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哀との「探りあい」に頃合をつけコナンが阿笠宅を去ろうとした時、携帯の振動が伝わってきた。
ボスの二代目説や哀のAPTX関連の話でいつもより冷静さを欠いていた彼は、彼女の目の前で電話を取った。
電話の相手はジョディ。
昨日の暗殺事件の経緯の話かと思ったが、それが本題ではないとすぐに悟ることになる。
「組織のアジトだと!?」
思わず叫んだコナンの声に哀がはっとする。
電話越しで今の彼らの状況を知らないジョディはそのまま話を続けた。
「ええ。覚えているでしょ? 昨日シュウが構成員を一人撃ったのを」
暗殺を未遂にした後、組織の構成員達は四方に逃げて行き、それをFBIやコナン達は追っていった。
街中で拳銃を発砲することはできないため、ただ車で追いかけるしかなかったのだが郊外まで出たときついに赤井が発砲したのだ。
サイレンサー付きの一発だけとはいえ、よく撃ったものだ。
赤井の銃弾は見事に防弾チョッキの合間を貫き、構成員の一人に当たった。
ジェイムズの車の中からその銃撃を見ていたが、致命傷ではないだろう。
ただ重傷には違い無さそうだった。
今まで慎重に動いていたFBIが発砲したという事実は、コナンに疑問を抱かせた。
撃っても逃げられる可能性が高かったのになぜ発砲したのか、と。
「……まさか」
コナンはある一つの考えに行き着く。
そんな見えない相手にジョディはうなずいた。
「そう。彼の撃った弾丸には発信機が埋め込まれていたの。それを摘出不可能な人体の一部に打ち込み、その撃たれた人物が行き着く場所を探知していたのよ」
えらく思い切ったことを。
内心コナンは舌を巻いた。
以前の毛利小五郎暗殺未遂の時にジンに向けて撃った赤井が、教訓として発信機を埋め込んだのだろうが、まさかそれを物にではなく人体に撃ちいれたとは。
彼にしか出来ない芸当だった。
「それで、アジトがわかったってわけか」
「昨日は闇医者にでも行っていたのでしょうね。発信機がうろついていたから。それで摘出しないほうが生き長らえると医者が判断したため、弾はそのまま人体に残った。早朝には再び発信機が動き始めて、さっきある場所に留まったところよ」
つまりそれが組織のアジトである可能性が非常に高い、ということで。
コナンは固唾を呑む。
「そのある場所っていうのは……」
「東京のとある郊外よ」
「東京……!」
まさかそんな近くに奴らが潜んでいたとは。
「しかも発信地点からして、あれは国立の医療研究機関がある場所よ」
「なんだって!?」
国の施設に組織がいるということはつまり。
「まあ、とは言ってもとうの昔に閉鎖していると国の資料には書いてあったけどね」
「今はその閉鎖状態のままなのか」
「表向きはね」
誰もいなくなった国の研究施設に組織がアジトを作ったということなのか。
何か嫌な予感が背中を走った。
「それで、ジョディ先生たちはどうするんだ?」
「発信機が気づかれるのも時間の問題だわ。そしてこの国自体が組織に関わっている可能性も出てきた以上、誰にも頼れない。米国に指示を仰いでいるうちに組織に感づかれる可能性も非常に高いから、行くのなら今日しかない」
「……強行突破ってわけか」
「東京で騒動を起こせばもしかしたら私達が逆にテロと思われかねない。でも、そうなる前に彼らを白昼の元に曝し出してみせる」
死ぬ気か。
コナンは一瞬思った。
だがジョディはそんな考えを見通したのか、ふっと笑った空気が伝わってくる。
「大丈夫よ。まったく勝機のないまま突入するわけでもないし、彼らを全滅させるのが目的でもないわ。あくまでも彼らの行ってきた犯罪を証明するものだけを手に入れることが最優先よ。……組織はまだ発信機に気づいていない。そして組織のボスはすぐには動けない体。速攻こそが私たちの勝機につながるわ」
「ボスを知っているのか!?」
「日本人で、おそらく病弱だろうってことぐらいわね」
「……」
文句は言わなかったが、彼の沈黙が、何故そこまで知っているんだと訴えた。
「あなたの倍以上の時間をかけて私たちは組織を追いかけているのよ? これくらいはすでに知っていて当然でしょう」
確かに、数十年かけてFBIは組織を追っているのだ。
手元にある情報量はコナンのそれをはるかに上回るだろう。
「で、ここからが本題。……あなたはどうする?」
声を低めて選択肢を与える。
自分で彼に伝えることを決めていたのに、それでも彼に断って欲しいと彼女は思った。
しかし、彼は不敵な笑みを浮かべて即答した。
「そこまで言っておいて行かないとでも答えると思った?」
今まで何のためにこうやって組織を追いかけてきたと思うのだ。
全ては元の体を戻して「彼女」の元へ帰るため。
そして、人々を苦しめる組織を潰すためだ。
こんな絶好のチャンスに居合わせないはずが無い。
――たとえ、死にも近い危険がそこにあったとしても。
言葉にはしなくてもジョディにはそのコナンの思いが伝わったらしい。
諦めにも似た苦笑が聞こえてきた。
「伝えはしたけど、私たちはあなたを実質的な戦力としては見なさないわよ?」
「それはわかってるさ。でも、俺には頭脳がある。それに俺の目的は組織を潰す以前に薬を手に入れることだ。それが達成しない限り無茶はしないつもりさ」
FBIのように銃を持つことは出来なくても、アドバイザー的役割なら十分果たせる。
以前の国会議員候補者暗殺事件においてこれは実証されているのだ。
それがわかっているからこそ彼女は「実質的な」戦力ではないと言ったのだろう。
「……わかったわ。あの子には伝えるの?」
「いつもなら黙っておくけどな。でも、今回ばかりはもう言うしかないと思うぜ」
横で会話をこわばった表情で見つめている哀をちらりと見る。
電話の内容は大体わかっているはずだ。
これで隠せるはずがないし、隠すつもりもなかった。
「そう。あの子のことはあなたに任せるわ。2時間後、そちらに迎えに行くから、準備をしておいてね」
「うん、……本当にありがとう」
――子ども扱いせず、同志として見てくれて。
心の中でそう付け足し、そのままピッと電源ボタンを押して切る。
自分の正体を知って知らないふりをしてくれる彼女を、本当にありがたく思った。
――彼女達となら、なんとかできる。
コナンには漠然とした自信があった。
心配そうな顔をする哀に、大丈夫だと言うように笑みを見せる。
しかし、その自信と共に何か胸騒ぎのようなものが彼にはあった。
ついに組織と対峙できる武者震いでもない、
ましてや恐怖でもない。
ただ、とても悲しいものが迫ってきているような気がしていた。
とてもとても、悲しいものが。
その悲しい正体を知るのはもうすぐだった。
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