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次の日の土曜、コナンと哀、そして博士は鳥取の地にいた。
早くから出たため夜型の哀は眠そうだったが、睡眠不足なのはそれだけではないだろう。
自分の父親の生家に行くのである。
昨日の夜から緊張していたに違いない。
「やっと着いたのう」
「ああ。ここからは気を引き締めていかないとな」
新幹線で鳥取に着いた三人はそこから電車とバスを乗り継ぎ、
倉吉でも人里少ない地域へ行く。
高木刑事によると、宮野家は数十年前に誰もいなくなったそうだ。
蒸発ではなく、転勤だそうである。
宮野家の近辺は過疎化が進み人口も随分減ったが、何人かお年寄りがまだ
住んでいるから何か知っているかもしれないと聞いていた。
「ここが、お父さんの生まれた場所……」
「多分、な。宮野という名前で誰もいない家は他にもあったけど、一番
怪しかったのはこの場所だ」
コナンは降車したバス停で地図を開く。
それには、事前に聞いておいた宮野家が存在した頃から住んでいる老人宅に
印がつけてあった。
その老人宅は宮野家よりもバス停手前にあるのでそこから先に行くことにするのだ。
老人宅を目指すが田舎だけあって、家と家の距離が長い。
子供2人は元気なものだが博士にとっては重労働である。
大きな尻を子供二人に押されながら整備されていない道路を歩いた。
やっとのことで目的地に辿り着くと、博士がインターホンを押し
来訪を告げる。
出てきた老婆は優しそうな女性で、汗だくだくの博士と小さな子供を見て、
「どうぞあがってくださいな」と言ってくれた。
「どうもすみません、いきなりお邪魔しまして……」
出されたお茶を一気飲みした後博士がまず謝る。
コナンと哀もそろって頭を下げる。
しかしちゃぶ台をはさんで座っている女性は嫌な顔一つせず柔らかい笑顔を見せた。
元気そうだがもう九十才を越えているだろうか。
「いえいえ、ここに村以外の人が来るのは随分久しくてねえ。
こんな可愛い子に会えるなら大歓迎ですよ。それで、ご用件というのは?」
老化で開け切れなくなった目をなるたけ大きく見せながら女性は問うた。
聞かれた三人の身が引き締まる。
そして博士が口を開こうとしたが、先にコナンが切り出した。
「おばあさんの家の近所に宮野さんって家あったでしょ? そこの人について聞きたいんだ。
このおじいさんとそこの家のお父さんの共通の知り合いが亡くなったから、連絡を取りたいんだけど居場所がわからなくて……だから何かわかるかもしれないと思ってここに来たの」
知りたいのは宮野家の父ではなくその息子の「厚司」についてだが。
いつものことながらよく回る口ね、と哀は心の中で感心する。
「ああ、宮野さんね。もうあの人たちがここを出てどれだけ経ったのかしら……
そういえばあそこの厚司君はいい子だったわあ。とても優しい子で」
「おとっ……厚司さんを知っているの?」
コナンの側から急に哀が身を乗り出した。
思わずお父さんと言いかけたが、それはなんとか押しとどめる。
「ええ。昔はよく遊びに来てくれたからねえ。今どうしているのかしら。
知っているの?――って聞いてもそういえばあなた達はそれを聞きに来たんだったわね」
今宮野さんがどうしているのかはわからないわ、と申し訳無さそうに女性は答える。
「……いいえ。ありがとうございました」
それに対して哀は少し残念そうな顔をしたががぺこりと礼をした。
その彼女の落胆を感じとったのか、女性は「でも昔のことなら話せるわよ」と
色々話を聞かせ始めてくれた。
哀は感情を表に出すまいとしているが興味津々なのは端から見ても明らかだ。
博士も関心を持って聞いていた。
しかしコナンは傍らで聞きながら他のことを考える。
今につながる手がかりが無いようならば、残る宮野家にしか望みは無い。
何もない可能性のほうが高いが、家具などから指紋くらいなら採取できる。
それを使えば色々わかることもあるはずだ、と頭の中で思いをめぐらせていた。
「そうそう、厚司君がくれた作文が物置に仕舞ってある筈よ。ご覧になる?」
その言葉に彼は急いで現実に頭を戻し行儀良い返事を返す。
「うん! お願いします!」
女性から作文を預かった後三人は宮野家へと足を進めた。
後で郵送か何かで返還する、と約束をして。
当の作文は最初に手渡された哀が歩きながら真剣に読み込んでいる。
この作文は敬老の日に、学校で女性宛に書いたものだそうだ。
おばあさんこれからも長生きしてください、とかそういうのが書いてあるのだろうと
コナンは大体の予想をつけた。
「長居してしまったのう。もうすぐ夕方じゃ。山の向こうが赤い」
博士は視線を遠くに向けてため息をつく。
確かに、田舎だけあってカラスや色んな鳥の鳴き声があちらこちらで聞こえ始めている。
紅い夕日が辺りを朱色に染め始めていた。
暗くなる前に行かなければ、とコナンは博士に合わせて宮野家のある方向を眺めたが
突然その先にある異変に気付く。
――嘘だろ……っ!?
いきなり顔つき変わり彼が叫んだ。
「いや、夕日だけじゃねえ!! 麓に火が見えるぞ!!」
「ええ!?」
二人も奥のほうを凝視すると、夕日の色ではない赤色が目に見えた。
あの方向にあるのは宮野家だけである。
三人が走って行くと予想通り地図にあった宮野家が紅蓮の炎に包まれていた。
火の手は完全に回っていて、手遅れなのは明らかだった。
「……博士、消防署に連絡を」
「う、うむ!」
博士がぎりぎり圏内だった携帯で消防車を呼ぶ傍ら、哀は手にしていた作文の端を
握り締めた。
「お父さん……」
炎の風にあおられ紙が手からひらひらとたなびく。
――将来は、おばあさんのように元気な人がたくさん居られるような薬を作りたいです――
たなびく紙から、志保の父・宮野厚司が書いた作文の最後が揺れていた。
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