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正午過ぎ、平次と和葉は横浜市内をバイクで走っていた。
平次の祖父宅を訪問した帰りである。
元政治家である祖父宅は寝屋川の服部邸を上回る大邸宅で、そんなところに縁の薄い和葉は訪問中緊張し通しだった。
優しい人だったがやはりああいうところは慣れない。
幼い頃から遊びに来ていた平次は全く気にしてないようだったが。
挨拶程度の訪問だったので、数時間話した後すぐ東京へ戻ることになった。
バイクに乗りちょうど東京と横浜の県境の休憩所に寄って、少し体を休める。
二人乗りというのはバランス感覚が必要となるので見た目よりも神経を使うのだ。
平次が備え付けの自販機でお茶を二本買って、バイクに凭れ掛かって待っていた彼女に渡す。
そして明るい声で告げた。
「和葉、俺お前を姉ちゃんちに送ったらまた出かけるわ」
その言葉に和葉の顔が曇る。
「一人で?」
「そうや。夕方頃には戻るし適当に理由つけといてくれへんか」
何も聞かないでほしいと彼の顔は言っていた。
しかし昨日から気にかかることがたくさん出てきた彼女は、そういうわけにはいかなかった。
「組織のところ、行くんやろ?」
開いていないペットボトルを両手で持ったまま彼に視線を合わせる。
バイクに凭れ掛かっていることもあり、少し見上げる形になった。
「昨日の夜探偵事務所の近所でジンを見つけてん。あの人、事務所を見張ってたわ。平次におっちゃんの監視を頼んでおいたのに自分でも確認してた。……それに、昨日は平次のおじいさんの政敵やった家系の国会議員のスキャンダルがあった日やし」
「……和葉、」
諌める様に平次が彼女の名前を呼ぶ。
しかし構わず言葉を続けた。
「あと、阿笠博士の家でAPTXのデータが入ったパソコン見つけたんよ」
平次が息を飲んだ。
「平次は何も言わへんけど、あの人、やっぱりそうなんやろ? 蘭ちゃんやそのお父さんは何も関係ないと思う。でも工藤君はやっぱり組織に……」
「和葉!!」
先ほどよりもきつい口調で呼ぶ。
そこから先は言ってはいけないと。
だが彼女は彼よりも更に声を上げて訴えた。
「わかってんねん! 私が組織のことを知ろうとしたり、平次達の行動に対して何も言ったらあかんことは!! でも、でもな……」
凭れ掛かってた体を立ち上がらせる。
そしてまっすぐ彼と向かい合った。
「心配くらい、させてえな……っ!」
搾り出すような悲しい声。
彼女の瞳は揺れていた。
少し、平次が驚いたように見えた。
「私は、真実を知る代わりに組織に関わらんことを誓った。それは約束やし破らん。でも、平次のことが心配やねん。心配で心配でたまらんねん」
そのまま和葉は俯いて黙ってしまった。
平次はそんな彼女を苦しそうに見つめていたが、暫くして頭をぽんぽんと叩いた。
「……心配せんでも、俺は大丈夫や。昨日かて無事やったやろ? お前は何も不安がることはないねん。何もな……」
それに、と付け足す。
彼女にだけ見せる穏やかな表情だった。
「あの薬の研究、消滅させたないんやろ?」
その言葉に和葉は俯いていた顔を上げる。
「俺はあの人の夢も実現させたい。そのためには、やらなあかんことがあるんや」
「そのために、今から行くんか?」
「そうや」
そこで彼らの会話は終わり、再び東京へとバイクを走らせた。
走っている間二人は無言だった。
米花町まで着くと、事務所から彼らが見えないぎりぎりの場所で彼女を降ろす。
そして今まで何回も言った言葉をまた繰り返した。
「あのお守り持った?」
「ああ、ちゃんと持ってんで。安心し」
そのまま平次は再びバイクに跨り、来た道を戻っていった。
彼の消えていった方向を和葉はずっと見た。
――それが二人で交わす最後の会話になるかもしれないとは知らずに。
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