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すっかり暗くなった杯戸中央病院に一機のヘリが夜に紛れ静かに向かってくる。
カモフラージュのため救急用のヘリに塗装されたそれには、ジンから特命を受けたウォッカと構成員数人が乗っていた。
予定していた時刻を過ぎ始めている。
「ちっ、今日は風が強いな。おい、降りれるか」
「もうすぐ風が止むと思いますので、少しお待ちください」
構成員のパイロットは風に煽られないよう巧みに機体を操縦する。
しかし早く実行しなければ、FBIの面々が気付いて戻ってきてしまう可能性もあるのだ。
彼は焦っていた。
その時脇に控える構成員の一人が窓を見て叫んだ。
「ウォッカ様! 着陸地点に誰かが来ます!!」
「何だと!?」
いくらなんでも早すぎるのではないか。
他の構成員がFBIを引き付けていたはずだ。
望遠鏡で確認すると、男二人が走って屋上にやって来ていた。
「二人とも男のようですが、ヘルメットを被っているため顔はわかりません。どうされますか? 撃ちますか?」
男達は何かを言い合いながらこちらを指差している。
FBIに違いない。
正体不明の男達を同じく望遠鏡で見下ろしながら、ウォッカは今何を一番優先させるべきか考える。
その答えはすぐに出た。
「……いや、撃つのはその2人じゃねえ。キールを撃て」
「キール様をですか!?」
「ああ。ジンの兄貴からは承諾を得ている。どうせ奪還しても殺すつもりだったしな」
予定は狂ったがキールを殺せば問題は無い。
ある筋から得た情報で、彼女は裏切り者だった可能性が非常に高いのだ。
「早くしろ!」
「りょ、了解!!」
両脇に居た構成員が窓から遠方用ライフルを身構えた。
「っ先生! あいつら俺等を狙ってへんで!!」
なんとか間に合った優作と平次は、顔を見られぬようヘルメットで隠しヘリを見上げる。
「あの位置からすると……水無怜奈の病室か!!」
組織の意図を悟った優作はポケットからあるものを取り出し上へと掲げた。
ためらっている暇は無い。
「日本ではあまり使いたくなかったけどね……!」
ダァン! という銃声と共にヘリの窓ガラスが割れる。
操縦ができる程度に機体にも何発か当てた。
左右に機体が激しく揺れる。
「ダメですウォッカ様!このままでは機体を安定させれません!!」
「くそっもういい!このまま引き上げろ!!」
「はっ!!」
飛び散ったガラスの破片で顔を切ったウォッカは歯を食いしばりながら、退避命令を出す。
このまま墜落するよりましである。
「またジンの兄貴にどやされるぜ……。しかしあの男共、FBIの人数にいたか……?」
あの二人を加えると把握していた人数を越えるのだ。
これも報告すべきだろうなと彼は血を舐め取って思案した。
「くそっ!こっちも逃げられてしもうたな……」
「そうだね」
平次は悔しそうにヘルメットを地面にたたきつけた。
一方優作はさほど悔しく無さそうだ。
第一の目的である、奪還阻止はできたからか。
サイレンサー無しで心配だったが、どうやら病院の者には気付かれなかったようだ。
交通量が多い都心の病院だったおかげである。
「これからどうする? あんたの息子と合流するか?」
構成員を捕まえたかどうかはわからない。
確保した可能性は低いだろうと二人とも予想はしていたが。
「いや、また彼らもこちらに戻ってくるだろう。ここにいたほうがいい」
携帯を取り出そうとした彼を制止する。
そして小型銃をポケットに仕舞った。
彼はそのまま息をすうっと吐いて平次に向き合った。
ちょうど、彼らの間に屋上の移動ライトがてらてらと明かりを灯す。
ライトのリングが二人を囲う。
「……それより、今ちょうど新一がいなくて都合がいいから、少し私の考えを聞いてくれないか?」
「先生の考え?」
「ああ。私も自分なりに組織のことや息子の周辺の謎について考えたんだ。でも一人で推理しても客観的な意見が無ければ、確証は薄いだろう? かと言って当事者である息子に聞かせても、正確な判断はできない。だから新一と同じレベルの推理力を持つ君の意見が聞きたいんだ」
「あの工藤優作の推理か。おもしろそうやん、ええで。聞かせてえな」
襲撃事件の直後とは思えないほど、優作は穏やかに提案し平次は興味深そうに返事をした。
「まず一つ目はベルモットと名乗る女性が計画した幽霊船事件。哀君を殺害しようとした事件だね。あの事件の後、記帳に書いてあった中で事情聴取に来なかった人物が1人だけいる。もちろん連絡先もわからない」
これは帰国してすぐに立ち寄った警視庁で聞いた事実だ。
「組織の人間が計画したパーティーなのだから、そこに仲間が潜入していたと考えてもおかしくないだろう? しかしそれだとある疑問が浮かび上がる」
「疑問?」
その探偵のような口調に、まるで工藤みたいやなと平次はふと思った。
「波止場でミズ・ジョディと相対したベルモットは仲間を一人だけしか呼んでいなかったことだよ。FBIを誘い込むなら、もっと大勢の仲間がいたほうがより安全だったはずだ。にも関わらず、彼女は一人しか呼んでいない。……彼女が組織に黙って計画を実行した可能性が非常に高いと言えるんだ」
組織が計画したものなら、あそこでベルモットが失敗して逃げるようなことはなかっただろう。
内密に実行したからこそ彼女はしくじったのだ。
「ではなぜ、黙っていたにも関わらず組織の人間が幽霊船のことを知っていたのか。……誰かが組織に、ベルモットの計画を密告したとしか考えられない。内密に実行された計画を知ることができた人物にしかそれはできないんだよ」
幽霊船のパーティーとその裏で操るベルモットの陰。
両方を知るものでなくては、それはできない。
「次に今回の息子の鳥取行き。目的地の宮野家が全焼したことだ。あの時も息子の行動を知っていなければできないことだった。正体がばれないのに行動がばれるなんてどう考えても不可能なんだよ。ということは残る可能性は唯一つ」
「……正体を知ってるけど、それを組織には教えず行動だけ報告したってわけやな」
「そういうことだ。息子の近くに、組織の構成員がいると考えて間違いない」
――誰かが宮野家に探りを入れようとしている。だから先手を打って家を消してしまえ。
そう組織に言えばいいのだ。
これなら正体を知っていてもそれをばらすことなく行動だけ伝えられる。
「そしてもう一つ。私はアメリカである驚くべき秘密を知った。それこそが、私が帰国した最大の理由だよ」
「秘密?」
「いわゆる、「黒の組織」のボスの名前。いや、コードネームと言うべきか」
風が彼らの間を吹き抜けた。
二人ともその風に臆することなくお互いに視線を合わせる。
彼らは何を考えていたのか。
「それは「ある人物」が書いた研究書に載っている「ある薬」の成分の一つだった……」
その成分を見て、彼は背筋が凍ったのを覚えている。
その成分から浮かび上がる人物はただ一人。
「パイカル。君が初めて新一に会った時に持ってきた酒の名前だよ」
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