ファルはアビブと共に、赤き鷹のボスのもとへ向かう。
ボスは赤き鷹のアジトの一番奥の部屋にいる。
そこへファルとアビブは向かう。
ボスがいる部屋の前へ来ると、ファルがノックした。
「入れ」
高めの、間延びした声が返ってきた。
ボスの声である
「失礼します」
ファルは恐る恐る入る。
そこには、とてもぽっちゃりしているが、結構チャーミングな男が椅子に座っていた。
その男こそ『赤き鷹』のボスである。
「ファル、仲間を50人も殺されたんですってねえ?」
ボスが見下した様な眼でファルをにらみつける。
「・・・はい」
ファルは恐る恐る口に出す。
「アビブに聞いた所によると、殺したのは死神だとか?」
「はい」
「そうですか〜。あの死神に出くわしちゃうとは不運でしたねえ。
ですけどねえ、やられっぱなしでいるっていうのは赤き鷹の名がすたるんですよ。
やられたんならやり返す!それがウチのやり方です。
・・・言っている意味分かりますね?」
ボスが言いたいことは、すぐに分かった。
死神を殺せということだ。
だが、無理な事は誰もが分かる事である。
「死神を殺せと!?無理ですよ!
死神がどういう奴か知らないわけ無いでしょう!」
ボスは前のめりになって凄み、言う。
「ファル、お前の意見は聞いていません。
奴の顔を見たのはお前しかいないん・だ・か・ら、お前が殺すんです。
理解しなさい」
「で・・・ですが・・・」
サンがどれ程強いか、優しい人かを知っているだけに、
いかにボスの命令でも言うことを聞けない。
ファルは迷う。
「ファ〜ルゥ〜、私の命令が聞けないんですかあ?」
ボスがファルの顔すれすれまで顔を近づけて、
ファルの眼を物凄い眼で睨みつけてくる。
「っ・・・・・分かりました」
ボスの物凄い威圧感に、ファルは逆らうことが出来なかった。
渋々命令に従う。
「よろしい。まあ心配せずとも後で加勢に行きますよ。
ただでは殺しません。存分に痛めつけてから殺すのです!
ですから、私が着くまでは殺してはいけませんよ。
ほぉっほっほっほ!
・・それと、
アビブも手伝ってやりなさい」
「了解」
「さあ、いきなさい!」
ファルとアビブはボスの部屋を出る。
ファルはこれからどうしようか考える。
(とりあえず、サンにこの事を話した方がいいよな・・・・。
それに、アビブもサンの顔を見ているしな、
もしアビブがサンが死神だと気づいたら・・・)
そこへ、アビブが話しかける。
「ファル、死神ってえのは、酒場にいたあの女だろ」
「えっ!!!」
ファルは、いきなり図星をつかれて動揺する。
「なっなんでそう思うんだ?」
「いや・・・なんとなくだが・・・。
お前のその反応からしてそのようだな」
ファルは、とっさに否定する。
「いやあ、違うよぅ。ぜーんぜん違う」
明らかに嘘と分かる声だ
アビブはすぐに嘘だと分かる。そして笑みを浮かべる。
「お前は相変わらず嘘が下手だな。
そうか、あの女がね・・・」
そのころサンは宿屋にいた。
サンは現在、人探しの旅をしている最中である。
偶々この町に長居をしているだけで、決して住んでいるわけではない。
サンは宿の部屋で愛剣を手入れしていた。
普段はこの剣を身に着けているが
この町では何故か身に着けたいと思わなかった。
何故か昔を思い出す。
決して思い出したくない血塗られた過去。
サンはどこか遠くを見るように、窓から外を見た。
「・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・似てるんだな、あそこに・・・・・」
何故か、物凄い脱力感に襲われる。
気疲れというものか。
どれだけ時が流れようとも、未だ眼に焼きついて消えない光景。
・・・・・見える。
・・・・・悲劇の光景。
・・・・・見える。
・・・・・大勢の帝国軍。
・・・・・見える。
・・・・・笑う男。
・・・・・見える!
その時、サンは我に返る。
「・・・・・酒でも飲もう。こんな気分の時はそれが一番だ」
サンは過去を振り払うかのように酒場に向かった。
サンは剣を身に着けていた。
何故か今はそんな気分だった。
同じ頃、ファルはサンを探していた。
ファルは町中を駆け回りサンを探す。
だが、いくら探してもサンが見つからない。
「あーもう何処にいるんだ!?他にあいつが立ち寄りそうな所といえば・・・・・、
・・・酒場でも覘いてみるか」
ファルは片っ端から酒場を覘くが、サンが見つからない。
「何でいないんだ?くそー、
・・・・他に行ってないところは・・・・・、
レイナの所を行ってないな・・・・」
レイナが働いている酒場へ行く。
「おーす!サン居るか?」
酒場にはレイナとマスター、他に数人の客がいたが、
サンはいなかった。
「くそー!いねぇーーー!!!」
ファルは叫んだ。
ファルの叫び声を聞いて、レイナがファルに気づく。
「あ、ファルさん。どうしたんですか?」
「おっ、レイナ。サンを知らないか?」
レイナは知らない。
「知りませんけど、どうかしたんですか?」
ファルは頭をかく。
「ちょっとヤバい事になってな・・・・」
レイナは心当たりがある。
そう、前にサンが赤き鷹の人を蹴っ飛ばしたことがある。
もしかしてその仕返しに来たのではと、不安になる。
「・・・もしかして、赤き鷹がサンさんを・・・」
「ああ、そうなんだ。
だから早く知らせないと」
レイナは不安が的中し、サンが心配になる。
「そう・・ですね・・・。」
ここで一つの疑問が出てくる。
ファルは赤き鷹の一員なのだ。
同じ仲間の邪魔をする理由が分からない。
「・・あの、ファルさんは赤き鷹の人ですよね。
何で知らせようとするんですか?」
ファルは笑いながら答える。
「そりゃあ、結構良い人だしなあ、あの人。
それに一緒に酒を飲んだ奴は絶対助けると決めているんだ」
「・・・なにそれ」
レイナは怪訝そうな顔をする。
「まあ良いじゃねえか。
それにもしかしたら仲間が、この店に何かするかもしれないしな。
早いとこサンに知らせて、仲間に会わせないと。
そうすれば、この店に仲間がやってくることは無いと思う」
「たしかに、この店に何かされるのは嫌だしね。
サンさんが来たら、ファルが探してたと
赤き鷹がサンさんを殺そうとしているって知らせます」
「ありがとう助かるよ。
それじゃ、俺はサンを探してくるよ」
レイナはファルに願いを託すように言う。
「頼みます」
ファルはまたサンを探しに町中へ行く。
しばらくして、サンが酒場へ来た。
サンは酒場の前まで来ると、
誰かが体育座りで酒場の前に座っているのが見えた。
レイナだった。
サンは何かあったのかとレイナに近づくと、
レイナは泣いていた。
「うぐ・・・ヒック・・・・」
サンは優しくレイナに話しかける。
「どうしたんだ?」
「マスターが・・・皆が・・・・」
店の中を見るとそこにはマスターや客たちが、見るも無残な姿で死んでいた。
サンは店の中を数秒見つめると、
レイナに聞く。
「・・・・・・奴らか?」
サンは聞くと、レイナはうなずいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そこにファルがやって来た。
「あっ!サンここにいたのか、探したぞ!」
ファルはサンに駆け寄る。
するとサンはファルの喉元に剣先を向ける。
サンはファルを睨み付けるでもなく、ただ何の感情もなく見つめる。
「・・・・どういうつもりだ」
ファルは突然剣を向けられて、困惑する。
「どういうつもりって・・・」
ファルは酒場を見て酒場の惨状を知る。
遅かった!とショックを受ける。
「こっこれは・・・・、遅かったか・・・
クソ!」
サンは無表情。
「遅かった?お前がやったんだから、遅いも何もないだろ」
「こっこれは違う、俺じゃない!」
ファルは必死に否定する。
だが、サンは聞き入れない。
「例えそうだとしても、お前が関係してない訳ではないだろう?
私が死神だと知っているのは、レイナとお前だけだからな。
お前が、仲間に教えなければ
少なくとも、この酒場の奴らが死ぬことはなかった」
「っ・・・・・・・・確かに・・・・・・そうだ・・・・」
ファルは、自分は何て無力なんだろうと痛感する。
ボスに逆らえなかった上に、この店に危害が加わらないよう
サンを早く見つけて仲間に合わせようとしても、出来なかった。
そこへレイナが躍り掛かる*1。
その勢いで、ファルは尻餅をつく。
「何で・・・何で!・・・・・
もっと早くサンさんを連れてこなかったのよぉ!!!」
レイナがファルの胸を叩きながら、泣き叫ぶ。
「・・・・貴方がのんびりしてるから・・・・、
マスターや・・・・みんなが!・・・・う゛う゛・・・。
何でよう!!!あ゛あ゛ーーーーーー!!!」
レイナは泣き崩れる。
ファルはレイナをそっと胸にいだく。
「・・・俺が悪かった。
俺がもっと早くサンを見つけていれば、こんな事にはならなかった・・・・・」
サンは、ファルが酒場を仲間から守るために自分を探していたことを悟る。
「ファル、お前は私を探していたのか。
この酒場から、仲間の気を逸らすために・・・・」
「・・・・・ああ」
ファルはうつむく。
数秒の沈黙が走ると、
サンは背を向き、言った。
「ファル、レイナ、心配するな。
私に任せろ、
私が全てを虚無に帰す」
まったく感情のこもってない声だった。
だが、怒りがこみ上げているのが分かる。
声からは想像もつかないほどの、怒り。
そして、人とは思えないほどの冷酷さを感じる。
ファルは思わず苦笑いをする。
「・・・・あんたなら、それが出来そうで恐ろしいよ」
その時!
ナイフが3本、ファルに向かって飛んできた!
サンがそれに気づくと、剣で全てはじき落とす。
ナイフが飛んできた方向を見ると、
そこには、アビブやその仲間たち約30人、
そして赤き鷹のボスがいた。
ボスが見下した眼でファルを見る。
「ファ〜ル〜。
私は、死神を私が着くまで殺すなとは言いましたが、
仲良くしろと言ってませんよ」
ボスが物凄い眼でファルを睨みつける。
ファルは固まっている。
「私を裏切るんですね?私たちを裏切るんですね?
裏切ればどうなるか、君も知らないわけ無いですよねえ?」
「・・・・・・・・・」
ファルは何も言わない。
ただ、顔がこわばっている。
「何か言ったらどうです!」
ボスは怒鳴りつける。
「・・・・・・・・・・・」
ファルな固まったまま。
まったく動かず喋らない。
「・・・・・・まあいいでしょう」
ファルが何も言わないので、裏切るつもりだと判断する。
今度は笑みを浮かべながら、サンを睨みつける。
「始めまして、死神。
私は『赤き鷹』のボス、ダグマイヤ・マスティン。
君の名前は?」
サンは無表情で答える。
「・・・・これから喰われる者に名乗る名など、持ち合わせていない」
「ホ!ホォッホッホッホッホ!
これだけの人数を相手に、勝てるとでも!?
いっときますが、この前の雑魚共と一緒にしてもらっては困りますよ。
この前とは違って、私もいることですしねえ」
サンは哀れむような眼で見、言う。
「死神を殺そうなど、思い上がりも甚だしい」
そう言うと、サンは愛剣を構える。
「さあ、死神に魅入られし者共よ、最後の晩餐といこうか」
注訳
*1 躍り掛かる=激しい勢いで、飛びかかること。
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