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都心から数時間のところにある閑静な郊外。
点々と大きな建物が建てられているその土地には住宅というものがあまりなかった。
研究所や会館、工場等の都心ではなくてもあまり関係ない施設がポツリポツリとあるだけだ。
そのほとんどはもう使われていないものだったが。
そしてそこに例外なく外観は無人にしか見えないコンクリートで建てられた、一階建ての研究所がある。
ぱっと見はわからないが、この建物は地下が何層もあった。
一階に人が見られないため、地下に潜んでいると考えられる。
鉄製で錆だらけの横開き式の門には南京錠が掛けられていた。
そこからすぐには研究所は見えない。
広大な敷地内にも大きな木が生い茂っているので、中の様子を門外から見ることは不可能だった。
夕方ということもあり、烏の鳴き声くらいしか音らしいものはない。
「なるほどな。ここなら誰が出入りしても怪しまれないわけか」
「そういうこと。車で入ってもどこかの若者が遊びに来ているとしか思えないでしょうしね。他の無人建物もたまに深夜若者が出入りしているらしいから、組織の拠点もそう思われているみたいよ」
研究所から数キロ離れた同じく無人の工場にコナン達は潜んでいた。
赤井は工場外の敷地に停めた車内にいて、この場にはいない。
無線でこの場の会話を聞いているらしい。
哀はコナンの隣に控えていたが博士はその場にいなかった。
二人が、家にとどまるよう説得したためだ。
「何かあったとき、蘭たちへのフォローを頼めるのは博士しかいない」と言って。
博士は長く渋っていたが最終的には二人の願い通り家にいることになった。
FBIの面々、およそ30人弱は一見普段着に見えるが中は防弾やら防刃やらのチョッキやベルトを着込んでいる。
ヘルメットはしていないため頭を狙われたら御仕舞いだが、そこは既に覚悟済みだ。
「ではもう一度計画をおさらいしようか。まず始めにグループA。君達は南の外壁から飛び越え一階の南方入り口へ潜入、すぐ側にある通路を左へ進んでくれ。Bは東から一階の東方入り口、入って右側の地下へ続く階段へ。そしてCは中央門から正面突破だ。……特にCには気をつけてもらいたい」
車のボンネットの上に地図を広げジェイムズが指揮を出す。
ちなみにBには赤井、Cにはジョディが配属されている。
ジェイムズが言ったとおり正面突破するグループCは危険度が高かった。
はっきり言えばCは囮である。
ジョディ達は力強くうなずいた。
手に持った銃を握り締める。
それを見届けたジェイムズはそのまま自分の左を見下ろした。
「そして、君達。君達には私と共に研究所の外壁側で車内から中の報告を待つことになるが、いいかね?」
「ああ、わかったよ」
「ええ」
素直に二人は応じる。
一緒に突入することはどう見ても出来ないのだ。
それくらい彼らも自覚している。
車内から計画のサポートをすることが彼らにできる唯一のことだった。
ジェイムズは視線を彼らから戻して辺りを見回す。
「あと、これが一番大事なことだ。私達の目的はあくまでも彼らの犯してきた犯罪の証拠を手に入れること。構成員を倒すことではない。先ほど指示した場所まで行き、データや資料を奪うことを最優先してもらいたい。無理やり突破することには違いないが、それでも入手不可能だと判断すれば即座に引き返してきてくれ」
言外に、「死に急ぐな」と伝えている。
一同はもう一度、更に強くうなずいた。
その後すぐに彼らは解散し自分の指定地へと向かう準備をし始める。
ジョディも愛車・ジャガーの運転席で弾の確認をしていると
ドアを開けて後部座席から哀が入ってきた。
コナンは離れた場所でジェイムズと話しているようだった。
ミラーで彼女を確認したジョディは振り向かず、銃の安全装置に手をかけながら声を掛ける。
「What's your problem?」(どうしたの?)
「一つ、聞きたいことがあるの」
いつもの抑揚のない口調でミラー越しに問いかけた。
「ボスのこと、どれくらい知ってるの?」
「……そうね。日本人で病弱。そしてまだ若いかもしれないってことかしら」
カチリ、と安全装置が外れる音がする。
「今のボスが二代目だと知っていたのね」
「ええ。だって私達は初代ボスが死んで今の二代目に引き継がれたのを察知していたもの」
哀の、膝に置いた手がぎゅっと握りこまれた。
「それっていつ頃なの?」
「確か、十六年くらい前かしら。その時期から組織の勢力が急激に拡大していったから間違いないと思うわ。それに以前は動きのあったボスが急に音沙汰無くなったし、あまり体が動かない、つまり弱っていると判断できたのよ」
「十六年前……」
ジョディは銃を置いて、何かを考え込んでいる少女のほうに振り向く。
「何か気になることでもあった?」
「少し、ね」
「それは聞かないほうがいいのかしら」
「そのほうが助かるわ」
すまなさそうに哀は肩をすくめて苦笑した。
日本人というより自分達アメリカ人がしそうな仕草だ。
「大丈夫よ。別に言わなくても今からの突入に害は全く無いから」
「それはわかっているわ。……でも、あまり思いつめないでね」
自分と似た境遇を持つ哀には特別思い入れがあるのか、優しそうに微笑んだ。
その彼女に、流暢な日本語の中に僅かに残る訛りのある口調は母を思い出させる。
カセットテープに残ったイギリス人の母の声と。
「ええ。ありがとう」
すっきりした顔つきで答えた。
十六年前引き継がれた、日本人で病弱な二代目。
哀の覚悟はそこで決まった。
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