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カウントダウン
作:yoshina



11


 男の高級そうな靴の廊下を歩く乾いた音がゆっくりと鳴る。
鉄筋コンクリートで囲まれた地下では足音が良く響いた。


ジンはある部屋の前に立つと帽子を取りノックを3回した。


「Come on in!」(お入り!)


高飛車な女王のような声が中から呼びかけてくる。
彼はそんな高慢な英語に少しだけ眉間に皺を寄せたが、すぐにいつもの鉄仮面のような無表情に戻りドアを開けた。


「なんや、珍しいな。アンタが連日来るなんて」

「フン。その言葉、そのままお前に返すぜ」


中にいたのはこの研究所の主で組織の統括者、「パイカル」とそのお気に入りのベルモット、そして同じく気に入られ側近となっているスピリタス。
この無機質な建物には不似合いなくらい優雅に女と少年はコーヒーを飲んでいた。
二人がそれぞれ座っているチェアの側にはパイカルが横になっているベッドがある。


特に重用されている二人が同時に部屋にいることは珍しい。

両脇に控えられてさぞかしボスは機嫌がいいだろうとジンは思った。


「で、何の用なの?」


カップを横の机においてベルモットが問う。
ボスの代わりに口頭で伝えるのが彼女達の役目でもある。
二人がいないときは、ベッドの側にあるパソコンでそのまま伝えていた。


「キールの件で一応ボスにご報告しておこうと思ってな」

「キールのか?」


興味を示したようにスピリタスが身を乗り出す。


「俺がこの前伝えた情報を伝手にしたんか?」

「まあ、そうだな」


キールが以前殺害した”鼠”がカンパニー、つまりCIA絡みだったとコナンを介して知った彼は組織に警戒をするよう呼びかけてあった。
そしてその情報を元にジンは部下に調査を命令していたのだ。


「やはりあの鼠はカンパニーだったようだ。FBI以上に調査が困難したが間違いない」

「……まさかとは思ったけど、本当にこの日本まで来るとはね」


ベルモットも神妙な面持ちで敵の行動を思い巡らす。


「なら、あんまり目立った行動は当分せんほうが身の為やろうな。昨日の暗殺事件かて止められたし。大きな組織二つに挟まれたらこの支部くらいすぐに潰されるわ」


流石に全滅はせんやろうけどな、とスピリタスは面白そうに笑みを浮かべて言った。
だが対するジンはそんな彼に向かって厳しい視線を送る。


「随分逃げ腰だな、スピリタス。お前はそこまで弱気な奴だったか?」

「そんなんとちゃう。慎重やと言って欲しいわ」


あくまでも笑みは崩さず挑むような目で言い返した。
少しだけ、そこに間ができる。

ベルモットはそんな二人を興味深そうに眺めていたが、



――ソノクライニ、シテオイタラ、ドウダ




かすかな息の音に三人がはっとしてボスのほうを見る。
すぐさまパソコンの画面に文字が浮かんできた。


『スピリタスの言うとおり、暗殺は暫く止めておこう。しかしFBIとCIAの動きは
続けて調査しろ。薬に関してはもう少し待て』




「Yes, boss」

「りょーかい」


ベルモットとスピリタスは即答する。
ジンも不満そうだったが結局は同意した。


「わかりました。では早速偵察部隊に知らせを……」


深々とボスにお辞儀をしその場を去ろうとした。


が、その時。








ドォンッ!





「な、何なの!?」



突然地鳴りのような大きな音と共に床が揺さぶられる。
台に備え付けてあったランプがぐらりと床に落ちて割れた。


「これは地震やないなっ!」

「そうだな。……何かの爆音だ」






急いでベルモットはボスの安否を気遣い、ジンはドアを開ける。
そしてスピリタスはパソコンから内部の監視カメラを映し出した。



「――っ!!」



カメラに映った、正面入り口にいる集団を見て思わず息を飲む。




「FBIか」


背後から画面を確認したジンが呟いた。
最悪な状況なのにその顔は笑っている。
楽しみにしていたものがやっと姿を現したかのような不適な笑みだ。



「ついに来たようやな」



服部平次も冷や汗を掻きつつ口の端を右に上げた。





――この場にいる以上、もう言い訳はできひんな







すぐそこに迫った運命を目の前にして彼の心は誰にもわからなかった。


ちらりと彼に視線を向けた、ボスを除いて。













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