第10話 殺す気ですか!!
私達はいきなり現れた髑髏を見て、その場に固まってしまっている。
カタカタカタカタカタカタ………
相変わらずその髑髏はアゴをけたたましく打ち鳴らしている。
「あっ」
私の口からなんとも情けない声が漏れる。
し、しまったぁぁぁあ!! 私としたことがガイコツ(これ)の存在にまったく気が付かなかった!! いくらあの状況とはいえ、情けないたらありゃしない!!
私は今までガイコツ(これ)の存在に一向に気が付いていなかったと分かり、いささか自らを殴り倒してやりたくなった。
何故ならこのガイコツは―――
「キヤァァァァァアア!!」
不意に私の横で真琴さんが悲鳴をあげた。
そして悲鳴をあげたかと思ったら、真琴さんはあろうことか突然私の顔目掛けて飛びついてきた。
「ぶっ!!」
真琴さんが私の顔面目掛けて飛びついてきた瞬間、私の顔にとてつもない柔らかい物がぶつかった。
そして更に、私はとっさの事で反応が遅れ、そのまま勢い余って、真琴さん共々後ろ向きに倒れてしまった。
「ぐほっ!!」
不運なことに当然の事ながら倒れたさい、見事受け身をとることに失敗して後頭部を地面に思いっきり打ち付けてしまった。
後頭部には激痛が走り目の前には満点の星空が広がる。
しかし、ここで私は呻くことも悶えることも出来なかった。
何故なら、私はうめき声はおろか、息が詰まり呼吸すらまともにすることが出来なかったのだ。
すぐさま私は気道を確保しようと急いで頭を左右に振る。
するとどうだろう、私の顔を覆っている“ナニカ”は非常に柔らかいことに気が付いた。
フニュフニュフニュフニュ
柔らかい………非常に柔らかい。それでいて、妙に温かかった。そして、激しい『ドクドクドクドク』という音が聞こえてきた。
私は呼吸が出来ず、だんだんと朦朧としてくる頭で、つい先程起こったことを一つずつ思い出してみた。
ガイコツが突然頭上から落ちてきて、カチカチ、と喧しくアゴを打ち鳴らす→→→私はその正体に気が付き、目の前に出てくるまでまったくその存在に気が付かなかった私自身を恥ずかしい余り殴りたくなる→→→何故か悲鳴をあげた真琴さんが私の顔面目掛け、体ごと飛びついてくる。→→→そして、真琴さんが私の顔にぶつかった瞬間、私の顔にとても柔らな感触を感じる→→→そのまま一緒に倒れ、私は真琴さんの下敷きにされる→→→私の気道は彼女が私の上にいるため塞がれてしまい、真琴さんが私の顔に飛びついてきたさいに感じた柔らかな感触のナニカが、真琴さんが飛びついてきたまま私の顔の上に置かれている→→→そしてその“ナニカ”は柔らかい上に温かく、とめどなく『ドクドクドクドク』という音が聞こえる。
あれ? これってひょっとして………いや、ひょっとしなくても、これは真琴さんの………胸?
カァァァァァ
私はそうと気が付いた途端、顔が真っ赤になってしまった。
しかも、顔は火が付いたように火照り、身体も熱がでたようにどんどんと熱くなる。
や、ヤバい!! このままじゃ色々とヤバい!! ―――なんともグッド! いやいや、そうじゃなくて! あっ、真琴さんて見た目によらず、結構おお――って、アホか! 私は一体何を考えてるんだ! このままだと窒息死しちゃうだろうが!!
そのとき、私の脳裏に明日の学校一番の話題になるであろう記事が浮かぶ。
『神寺光。学校一番の美少女、白羽真琴の胸に潰され窒息死!!』
あぁ、この死に方は男として本望………ってちがーーう!! 早く真琴さんを退かさないと!! ――えっ? 勿体無い? 確かにそうだけど………ってだ〜か〜らぁぁぁぁあああ、このままだと、マジで窒息死するって!! ヤバい! こんな事考えてる間にどんどんと意識が遠のいて逝く………
「モガモガ」
私は最後の力を振り絞り、手足をバタつかせなんとか真琴さんを上から退かそうと試みる。
しかし、真琴さんは真琴さんで死に物狂いで私の頭を抱きかかえているため、失敗に終わってしまった。
というより、更に私の頭をより強く真琴さんの……その……む、胸に押し当ててきた。
ああぁぁぁ、マズイマズイマズイ!! 本気でマズイです!! 嬉し過ぎて―――じゃなくてマジで窒息死してしまう………って、ぎゃぁぁぁぁああ!! あ、頭が頭が割れるぅぅぅぅうう!!
真琴さんの腕に更に力が籠もり、抱き締めてるとかそんな甘い次元を軽く通り過ぎて、万力という拷問の道具へと姿を変えた。
完全に頭をホールドされ、全く動かせない。
頭がギリギリと締め付けられ、今にも割れそうになる。
どんどんと意識が遙か彼方へ飛んでいく。
私は真面目に死の予感がした。
ま、まさか正体不明の妖しに殺されそうになる前に真琴さんに殺されそうになるなんて………
そして不意に、またもや私の脳裏にある言葉がよぎる。
『神寺光。学校一の美少女、白羽真琴の胸に潰され圧死!!』
いやだぁぁぁあああ!! まだ、『胸に潰され窒息死』の方がいいぃぃぃ!! って違う違う。おいおい、どうしたんだよ、私! 死ぬ前提かよ、おい! くそ! 今度こそ、真琴さんを退かさないと……
しかしもう、身体に力が入らない。手も足も痺れてきた。
もう……ダ……メ……だ……
「キャァァァアア!!」
私のすぐ近くで超高音の悲鳴が聞こえ、危うく三途の川を越えそうになっていた私の意識が現実の世界へと帰ってくる。
そして、突如、今まで私の頭を締めあげていた真琴さんの腕と胸が解かれた。
空気が勢いよく肺へと入り込んできて、思わず何度も咳き込む。打ち付けた後頭部もズキズキと痛み、熱を帯びている。
「ゲホッゲホッゲホッゲホッ――」
今度は一体何があったんだ? さっきまであんなにムチャクチャな力で締めあげていたのに?
不信に思い真琴さんの方を見ると、彼女は腰が抜けたように地面に座り込み、ブルブルと震えて私の背後のある一点を見つめていた。
それを見ると、私は真琴さんの視線を辿って、自身の後ろへと振り返る。
するとそこには人間の形をした内臓の飛び出した、身体の左半分に覆っている筈の皮膚がないなんとも恐ろしい姿の化け物がいた。
それは直立不動で、私のほぼ真後ろに私を見下ろす形で立っていた。
ギロッ
飛び出した左の眼球が突然、うねうねと動き出し、上下左右様々な方向へ動いた後、片目だけで私を見つめた。
「わっ!!」
私はまたもや情けない声を漏らし、不覚にも少しビビってしまった。
うぅ〜〜、なっ、情けない………さっきといい今といい、こんなに近くに居るのに、自分の眼で確認するまで気付かなかったなんて!! ましてや、“彼”や“彼女”に少なからずビビってしまうなんて!! うわ〜〜ん、なんだか私、だんだんと自信が無くなってきたよ。
軽く泣きそうに成る程、自分を惨めだと思いつつ、私は“彼”に話し掛ける。
「あっ、あの〜。そこで一体何をしてるんですか? もしかしてあれですか? 私達を驚かそうとしてるんですか? 悪いですけど、ただ立っているだけじゃダメですよ、ジン――ぐえっ!!」
ぐぎゅ!!
ぐぁぁぁぁあああ!! 首が今『ぐぎゅ』って、『ぐぎゅ』って!! ま、真琴さん、いきなり人の首を力一杯捻りながら抱きつかないで下さい!! しかも捻った方向、逆ですから!! 分かってますか? 逆ですよ、逆!! 貴女って人はそんなに私を昇天させたいんですかあぁぁぁああ?
私が話している途中に変な事を言ってしまって申し訳ありません。
しかしですよ!! いきなり人の首を反対方向へ『ぐぎゅ』っと動かされたら、あんな声の一つや二つ出して当然だと思いませんか?
ちなみにですが、今の一連の動作を詳しく説明するならば―――
まず、私と真琴さんは向かい合って座ってました。
それで真琴さんが私の背後を見て、身体を震わせているから、私も彼女の視線を辿って、座った状態から左へ身体を思いっきり捻りました。
するとびっくり!! そこにはなんと“彼”が居るじゃないですか!
えぇ、認めますよ! 私はビビりました! ビビりましたとも!! これじゃ退魔師失格なんて知ったことじゃありませんよ!!
いや、これはまだいい。問題はその後ですよ!
私が“彼”に声を掛けようとしたら、なんと真琴さんはあろうことか、私の頭を両手でガッチリとホールドすると、すんごい力で、グリン、と私の頭を左へ回転させて、後ろにいた自分の胸へ向かって無理やり動かして、抱え込んだんですよ!!
いいですか? ここで重要なのは、真琴さんが私の頭をどの方向へと動かしたかにあるんです。
そう!! 私はさっき左へと頭を捻ってたんです! そしたら、真琴さんは更に力任せに私の頭を左へと動かしてくれたんですよ!!
どう考えたっておかしいじゃないですか! だって、人間の首を動かせる行動範囲の限界より向こうへと動かそうとしたんですよ!! そりゃ、首も『ぐぎゅ』って鳴りますよ!!
「……うっ……うっ、うっ……」
ピクッ! ピクピクッ!!
い、いかん! これはさっきよりマズイ状況下にあるぞ!
何故なら、首を無理やり行動範囲を越えて動かしたせいで、身体のアチコチが言うことを聞いてくれなくなってるから! しかも、ピクピク痙攣を起こしてるし………それに、未だ身体と頭がそれぞれ不自然な方向にあるし……
つーか、これ普通死んでますよ! 我ながら自分の身体が恐ろしい……
いや、結果的にまだ生きているから何も言うまい。
ギリギリ………
イダダダダダダダダ!! い、痛い! 痛いですよ、真琴さん! またですか!? またなんですか!! 貴女って人は、また人の頭を万力のごとく力で潰す気なんですか!?
ギリリッ!!
うぎゃぁぁぁぁぁああああ!! だから、痛いですって! 明らかにさっきより力が入ってるって! せっかく嬉――じゃなくて、そんな力で締め上げられたら、マジで私の頭が割れてしまうよ、真琴さぁぁぁぁぁぁん!!
「……いや……」
グイッ
真琴さんは小さく拒絶の言葉を呟きながら、私の頭を抱き抱えたまま身体を左へ捻り、左手を私から離して廊下に手を付け、少しでも彼から遠ざかろうとした。
いやああぁぁぁぁあああ!! ひ、左に! 左に動かないで下さぁぁぁぁい!! 冗談じゃなくて、本当に昇天しちゃいますってぇぇぇぇぇえええ!!
しかし、真琴さんが左へと身体を動かしてくれたお陰で、なんとか前方を確認する事が出来るようになった。
だが、見えると言っても片目だけだった。もう片方の目は、相変わらず抑え込まれているので、目を開けることが出来ない。
私は片方しか見えない目を精一杯動かして、辺りの様子を知ろうとした。
まず目に入ったのは、私たちの目の前に立ち、両手をまるで映画に出てくるゾンビのように前に突き出し、足を一歩踏み出した状態で止まっている“彼”が目に入ってきた。
顔を見ると、口の端を上げて笑っているように見えた。―――正直いって、凄まじく不気味だ。
次に目に入ったのは、こちらから見て“彼”の右斜め後ろに居る“彼女”だった。
“彼女”は手や足をやたらめったらに動かして、何かを仕様と必死なようだった。
つまり、こちらはお取り込み中と言うことだ。
自分で直せないんだから、わざわざバラバラに成って現れなくって……
私は思わず、真琴さんの腕の中でほくそ笑む。
自分で言うのもなんだが、私は今、よっぽど不気味なんだろうなぁ…… と言うより、不気味を通り越して壮絶な笑みを浮かべているに違いない。あっ、ほら! “彼”だってビックリした顔で私を見ているし。………あれ? なんかもう、身体からあまり痛みを感じられなくなってきたぞ。相変わらず、顔と身体は不自然な方向にあるけど。あっ、そうか! あれか! 所謂『死ぬ直前にそれまで苦しかったものが、少しずつ無くなって楽に成っていく』と言うやつか。いやだなぁ〜、まだ死にたくないなぁ〜。死んだら祟るぞぉ〜。
不意に私たちの頭上にある気配を感じた。
こっ、この気配はまさか!
間違いようが無い。これは“あの子”の気配だ。
しまったな。“彼”や“彼女”が居るんだから、“あの子”がここに居ない筈が無いのに、すっかり忘れていたよ。
頭痛を感じずには要られない。しかし、身体の自由が利かない今では頭を抱える事は出来なかった。
思わずため息が零れる。
今度は一体どんな悪戯をしてくるのか……… おや?
突然、頭上にあった気配がこちらに向かって接近してきた。
なんか、嫌な予感……
そう思った矢先。突然視界の中に、黒い影が舞い降りてきた。
「ヒッ!!」
私の顔の横で真琴さんが小さく悲鳴を上げた。
顔は私の顔の角度上確認する事は出来ないが、“あの子”が降りてきた時、真琴さんの身体が一瞬飛び上がったため、恐らくは恐怖で目を見開いているのだろう。
改めて意識を前方へと向ける。
そこには言わずもがな、“あの子”が居た。
しかし、その格好は凄まじく異様だった。否、どちらかと言うと不気味とか気味が悪いと言った方がしっくりとくる。
例えるなら、そう―――今の“あの子”の姿は『上から無造作に吊り下げられた操り人形のピエロ』そのものだった。
うつ伏せの状態で、頭は力無く下へと垂れ下がり、右腕は不自然な方向へねじ曲がりながら上へ吊されている。また、左腕は左腕で、身体からほぼ直角に横へと突き出ていて、丁度肘の辺りでこれまた直角に折れて、地面に向かって垂れていた。
身体も激しくねじ曲がっており、右足が殆ど真上にきている。そして、これまた有り得ない方向へねじり曲がっている。
恐らくこの姿が出来る人間はそうは居ないだろう。どっからどう見ても変死体にしか見えない。
それくらい、今、私たちの目の前に広がっている光景は凄まじかった。
不意に、垂れ下がっていた頭が上へと『ギギギギ』という擬音語が聞こえてきそうなほど、ぎこちなく機械的に上がってきた。
上がってきた顔は最初目を瞑っていたが、完全に顔が上へと上がると、数秒の時間を置いて大きな目を見開き私たちを正面から見据えた。
その眼は小さな顔には明らかに不釣合いなほど大きく、おまけに人の目の比較的大部分を占めている黒目が極端に小さく、見るからに人間の眼をしていなかった。
白目の部分が月の光を受けて、猫の目の様に怪しげな光を放っている。
それを見た瞬間、真琴さんの身体が恐怖で強張るのを、真琴さんの身体を介して私に直に伝わってきた。
そんな私たちを見て満足したのか、“あの子”は大きな口を、ぐわっ、と開くとケタケタと笑い出した。
不気味な笑い声が、辺りを満たす。
「ヒッ」
私の頭上で、真琴さんが小さく悲鳴をあげる。身体もカタカタと可哀想なほどに震えている。
流石にこれ以上は真琴さんでも、精神が持たないかも知れない……
私はそう思い、半場無理やりに声を搾り出す。
しかし、それよりも早く動くものがあった。
一瞬真琴さんの身体が跳ね上がり、私の視界に黒い影が現れる。
「いやぁぁぁぁあああ!!」
その黒い影は真琴さんの悲鳴に合わせるかのごとく、“あの子”方へと一直線に伸びていく。
そして―――
ドガンッ!!
「みぎゃ!!」
なんとも可哀想な声が聞こえてきた。
その声の主は、渡り廊下の床に突っ伏している。
そして、その頭には正真正銘真琴さんの右足の踵が置かれていた。
うわーお! いっ、痛そう〜。………そうか。さっき私が声を出す直前にどうして真琴さんの身体が一瞬跳ね上がったのか分かったぞ!
つまりはこういう事だ。
恐怖に耐えられなくなった真琴さんが“あの子”に、座った状態という無理な体勢からカカト落としをその頭にお見舞いしたという事だ。
それにしても、相変わらず凄い―――元い、惨いことをするなぁ。一応、お化けだから死にはしないだろうけど、それでも今、死の淵を彷徨ってるに違いない。だって、今絶対手加減していませんでしたよ! あっ、ほら。頭から白い煙まで出ているし……
私は真剣に手を合わせて祈るべきかと考えてしまった。
しかし、結局は呑気な考えであるそれの答えを出す前に、私の思考はあっさりと真琴さんの手によって強制的に遮られることになる。
真琴さんは息を切らせながら、“あの子”の頭から素早く足を退けると、勢い良く立ち上がる。
その際、真琴さん腕から私の頭は久々に解放された。
頭と身体も元の正常な状態へと戻った。
私は、ほっ、と安息のため息をつく。
そして、身体を起こそうと試みたが、残念ながらまだ身体を上手く動かすことが出来なかった。
しかし、手足の痺れはもう感じられず、指先も殆ど自由に動かすことが出来た。もう少し時間が経てば、完全に回復出来そうだ。
我ながら、何という回復力なんでしょうか…… 本当に自分自身の身体がおそろしいですねぇ……
不意に右肩を誰かに掴まれた。
「ヒカリ、行くわよ!!」
私の肩を掴んだ主は、どうやら先ほど立ち上がった真琴さんだった。
「へ? ど、どこにですか?」
私はなんとも間抜けな声を出しながら、目を白黒させた。
そんな私を見て、真琴さんは軽くその場で足踏みしながら、私に怒鳴り声を上げた。
「どこに、ってそんなの決まってるじゃない!! 逃げるのよ!! 今すぐに! ここから!!」
「やっ、ちょっと落ち着いて下さい! こちらにいる皆さんは安全ですから!」
私はそう言って“あの子”らの方を指差す。
見ると“あの子”は未だ頭から白い煙を出しながらピクリともせず、床に突っ伏している。そして、その横では“彼”と“彼女”があたふたとしていた。
“彼”は焦りの余り、自らの首をグルグルと回しながら、何をどうすればいいのか分からない、と言った感じに忙しなくドタバタとしている。“彼女”に至っては、バラバラになっているため頭蓋骨だけ、“あの子”に近づき、ピョンピョンと跳ねている。
私はそんな可笑しな光景を指さしながら、開いた口が塞がらなかった。
しかし、真琴さんはそんな可笑しな光景には目もくれず、私を急かす。
「つべこべ言ってないで、さっさと立ち上がりなさいよ!!」
「うぅ〜〜」
ようやく真琴さんの本気のカカト落としを食らっていた“あの子”がこちらの世界に戻ってこれたようだ。
それを確認すると真琴さんはいきなり、私の袴の襟をむんずと掴んだ。
「ヒカリ! 急ぐわよ!!」
そう叫ぶや否や真琴さんは今にも駆け出す体勢をとる。
「ちょ! ちょっと待って下さい!! そのまま走ると首が閉まっ――ぐえっ!!」
私の制止も虚しく、そのまま真琴さんは走り出してしまった。
襟を持たれているため首が締まり、更には身体も思うように動かせず、なすすべも無く引きずられて行く。
せ、背中がぁぁぁぁあああ!! と言うか首が締まってますよぉぉぉぉおおお!! 真琴さぁぁぁぁん、離してくださぁぁぁぁああい!!
当然首が締まっているため声を出すことが出来ず、かと言って心の声も聞こえるはずが無く、私はすんごいスピードで引きずられて行く。
「うぅ〜〜、いったぁ〜〜〜い!!」
後方から大きな声が聞こえてくると、その正体は先程真琴さんのカカト落としを食らっていた“あの子”が頭を両手で抑えながら、目に一杯の涙を浮かべて私と真琴さんを追いかけて猛スピードでふわふわと宙に浮きながら追いかけて来ていた。
その後ろには、“彼女”の頭蓋骨を抱えた“彼”も走っていた。
「くそ。もう追いついて来たの!? ―――わぁ!!」
やはり後方の声に気がついた真琴さんは、後ろに振り向きつつ軽く悪態を付く。
しかし、次の瞬間、後ろへ気を取られていたためにバランスを崩してしまった。
ガツン
その際、猛スピードで回転していた後ろ足が、私の後頭部へとクリーンヒットした。
「ぐはっ!!」
真琴さんも後ろ足を私の後頭部へぶつけてしまったためバランスを取ることが出来なくなり、そのまま横転してしまった。そして、その時真琴さんは私の襟を掴んでいた手を離してしまう。
バタンッ
「ぐほっ!!」
私を掴んでいた支えが無くなってしまった為、真琴さんが倒れるのに合わせて私の頭も床へと激突する。
一度に二度も後頭部への強烈な一撃を受けてしまい、私は最早気を失いそうになってしまった。
目の前には、先ほど見えた満天の星空を通り越し、銀河系が姿を現す。
「このぉ〜〜!!」
“あの子”が文字通り空を飛びながら、私たちの元へ向かって猛スピードで突っ込もうとしている。
「えぇい。どうにでもなれ!!」
真琴さんはそう叫ぶと立ち上がり、いつでも攻撃出来るようにと右足を一歩後ろへと下げて身構える。
二人が衝突するまで残り十秒。
九……
八……
七……
六……
五……
四……
三……
二……
一……
そして――
「ストーーープ!!」
私は無理やり身体を起こすと両手を一杯に広げ叫ぶ。
間一髪。私は二人の動きを止めることに成功する。
先ほどまでとは打って変わって静寂が辺りに訪れる。
その中私は一人―――
「あ、あだだだ!!」
―――首と後頭部を抑え、襲ってくる激痛に悶絶していた。
|