序章
「そう………演技は完璧だった。あの子の、いや全ての者の前で」
そしてそれは私以外で。
そう彼は言うと目の前にいる男に向けていた視線を少し横にそらした。
あまりこの男を直視できなかった。
こんな真実を用意した男を。
闇夜の町に一閃風が吹いた。
満月が雲間から姿を見せる。
「彼女のことを必要以上に知っていたことがきっかけだったよ」
なぜ、あの時秘密を纏う彼女のことを賢いと言ったのか。
「そして、あの船での出来事がそれを決定付けたんだ」
真実を知って、ここまで後悔したことはない。
「………できればもっと違った場所で君とは会いたかった」
きっと楽しい会話が出来ただろう。
しかし目の前の男はまだ何も話さない。
「彼女に問いかけた言葉をそのまま返すよ」
彼は一旦一呼吸置いた。
他の者には言わせたくない言葉だった。
だからこそ、自分が言うのだ。
「君は、何者なんだい?」
男はその状況にそぐわぬ穏やかな笑みを浮かべた。
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