後編:序章
高校一年生の、春の頃だった。
「きゃっ」
「うぉわっ」
突然後ろに振り返った拍子に階段を段差から足を踏み外した和葉は、平次に受け止められる。
幸い平次のほうが先に階段を降りていたため、下からしっかりと彼女の体を支えることが出来た。
「いきなり何やっとんねん! 危ないやろ!!」
「ご、ごめん……」
日曜の夕方、円山公園の桜を見ていた二人はそのまま八坂神社の階段を下って四条へ出ようとしていたのだ。
そんなに早く降りていたつもりは無かったのに、彼女がいきなり自分の左上から倒れてきたのでびっくりした。
平次の右目には大きな眼帯。
死角の右から倒れられたらえらいことになっていただろう。
そんな危機感と驚きから、思わず怒鳴ってしまった。
怒鳴ってから後悔したが言ってしまったものは仕方が無い。
いつもの彼女なら言い返すところだが、今日は謝るだけで理由は言おうとしなかった。
桜を見ていたときふと平次が漏らした一言が、和葉を再び公園へと振り返らせたのだ。
――なんで桜の下には死体があるんやろう
本当に死体があるのかと確認するように振り返った。
距離的にも、あの公園の桜が見えるはずも無いことはわかっていたけれど。
「けがはないんか?」
「う、うん」
――そんな痛そうなもんしておいて、私のほうを心配してくれるんやね
全く、ホンマどんくさいやっちゃなあと言いつつ平次は安堵した表情を浮かべて、彼女をしっかりと立たせる。
そして再び階段を降りはじめた。
和葉もその後を追って下る。
「なあ平次」
「ん?」
「来年も、一緒にここ来ような」
「ああ。ええで」
来年も、いくつになっても、また二人で一緒に……
|