を見開いた。
自分の目に写ったのは、空になった革張りの座席だけ。
「灰原……!?」
今一瞬前を向いた隙に、彼女は側からいなくなっていた。
朱色の夕日がそろそろ黒に変わり始めるころ、和葉は博士の自宅の前に来ていた。
蘭はいない。
恐らく小五郎と一緒にいるであろう英理から電話があったためだ。
「一緒に夕食を食べよう」と。
もしかしたら復縁の話を持ち出すのかと蘭は喜んだが、今日は和葉がいる。
一緒に行くこともどこか変だし、かと言って一人で事務所に居させて置くのも躊躇われた。
小五郎は和葉が平次と一緒にいるから、娘を呼び出しても大丈夫だと思ったに違いない。
母からの電話を側で聞いていた彼女は、迷っている蘭の背中を押した。
「私なら大丈夫やって! もうすぐ平次も帰ってくるし!! それに、この余った中華まん、温かい内にまた博士の家に持っていってあげようと思ってんねん。今から私も出るし、蘭ちゃんもはよ行ってあげ!」
平次がすぐ帰ってくるというのは嘘だったが、博士の家に持っていくのは本当だった。
「こんな機会絶対逃したらあかんよ!」と、半ば強引に彼女を送り出した。
対して蘭は、そんな和葉の気遣いに感謝して急いで両親の元へ向かったのである。
そして今、彼女に言ったとおり和葉は博士の家の前にいた。
他にすることも無いし、あの哀ちゃんとがんばって打ち解けてみようかとも考えていたのだが
何やら人気が無い。
昨日来た時の様に明かりがついていなかった。
「嘘やん……もしかして博士達もどっか行ってんの?」
まさか一人でこのまま夜まで過ごす羽目になるのだろうかと、ため息をついて門に体をもたれかけた。
すると、ぐらりと背中が後ろに傾きかけて慌てて立ち上がった。
門の鍵が開いていたのだ。
自分の背中で押した時に門が開いたらしい。
「不用心やなあ。もしかして、中にいはるんやろか?」
念のためインターホンを鳴らす。
しかし誰も応答しない。
――まさか泥棒!?
思わぬ展開にうろたえたが、しばらく考えた後、門を手で押し開けて入っていく。
中の様子を見て泥棒が確認できたら通報したら良いし、何事も無く博士や哀がいればそれに越したことは無い。
幸い自分には合気道もある。
慎重に行けば大丈夫だろうと、やはり鍵のかかっていなかった玄関のドアを開けた。
首だけを恐る恐る出して中の様子を見回してみる。
見たところ誰も辺りにはいないようだ。
ごくりと唾を飲んでゆっくりと家の中に入っていく。
「……やっぱり、誰もおらへんなあ」
もしかしたら地下かもしれないと思い階段へ向かおうとした。
が、その時デスクに置いてあったパソコンの電源が入っていることに気付く。
不思議に思い、画面を覗き込むと突然メールを知らせるウィンドウが開いた。
「え、何なん?」
彼女の戸惑いを他所に、そのメールは何故か自動的に中身が開かれた。
勝手に見てはいけないと思う間もなく目の前に文が飛び込んでくる。
メールに書いてあった文はたった一行。
『もう駄目だ。あの子だけでも救い出してやってくれ、阿笠。 パイカル』
――パイカル!?
その名を知る和葉は息が止まるかと思うほど心臓が跳ね上がった。
このパイカルがメールを出した相手の阿笠はやはり自分の予想していた
通りの人物なのか?
そして「あの子」とはまさか……!?
あまりの衝撃に一瞬頭が真っ白になる。
「か、和葉君!? いつのまに!?」
背後からメールの受信者の驚いた声がした。
はっとして振り向くと、博士がおたおたしながら近づいてくるのが見える。
やはり地下にいてインターホンが聞こえなかったようだ。
「こっこれは……!!もしや見たのかね!?」
画面のメールを確認した彼は焦って和葉に問いかけた。
しかし彼女は謝ることなく、逆に彼に詰め寄る。
口が震えて思うように声に出せない。
「なあ、これどういうことなん? 何かあったんやろ、あの人に」
「――っ!? 知っておるのか!! 君は一体……!?」
思わぬ言葉に博士は更に驚く。
「お願いがあるわ。……アタシをあそこまで連れて行って」
「それはならん!!」
強い口調で拒否を示す。
彼女の正体は見当つかないが、連れて行くことだけは絶対にいけないとわかっていた。
「メールに載ってるあの子って平次やろ!? 何か大変なことが起こったんやろ組織に!!」
思わず彼の白衣の襟を掴んで揺さぶる。
パイカルの言う「あの子」が平次を指すことを博士は知らなかったが、組織に何が起こったかは知っていた。
FBIの、強行突破。
それによって今組織が危険な状態になっていることはわかっている。
しかしそれを目の前の少女に言うわけにはいかない。
「ワシは何も知らんのじゃよ! 君も深入りしてはならん!!」
「白を切らんといて!! あんた、あの人の親友やった人やろ? あの人が組織に入ったとき一緒に誘われたけど断った人なんやろ!? こんなメールもらっといて行かへんつもりなんか!?」
誰も知らないはずの事実を口に出され、彼の強い口調がぴたりと止んだ。
衝撃的なことを立て続けに言われて、彼も思考があやふやになっているのかもしれない。
「……それでもワシは、そこには行けん」
その途端、バンという大きな音が辺りに響き渡った。
和葉が壁を叩いた音だ。
「まだわからへんの!? あの人が気に入っているベルモットと、あの人がアタシに名付けたラムをあわせたらアガサっていうお酒になるんやで!! なんであの人がアタシ達にそんな名前付けたかわからへんことないやろ!!」
「!!まさか君は……っ」
一瞬頭をよぎった考えに、彼は口を大きく開けることしか出来なかった。
こんなことがありえるのか?
だが、彼女の正体はそうとしか考えられない。
「救い出してって頼まれたんなら、はよアタシを組織のアジトに連れて行って!! それにあの人はあんたのことをずっと待ち望んでいたんや!!」
全てを包む空は既に黒く染まりつつあった。
世界を血に染める太陽の断末魔は、もう聞こえない。
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