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カウントダウン
作:yoshina



前編:1


「鳥取?」


 コナンはパソコンを打つ手を止め、哀のほうを見た。
 阿笠宅で彼は組織に関する様々な情報をネットを介して調べていた。
 水無のこと、クリスのこと、はたまた裏社会に関すること――……
 まだまだ知らないことがたくさんあるのである。
 蘭に疑われない程度の頻度で、阿笠宅のパソコンを借り情報収集に勤しんでいる。
 もうすぐ連休もあるので、その時には「お泊り」と称して思う存分パソコンを駆使するつもりでいた。

 しかし哀から思いもしない言葉を投げかけられ、それまで調べていたことが一瞬で吹き飛んだ。


「ええ。そこに父の生家があるのよ。もしかしたらそこに何か手がかりがあるかもしれないわ」


 哀はなんでもないことかのように振る舞い、コーヒーを啜ってキッチンからやって来た。
 そうして彼にも淹れたてのコーヒーを渡す。
 ちなみに博士は、地下の研究室で何やら怪しい物体を性懲りも無く作っているらしい。


「お前の父さん、鳥取出身だったのか。でも、そんな手がかりがありそうなところ既に組織が調べつくして、もう何も残ってないんじゃねえのか?」

「……多分それはないと思うわ。生家というだけで、そこに何年も住んでいたわけじゃないみたいだし。でも手がかりすら全くないというわけでもないんじゃないかしら」


 それもそうだけどよ、と言いながらコナンは渡されたコーヒーに口をつける。
 かぐわしい匂いが鼻をついた。


「そういう情報は願ったり叶ったりだけどさ、なんでお前今頃言うんだ? 前から知っていたんだろ? 父親の生家」


 非難とまではいかないものの思ったとおりの疑問を問いかけた。
 生家を知っているのなら、今まででも言う機会はあったはずだ。
 それを何故今教えるのか。


「別に。ただ頃合を見計らってただけよ。急に色々言っても混乱するでしょ?」


 哀は近くにあったソファに腰を降ろす。


「急に言うと混乱するような情報を色々持ってるってわけか」


 コナンは少し不機嫌そうな顔つきで言い返した。
 それはそうだろう。
 今だってこんなに必死で情報をかき集めているのに、目の前の少女は何の行動を起こさなくても様々な鍵を握っているのだから。


「あら、あなたに言われる筋合いはないわよ? あなただって私に言ってないこと結構あるんじゃないのかしら」


 心当たりがないとは言わせないわよ、と少し不適な笑みを浮かべた。
 その笑みに彼はぐっとつまる。

 確かに彼は少女に言っていないこともいくつかあった。
 しかしそれは信頼していないのではなく、彼女を気遣って言っていないだけである。
 いつか頃合を見計らって言おうと思っていた。

 つまり、今の哀の生家に関することも彼と同じようなワケで。


「……もういいよ。で? その場所は知ってるのかお前」
 
「いいえ。でも鳥取で住人のいない「宮野」という一軒家を探せばもしかすると見つかるんじゃないのかしら」


 誰の手にも渡っていなければ、の話である。
もし渡っていたとしても、その売買ルートをたどれば何かわかるかもしれない。


「なら高木刑事あたりに上手く言って住所探してみるか。あ、服部のほうが地理的にはそっちに近いし、両方当たったほうがいいかもな」

「あなたが居候してるところの探偵さんの声を使って頼んだほうがいいわよ。彼は色々な事件に手をつけているでしょうから、「宮野」と特定せずに他にもいくつか苗字の候補をあげといてそこから探索の依頼を警察にすれば、組織に感づかれることもないわ」

「そうだな。じゃあ感づかれないために、神奈川や逆の方向にある群馬県警辺りにも依頼してみたほうが無難だな。鳥取と断定されにくくなる」

「そうね。博士には言うの?」

「当たり前だろ。住所わかったところで行く手段がなかったらダメじゃねえか。お前と博士とで鳥取に旅行に行くとでも言えば蘭も疑わねえだろうしな」


 じゃあ早速博士に伝えてそれから警察に電話してみるよ、とコナンは言って椅子から立ち上がった。
 地下へ繋がる階段に向かう彼を見ながら哀はつぶやく。


「……そうよね。これで良いのよね、お母さん……」










 次の日、鳥取の「宮野」という家は案外あっさりと見つかった。
 結局一番望ましい回答をしてくれたのは高木刑事だった。
 同じ苗字で、今鳥取県警に異動中の高木長介刑事に連絡を取って聞いてくれたらしい。
 ちなみに、依頼は小五郎の声で「鳥取に宮野もしくは宮里、宮元という名の誰もいない一軒家はあるか」と言ってあった。
 なぜ3つも苗字を用意したかというのは、「いやー、依頼人の女性の初恋の人の名前が宮なんたらっていうそうなんだよ! 数年前鳥取で蒸発したらしいから、誰もいなくなった家をちょっと教えてくれないか」と言い訳してある。

 他の県警にも同じような内容で電話をしていた。
「鳥取」の部分は「静岡」や「神奈川」、「群馬」と地元ごとに変えてあったが。
 これで毛利小五郎が「鳥取の宮野という名の家」を探しているとは気付かれないだろう。
 ちなみに服部には嘘を言う必要は無かったので正直な話を電話したが「流石に鳥取にコネはないわ……」とすまなさそうに答えられていた。
 しかし高木刑事がすぐに見つけてくれたおかげで、思いの他早く行動が起こせる。


「鳥取の倉吉か。よし、明日は土曜だから早速行くか。博士、いつも悪いけど今回もいけるか?」


 高木刑事からの電話を終え受話器を置くと、後ろで様子を伺っていた博士に聞く。
 毎度毎度、組織のことを調べる時は彼に同行してもらっているのだ。
 彼無しでは子供だけで遠出をすることすらままらない。


「もちろんじゃ!では早速新幹線の切符を買いに行くとするかのう。哀君はどうするのじゃ?」


 同じく側にいた哀に聞く。


「もちろん行くわよ。私が言い出したんだし。それはそうと工藤君。一応言っておくけど、これは結構危ないことなのよ。くれぐれも突っ走らないようにね」

「バーロ、奴らとやりあったのは一回だけじゃないんだぜ。わかってるよ、それくらい」


 とはいえ、できることならば一回きりでケリをつけたいけどなあ、とコナンは付け足した。
 

「いつもいつも、あと少しというところで手がかりが消えているのはもう御免だな」


 とも言う。
 そろそろ決着をつけたいと思うのは当然だろう。
 かくれんぼはもう止めにしたいのだ。


 明日旅行に行くと蘭に伝えるため彼は阿笠宅を後にした。
 博士は新幹線の席の予約をするべくパソコンへ向かう。
 そして哀は、昼ごはんの仕度をしに台所へ足を進めた。





――いつもいつも、あと少しというところで……――





 先ほどコナンの言った言葉がなぜか、彼女の頭に残った。












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