挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

ショートショートの駒台(金・銀)

ポップ・ポップ

 学校からの帰り道。僕は憂鬱を蹴り飛ばしながら歩いた。運動会の練習が原因だ。
 元より音楽も体育も苦手だった。なのに運動会でダンスを踊らなければいけないなんて、重いランドセルを二人分背負っているようなものだ。なぜこんな苦しみを味わわなければならないのか。疑問はつのるばかり。
 大きく蹴り飛ばした小石が転々と転がり、道をそれて空地へと入っていった。目で小石を追いかける。そこには一人の男がしゃがみこんでいた。
 男のそばにある大きな機械。ガラスで仕切られた四角い空間に、銀色の小さい鍋が浮かんでいる。見たことがある。あれはポップコーンマシンだ。
 僕の足は自然と引き寄せられていた。
 男はガラスの扉を開けて、鍋の中に何かを放り込んだ。
「おじさん。何を入れたの?」
「ポップコーンの原料さ」
 覗き込むと、鍋の中には小さい虫がうじゃうじゃとうごめいていた。

 ――いや、虫じゃない。これは人間だ。スーツ姿のサラリーマンが鍋の中で騒いでいる。
 もっとよく見ようと近づく僕を制して、男は扉を閉めた。
「今から呪文を唱えるから、下がって見てな」
 男はそう言うと、ポップコーンマシンに向かって問いかけた。
「人が生きる意味とは?」
 静寂の後、鍋が震える。
 ガタガタ。
 ガタガタ。

 ポップ!

 鍋の中からポップコーンが一つ飛び出した。
 それをスタートの合図に、次から次へと。

 ポップ!
 ポップ!
 ポップ!

 マシンの中にポップコーンが溢れていく。

 ポップ!

 ポップ!

 はじける間隔が長くなる。

 ポップ!

 ――やがて、音は聞こえなくなり、また静寂が訪れた。
 男は満足そうにうなずいた。
「これで出来上がりだ」
「何で? 何であの人たちは、はじけたの?」
「難しいことを考えると、固い頭がはじけるのさ」
「何ではじけるの?」
「考えると熱くなるのさ。その熱ではじけるんだ」
「何で熱くなるの?」
「考えるのにはエネルギーを使うのさ」
「何で?」
「物が動くためにはエネルギーがいるんだ。頭を動かすためにもな」
 分かったような、分からないような。
 僕はさらに問いかけた。
「おじさんは何でここにいるの?」
「ええと。それはだな……。ちょっとまてよ、難しい質問だなあ……。うーむ……」
 男は頭を抱えてしゃがみこんだ。
 しだいに顔を赤くして、全身を震わせて、髪の毛を逆立てると――

 ポップ!

 湯気の上がる大きなポップコーン一粒。

 ありったけの疑問を吐き出した僕は腹ペコだった。
 漂う香りに誘われて、おそるおそるかじりつく。
 何度噛みしめても答えの出ない不思議な味。
 僕はその疑問を飲み込んで、少しだけ大人になったような気がした。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ